「隠しごと」は他人に告白したほうが幸せになれるのか?隠し続けたほうがいいのか?の科学
人間なら誰しも他人に隠したいことがひとつやふたつはあるもんです。とくに自分のアイデンティティにかんすることならなおさらで、過去のトラウマ体験、性的嗜好、メンタルの不調などを隠しつつ暮らしている方も少なくないでしょう。
で、ここで問題になるのは、隠してることを周囲に言っちゃったほうがいいの?ってところです。友人や同僚に包み隠さずバラしたほうがスッキリして精神が安定するのか、はたまたカミングアウトのせいで逆にいらぬストレスを感じてしまうのか、ってポイントですね。
なかなか切実な問題ですが、近ごろかなりハッキリしたデータ(R)が出てきまして参考になりました。
これはライス大学やUCLAなど7つの組織がコラボした研究で、チームの問題意識はこんな感じです。
「スティグマ化されたアイデンティティ」を職場で表現するかどうかは、非常に複雑な問題だ。少し考えても、その結果はネガティブにもポジティブにもなりえる。
そこでこのメタ分析では、アイデンティティをうまく運用する戦略として、「隠していることを周囲に告げる」方法の有効性を調べた。
「スティグマ」は社会学でよく使われる用語で、心身の個人的な特徴について周囲からマイナスイメージを持たれ、そのせいで押しつぶされちゃうような現象のことです。昔の日本でいったら結核やハンセン氏病なんかが典型例ですよね。
ってことで、研究チームは過去の研究から信頼度が高めな65件を選んでメタ分析を実施。周囲へのカミングアウトはアリかナシかを徹底的に調べてくれております。非常によろしい研究ですねぇ。
で、ここでわかったことは大きく2つありまして、まず一個めは、
- 目に見えないスティグマであれば、職場や友人に言っちゃったほうが良い!
って結論が出ております。心の病気やセクシュアリティのように外見からはわからないスティグマであれば、他人に話したほうが最終的に人生の幸福感は高まるみたい。
研究チームいわく、
見えないスティグマを表現した者は、おしなべて不安が減り、芯が定まったような感覚が生まれ、仕事の満足度が上がり、自分の義務へのコミットメントも増した。
だそうで、なんとも良いことだらけであります。逆に言えば、いかにスティグマが個人の足かせになってたかってことなんでしょうな。
ならば、なんでもかんでも他人にバラせばいいのかと言うと、さにあらず。もうひとつこんな結果も出てたりします。
- 目に見えるスティグマの場合は、職場や友人に言うと逆効果になる!
だそうで、たとえば人種やジェンダーのように外見からわかる差別や偏見については、否定的な傾向があったんですよ。
外見ですぐに認識できるアイデンティティは、内面に隠しておけるアイデンティティとは異なる働きをする。(中略)多くの人は、はた目からハッキリ認識できるスティグマへ注意をうながされると、ネガティブに反応する傾向があるからだ。これは、スティグマの表現が圧力のように感じられてしまうからだろう。
隠れた偏見であれば「気づかなくてすまん!」みたいな気分になれるのに、目に見える偏見には「いまさら言うなよ!」みたいな気持ちになっちゃうんだ、と。これは悩ましい……。
なんとも難しい問題ですが、告白する側は上記の違いに注意しつつ今回のデータを参考にされたし。いっぽうで告白される側は、自分が否定的な反応を起こしてないかどうかに意識を配るのが吉かと存じます。