無理せず自然と健康的な食事の量を増やせる最強の方法はこれだ!というメタ分析の話
「健康に暮らすためにはどのナッジがベストだ?」って内容のメタ分析(R)がおもしろかったんでメモ。
ナッジってのは「実践 行動経済学」で有名なリチャード・セイラーさんが考案した概念で、「本人が自分から望ましい行動を取るように誘導するテクニック」ぐらいの意味です。たとえば、
- 野菜を食べる量を増やすためにサラダを目のつく場所に置いておく
- ドナーを増やすために「臓器移植に反対なら〇をつけてください」という形で質問をする
- レジ前にお菓子をおいて「ついで買い」をうながす
みたいなのがよく挙げられる事例っすね。とにかく、なにも強制せずに相手が良い行動を取らせるのがポイントであります。
で、新しい論文はINSEADによるもので、過去の「健康に関するナッジ研究」から質が高い96件のフィールド試験を選んでまとめたもの。おもにリアルな世界で行われたテストをベースにしていて、ラボ実験やオンライン研究などは使っておりません。ここでは「どんなナッジを使えば自然と健康な食事ができるようになるのか?」ってポイントを調べたんで、フィールド実験のほうが現実に即した知見が得られそうっすな。
で、ここではナッジの内容を大きく7つのパターンに分けてます。
▼認知的ナッジ
- 説明的栄養ラベリング:カロリーを表記したり脂質・塩分・糖質の量をラベルに明記するパターン。
- 評価的栄養ラベリング:健康的な食品にはグリーンラベルを貼ったり、不健康な食品にはレッドラベルを貼ったりと、消費者に見分けやすいサインを伝えるパターン。
- 視覚的強化:健康的な食品をレジのすぐ横にセットしたり、消費者の目線が来る位置にサラダを配置したりと、ヘルシーフードを目に入りやすくするパターン。
▼感情的ナッジ
- ヘルシーコール:カフェの店員が客に「サラダやフルーツはいかがですか?」などと直接に尋ねるパターン。
- 快楽強化:サラダを派手にディスプレイしたり、メニューで美味そうなフルーツの写真を使ったりと、健康的な食品をより魅力的に見せるパターン。
▼行動的ナッジ
- 利便性強化:どのメニューにもサラダが標準で付いてきたり、不健康な食品は手に取りにくい場所に置いておくようなパターン。
- サイズ強化:フライドポテトの1食分を小さくして、サラダの1食分は大きくするようなパターン。
いずれもどこかで見かけたような定番のナッジでして、それぞれの効果レベルを比べてくれております。これはありがたい研究ですねぇ。
その結果、どんなことがわかったかと言いますと、
- すべてをひっくるめた場合、健康的なナッジの効果量は0.23!(Cohen’s d)
ってのがまずは大きな結論になります。この効果量をわかりやすく換算すると、ナッジを使った場合に摂取カロリーが1日123kcalぐらい減る計算になります。まぁ悪くはないけど大したレベルでもないですな。
ただし、個別のナッジには大きな違いがありまして、ざっくり以下のようになってます。
- もっとも効果が低いのは「認知的ナッジ」で、なかでも説明的栄養ラベリング1日に54kcalしか減らない。次が視覚的強化で70kcal、評価的栄養ラベリングは91kcal
- 次に効果が低いのは「感情的ナッジ」で、ヘルシーコールが1日129kcalのカロリー削減につながる。快楽強化の効果は1日172kcal
- 一番成績が良かったのは「行動的ナッジ」で、利便性強化が1日199kcalのカロリー削減につながり、サイズ強化は209kcal。
要するに、「ベストの健康ナッジはサイズ強化だ!」ってのが結論ですね。いわゆる「ポーションコントロール」の有効性については昔からよく言われてましたけど、他の手法と比べても効果が高いものなんですねぇ。
ってことで健康なライフスタイルを取り入れたい皆さまにおかれましては、まずはサイズのコントロールに気を配ってみちゃいかがかと思う次第です。