「私のことなんて誰も期待してない‥…」でパフォーマンスを高める「負け犬効果」の正しい使い方とは?
「ピグマリオン効果」って有名な心理現象がありますな。「他者から期待される人ほど成長するよ!」みたいな話で、過去の実験では教師が目をかけた生徒ほど成績が良くなったって報告が出てたりします。そりゃあ誰から何の期待もされなかったらモチベーションが上がらないですもんね。
が、実は一方では「期待されない方が成功する!」って現象も確認されてるのが人間心理のおもしろさ。心理学の世界では「負け犬効果」などと呼ばれてまして、ここ十数年で研究例が増えてきた印象っすね。
でもって、ペンシルバニア大学が最近も「負け犬効果」について調べてくれていて(R)おもしろいです。
これは大きく2つの実験で構成されていて、まずひとつ目は一般的なサラリーマン371人が対象。ざっくりしたデザインを書いとくと、
- 「自分は上司や同僚などから仕事ぶりを期待させれていると感じますか?」と尋ねる
- しばらくしてから、全員の上司に「彼らの働きぶりはどうですか?」と尋ねる
ってな2種類のデータを集めて比べております。当然、期待されてない人の方が成績が悪いかと思いきや、
- 実際には「俺は負け犬だ!誰にも成功を期待されていない!」と感じていた社員のほうが上司からは高く評価されていた
- 本人が「自分は成功する」と思っているかどうかって変数を調整しても、負け犬のほうがパフォーマンスは高かった
って結果だったそうで、「ピグマリオン効果」とは異なる傾向が見られたみたい。うーん、不思議。
さらにふたつめの実験では、330人の男女を集めてこんな実験をしてます。
- パソコンで簡単なタスクをやってもらう
- その際に、「あなたのパフォーマンスを別室からチェックしています」と伝える
- さらに、「その人物は、あなたのパフォーマンスに期待しています」「期待していません」「まぁまぁ期待してます」という3つのパターンで伝える
すると、こちらも先の実験と結果は同じで、「あなたには期待していない」と告げられた参加者の方がタスクの成績は良かったんだそうな。やはり「負け犬効果」実在するっぽいですね。
といっても現実世界を見わたしてみれば、期待をかけられなかったせいで自暴自棄になり、持ち前のパフォーマンスを発揮できなかったケースもよく見られることではあります。これは「ピグマリオン効果」に対して「ゴーレム効果」などと呼ばれる現象で、誰からも期待されないために自信をなくし、最終的には失敗につながっちゃうようなパターンですね。
では、果たして「負け犬効果はどんな時に発動するのか?」ってことで、最後の実験を見てみましょう。こちらは589人を対象にしたテストで、
- パソコンで簡単なタスクをやってもらいつつ「第三者にパフォーマンスを評価してもらいます」と告げ、その際に参加者を「期待されている」「期待されていない」「まぁまぁ期待されている」の3グループに分ける(ここまでは上の実験とまったく同じ)
- さらに、参加者たちには「あなたのパフォーマンスをチェックするのは有能な人です」または「あなたのパフォーマンスをチェックするのはダメな人です」というどちらかの情報を伝える
みたいになってます。要するに研究チームは、「負け犬効果の発動条件は周囲の能力に左右されるのでは?」って仮説を立てたんですね。
すると、結果はチームの読みどおりでして、
- パフォーマンスをチェックする人が「有能」だった場合は、参加者の成績は低下した
- パフォーマンスをチェックする人が「無能」だった場合は、参加者の成績は向上した
だったんだそうな。これまたおもしろい結果ですねぇ。
こういった違いが出る理由は非常にシンプルで、
- 有能な人に期待されなかった場合 → 「ここで失敗したらあの人に嫌われてしまう……」って気持ちになり、不安と緊張でパフォーマンスが落ちる
- 無能な人に期待されなかった場合 → 「なんであんな奴にバカにされなきゃならんのだ!やったるぜ!」って気持ちでモチベーションが高まり、パフォーマンスが上がる
みたいな心理メカニズムが働くからです。「負け犬効果」を発動させるためには、「こちらが相手のことを下に見てなきゃいけない」って条件があるわけですね。
逆に自分が有能だと認める上司が相手だとパフォーマンスが下がっちゃうわけで、「負け犬効果」は「自分は誰から期待されていないのか?」ってのを見極めてから使う必要があるんでしょうなぁ。