絵がうまくなるにはどうすればいいのか?#1「ミラードローイングと視覚記憶」
絵の上達にかんするご質問をいただきました。
僕はオタクなので好きなキャラクターの絵を描きたいと時々思います
しかし残念ながら子供の頃から絵を描く習慣のなかった僕にはイラストを描く才能がありません
そこで、イラスト上達のために様々なサイトを覗いたのですが模写が良いやら模写は 駄目やら3Dを描くのが良いやらダメやら・・・どうやらまだ意見統一がされていないようです
萌えイラスト の研究は無いとは思いますが、絵の上達について科学的に正しい上達方法があれば教えてください
とのこと。おっしゃるとおり萌えイラストの研究はないんですけど、絵の上達についてはいくつかの知見がありますので、ちょっと見てみましょう!
そもそも絵が上手い人の特徴とは?
でもって、まずは「そもそも絵が上手い人は何が違うのか?」ってポイントですが、これについては1990年代に研究が進みまして、たとえばノースカロライナ大学なんかが良いレビュー(1)を出してくれています。
その結論をすごーくざっくり言えば、絵がうまい人ってのは、
- 視覚情報を手の動きに変換する能力が高い
- 視覚情報を記憶する能力が高い
- 対象のどの情報を描くかの取捨選択ができる
みたいな話です。まぁ言われてみればそうですよね。
このうち2番は生まれつきの能力によるところが大きいことがわかっていて、いわゆる「絵の才能がある」ってのは、ここらへんを指すケースが多め。ただし、いずれの能力も後天的に伸ばせるのも確かなんで、「自分は才能がなくて……」とか考える必要もないかと。
視覚と運動機能のつながりを鍛える「ミラードローイング」
で、このなかでもっともトレーングで伸ばしやすいのが1番めです。目から入った情報を、いかにスムーズに手の動きに伝えられるか?ってポイントです。
この能力を鍛える方法はいろいろありますけど、一番よく使われるのが「ブラインド・コントアー・ドローイング」でしょう(2)。これは、昔から多くのアーティストに愛用されてきた手法で、簡単に言えば、
- 模写の対象”だけ"を見ながら絵を描こう!
というものです。萌えイラストでも静物でもなんでもいいんですが、自分が描きたいものだけに視線を置いて、目の前の紙やタブレットはまったく見ずに手を動かしていくんですな。
この作業を2〜3回やるだけでも視覚と運動機能の連結がスムーズになるんで、ウォーミングアップに試すのも吉。もっとも手軽で効果が高い手法のひとつかと思います。
さらに、もうちょい科学的な根拠が欲しければ、心理実験の世界でおなじみの「ミラードローイング」って手段もあります(3)。これは、「視覚と肉体がちゃんとスムーズにつながっているか?」を調べるために使われるテクニックで、以下のイラストのように行います。
参照:https://slideplayer.com/slide/6024966/
要するに、自分の手元と紙は完全に隠した状態で、目の前に置いた「鏡」を見ながらイラストを描いていくわけっすね。
なんとも奇妙に思えるかもですが、多くの実験では視覚と動作の連結がスムーズな人ほど、この作業がうまいことがわかってるんですよ。おもしろいもんですねぇ。
視覚的な記憶をあげる「ビジュアライゼーション」
続いてポイントになるのが、2番目のポイントである「視覚的な記憶の向上」です。
見たものを正しく描くためには視覚的な記憶が欠かせないのは当たり前ですが、この能力は「空想の世界」をイラストにおこすためにも必須。空想のイメージを再現するには、脳内に浮かぶビジュアルをちゃんと記憶できなきゃいけませんからねぇ。
事実、277人の美学性を対象にした実験(3)でも、スケッチだろうが空想画だろうが絵が上手い人はとにかく視覚記憶が高い!って結果が出てたりします。当然、萌えイラストにも欠かせない要素ではないかと。
もっとも、具体的に「どんな視覚トレーニングをすれば絵がうまくなるか?」ってとこまでは研究が進んでいないので、現時点では一般的なビジュアル訓練をするのがオススメです。具体的には、
- 自分が好きなイラストを30〜60秒だけ観察
- 観察したイラストを隠す
- 記憶だけを頼りにイラストを再現
って手法が定番でしょう。この作業に慣れてきたら、
- 複雑なイラストに変える
- 観察時間を10秒にする
といった感じで難易度をあげていただければと思います。
ちなみに、先行研究だと3Dゲームをプレイしても視覚と記憶が鍛えられるって結果も出てますんで、楽しくトレーニングをしたい場合はこちらを試すのもいいかも(果たして絵のうまさに直結するかはよくわからんのですが)。
以下、次号。
ってことでいろいろ書いてきたら結構な量になったので、続きは別のエントリを立てます。次回は「いかに対象から余分な情報を削ぎ落とすか?」というイラストには欠かせないポイントを見て行こうかと。では、以下次号!