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科学的に正しく「怒る」方法

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 怒りのメリットを得る正しい方法

近年の心理学では「ネガティブな感情も大事!」って考え方が常識。怒りや悲しみといった感情にも相応の役割があるので、それぞれのメリットを上手く使う方向で考えたほうが最終的には幸せに近づくよー、って話です。

 

 

といったところで、新しく出た論文(1)では、「ネガティブな感情からメリットを得るには?」ってとこを深掘りしていて非常にタメになります。



怒ったほうがビジネスには有利?

これはヘブライ大学の実験で、おもに「怒りのメリットを得る方法」について調べたもの。たとえば、ビジネスの世界なんかだと、

 

  • ガンガン怒ったほうが交渉はうまく進むのだ!
  • 仕事の交渉はつねに冷静に対処してたほうがいい!

 

といった2種類の見解があったりするわけです。どっちもうなずけちゃう話なんですけど、本当はどっちが正しいの?ってあたりを調べたんですな。

 

 

怒りながら交渉したらどうなるか

実験の参加者は159人の学生で、全体を2つのグループにわけております。

 

  • 怒りグループ:「私がビジネスの交渉をしたときは、ある程度まで粘り強く対話したあとで、いきなり怒るのがもっとも効果的だった。怒った直後に、相手は私の希望を受け入れてくれたのだ」みたいな、怒りのメリットを讃える文章を読む。さらには、怒りをかきたてるような音楽を聴く(cello metalのInquisitionって曲を使ったらしい)。
 
  • 普通グループ:「特定の感情のメリット」については何も触れていない文章を読む。ついでに、アンビエント系の落ち着く曲を聴く。

 

上記のような作業をしたうえで、すべてのグループに、実際にお金のやりとりをする交渉の場に参加してもらったんだそうな。

 

 

「怒りは良い」と思わないと怒りのメリットは得られない

すると、その結果は以下のようになりました。

 

  • 「怒りグループ」で実際に怒りながら交渉した人は、怒らなかった人よりも大きな金額を得た
  • しかし「怒ると交渉が上手くいく」という文章を読まなかった場合は、怒って交渉しても獲得金額は増えなかった
  • 「普通グループ」の場合は、怒って交渉しようが冷静に交渉しようが特に獲得金額に差は出なかった

 

つまり、怒りのメリットは「怒りは良いものだ!」と思ったときにだけ得られたわけですね。おもしろいもんですなぁ。

 

 

「怒りは良い」でゲームの集中力があがった

続いて、この論文では2つめの実験をしてまして、こちらでは「FPS系のシューティングゲーム」を使ったみたい。実験のデザインは上記と似ていて、

 

  • 「怒るとゲームの成績があがる!」と思い込んだ状態でプレイ
  • 「冷静なほうがゲームの成績があがる!」と思い込んだ状態でプレイ

 

の2パターンでゲームをしてもらったんだそうな。

 

 

その結果は、上の実験とは少し違っていて、

 

  • 「怒りはいい!」と思い込んだ人が実際に怒りながらプレイした場合、冷静にプレイするよりもゲームの成績は上がった
  • 「冷静なほうがいい!」と思い込んだ場合は、怒ろうが冷静だろうがゲームの成績は上がらなかった

 

だったんですな。冷静グループには何のメリットも出てないのが興味深いところですけど、おそらくシューティングゲームのように集中力が必要なタスクでは、ある程度は体が興奮していたほうが有利なのだと思われます。別に「冷静はよくない!」って話じゃないのでご注意ください。

 

 

ネガティブな感情のメリットを信じるのが基本

で、最後に3つめの実験もおもしろいんで紹介しときます。こちらは「怒りで創造性は上がるの?」って問題について調べていて、実験デザインはほぼ上の2つと同じ。

 

  • 「怒ると創造性があがる!」と思い込んだ状態で創造性テストを受ける
  • 「冷静なほうが創造性があがる!」と思い込んだ状態で創造性テストを受ける

 

って感じになっております。その結果は研究者の予想どおりでして、

 

  • 「怒りはいい!」と思い込んだ人は、怒ったほうが創造性があがった
  • 「冷静なほうがいい!」と思い込んだ人は、冷静なほうが創造性はあがった

 

って違いが出たんですな。研究者いわく、

 

少なくとも、ある特定の場面においては、私たちが得られる結果は、私たちが特定の感情に何を期待するかに左右される。

 

とのこと。要するに、それぞれの感情のメリットが得られるかどうかは、その感情を良いと思ってるかどうかに左右されるわけっすね。このあたりは、マクゴニガル博士が「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」で言う「ストレスは良いものだと思えば怖くない!」って主張と似てますな。

 

 

ってことで、タスクの違いによって多少の効果の差はあれど、「ネガティブな感情をネガティブに思うとネガティブの悪影響は増す」なんてデータもありますからねぇ。基本的には、怒りだろうが不安だろうが「ネガティブな感情も良いものだ!」と思っておくのがいいんじゃないでしょうか。ネガティブな感情の機能については、「気分が沈んだ人は分析力が高まり、気分が良い人は創造性が高まる」にまとめてますんで合わせてご参照ください。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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