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「1万時間の法則」がまたも追試でコテンパンにされてた件

 

以前に「1万時間の法則が否定されたよねー」みたいな話を何度か書いたことがありました。具体的には、

 

 

といったあたりが代表的なところです。ざっくりこれまでの話がどんなもんだったかと言いますと、

 

  1. 1993年に「エキスパートは徹底した練習の量が違う!」という説が出る
  2. この内容を、マルコム・グラッドウェルが2009年に「1万時間の法則」として喧伝。「1万時間がんばれば誰でも天才になれる!」みたいなノリで世に伝わる
  3. ところが、2014年のメタ分析で「練習の重要性ってそこまで高くなくない?」って結論が
  4. 「1万時間の法則」にかなりの疑問符がつく ←イマココ

 

って感じです。1993年論文の段階では「練習の重要性は48%を占める!」って結論だったんですけど、近年では「さすがにそこまで大事でもなくない?」って流れになってきたかと思います。

 

 

で、近ごろさらに新しく出た論文(R)では、「1993年の研究を再現してみたけど、同じ現象が確認できなかったぞ!」って結論になってて、さらに1万時間の法則がわやになっておりました。

 

  

これはケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究で、実験デザインはこんな感じです。

 

  1. 39人のバイオリニストを集め、それぞれのスキルごとに「ベスト」「まぁまぁ」「悪い」の3グループに分ける
  2. 全員の練習量を聞いたうえで、それぞれのスキルと比較する

 

くわしい方はお気づきのとおり、サンプル数がちょっと多いだけで、基本は1993年の原論文と同じです。

 

 

ただし、今回の追試が大きく違うポイントは、

 

  • 1993年論文にあったバイアスを排除している!

 

ってとこです。というのも、1993年論文は「研究者がバイオリニストのスキルを知った状態でインタビューしてない?」って問題があったんですよ。どういうことかと言うと、

 

  1. 研究者が「この人は上手なバイオリニストだな」と知った状態でインタビューをする
  2. 相手のスキルを知ってるので、それが態度や質問のしかたに違いをあたえる
  3. 結果、バイオリニストの受け答えも変わってしまう

 

みたいな話です。インタビュアーの知識を調整しないと、本当の答えは出せないんじゃないの?って問題が原論文にはあったわけです。

 

 

でもって、この問題を調整したうえで数値を割り出したところ、

 

  • 練習量の違いは、バイオリニストのスキルの26%しか説明できなかった!

 

だったそうな。原論文が48%でしたからだいぶ数字が下がりましたね。

 

 

それどころか、研究チームいわく、

 

実際のところ、最高のバイオリニストは、まぁまぁのバイオリニストにくらべて練習量が少ない傾向があった。

 

だそうで、なんだかよくわからんことになっております。「まぁまぁ」から「最高」レベルにまで達するには、練習よりも環境や遺伝のほうが大事ってことなのかもですが、そこらへんは謎っすね。

 

 

ということで、ますます1万時間の法則がゆらいだわけですが、まぁ個人的には「1万時間がんばるぞ!」とか気合いを入れずに、できる範囲で地道に練習を積むしかないよなーとか思うしだいです。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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