幸福な人ほど長生きする!はどこまで正しいのか問題
幸福な人は不幸な人より2倍も長生き
ちょっと前に「幸福な人ほど長生きだ!って説には反論も多い」って話を書いたところ、「もっとくわしく!」ってご要望をいただいたので書いてみます。
もともと「幸せな人ほど長生きなんじゃない?」って説は、2011年にサイエンス誌に出た「幸福な人ほど長生きする」ってタイトルの論文(1)がベースになっております。著者は経済学者のブルーノ・フライ博士で、日本だと「幸福度をはかる経済学」で有名な先生。
その趣旨はタイトルどおりで、要は「自分は不幸だ!と答えた老人は、自分は幸福だ!と答えた老人にくらべて、続く5年のあいだに死ぬ確率が2倍になった」って結果が出たんですな。この傾向は、病気や経済事情、鬱病といった要素を調整しても残りまして、もっとも幸福度が高かった老人は、早期死亡率がおよそ35%も低かったとか。
たんに健康な人は長生きするだけ?
この結果はポジティブ心理学の世界なんかで大々的にもてはやされまして、日本抗加齢学会でも「幸せこそアンチエイジングの鍵!」みたいに言われておりました。
が、そこに冷や水をぶっかけたのが2015年のランセット論文(2)。「幸福は寿命に直接的な影響があるのか?」ってタイトルで、約72万人の女性を10年にわたって追いかけた観察研究になっております。
で、その結果がどうだったかというと、
- 確かに幸福感が高い人ほど長生きで、不幸感が強い人ほど短命な傾向はあった
- ただし、個々人の「健康状態」をメインに統計を調整すると、うえの相関は消えた
だったんですな。言い換えれば、幸福だと長生きするんじゃなくて、結局は「健康状態がいい人は長生きする」っていう非常に当たり前の結果が出たわけですな。
健康な人ほど長生きするだけでは?
研究者いわく、
この結果は、幸福が長生きの原因にはならないという事実を示している。幸福それ自体は、長生きには影響がない。たんに不健康な人は不幸になるケースが多いため、そのせいで早期死亡率が高まるのだろう。
とのこと。幸福だから長生きするんじゃなくて、健康な人ほど幸福度が高いだけじゃないのか、と。いかにもありそうですよねぇ。
さらに、このデータを見ると、
- 健康だけど不幸感が大きい人
- 健康で幸福度も高い人
をくらべた場合、両者にはとくに死亡率の差は出てないんですよ。これはなかなか説得力がありますな。
いろいろ書いたが結局はよくわからない(笑)
もっとも、このランセット論文についても「どうかなー?」って点はありまして、ちょっと「いろんな要素を調整しすぎじゃない?」とも思うわけです。たとえば、この論文では「睡眠の量」や「運動量」なんかもコントロールしてまして、そこまでやっちゃうと、今度は「幸福な人ほどよく眠って運動するから健康なのでは?」って説には反証できなくなるんですよね。うーん、難しい。
ってことで、いろいろ書いてきましたが、要は「幸福が健康をもたらすかはまだわかってない」ってことです(笑)。まぁ、前に紹介したカリフォルニア大学論文では、幸福な人は生活態度が正しくなるから健康なのだ!って傾向も出てたり、いくつかのRCTでも「幸福度が増したら健康になった」って結論もあったりするんで、個人的には「やっぱ幸福は健康にはいいんだろうなぁ……」って方向に傾いてますが。
いずれにせよ不幸よりは幸福なほうがいいんで、皆さまにおかれましては、難しいことは考えずに楽しさを追求していただければ幸いです。