2021年3月に読んでおもしろかった6冊の本
月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2021年3月版です! 今月に趣味で読んだ本は28冊ありまして、なかでもおもしろかったのが以下の6冊でした。
がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか
小難しい経済理論を超わかりやすく解き明かすシリーズの最新版。今回は「MMT(現代貨幣理論)」の考え方の骨子だけをうまく抜き出してくれてて有用でした(ただし作中で「MMT」って言葉は出てこないけど)。
もちろん、MMTについては異論も大量にありますし、基本的にリフレ派の経済論がベースなんで「そうなの?」と思う方もおりましょう。が、それを差し置いても知っておいて損はない知識が入っているかと存じます。
〈脳と文明〉の暗号: 言語と音楽、驚異の起源
「ヒトの目、驚異の進化」も面白かったチャンギージーさんが、「なんで人間は音楽が好きなの?」って問題に切り込んだ本。たとえばピンカー先生なんかは「音楽は人間の進化の副産物でしょ!」って説を唱えてるぐらいで、音楽の起源ってのは現代でも謎なんすよ。そこでチャンギージー先生は「いや!音楽の気持ちよさには、進化的に独自の理由があるのだ!」って立場を打ち出したわけっすね。
前作どおり問いの立て方と結論までの展開がうまく、ほとんどミステリー作品を読んだような気持ちになれるナイスな科学書になっております。ネタバレになるんで結論は避けますけど、個人的にはめちゃくちゃ納得感がありました。
英語独習法
言語心理学の世界で有名な今井むつみ先生が、ついに「英語をうまく学習するにはどうすればいいの?」って問題をまとめてくれた一冊。「日本人が英語を学びづらいのは◯◯のせいだ!」と特定の原因をズバリ指摘した上で、この問題を解決する具体策を提案してくれております。どんな原因かが気になる方は、ぜひ本書をお手に取ってご覧ください。こちらも非常に納得させられる考え方でした。
ただ難点があるとすれば、本書で提案されている学習法が「続けられるかなぁ」と思いやすいとこすかね。もちろん続けられれば効果は高いんでしょうが、個人的には「もうちょいエンタメ要素がないと取り組みづらいかな…」って印象でした。まぁ特に対案があるわけじゃないんで、ないものねだりになっちゃいますが……。
実験する小説たち;物語るとは別の仕方で
世の中には「実験小説」ってジャンルがあるわけです。一般小説のようにストーリーやキャラへの興味で引っ張るのではなく、注釈と本編を往復するように書いたり、写真やタイポグラフィで遊んでみたりと、表現法そのものを試すタイプの作品ですね。
そもそも「実験」って言葉が大好きなんで「実験小説」にも惹かれちゃうんですが、このタイプの作品はエンタメ性が低くて読みにくいのが難点。とにかく読み手の負荷が高いもんで、自分から積極的に取り組んでいかないと2〜3ページで挫折したりするんですよ。
そこで本書は、「実験小説」が「そもそもどんな試みをしてるのか?」や「どこに注目して読むべきか?」を指南してくれてありがたいことでありました。とりあえず木原さんがおっしゃる「実験小説はツッコミがないボケのようなもの。読者がツッコンでいかないと楽しめない」(大意)って考え方を押さえるだけでも視界が変わるかと思う次第です。
Cognitive Behavior Therapy, Third Edition: Basics and Beyond
認知行動療法の超名著である「認知行動療法実践ガイド」の第3版です。2版よりも割と手が加わっていて、マインドフルネスや価値観といったACT的な要素も多くなっております。おそらく日本語版も出ますんで、メンタル改善の基本書として、第2版をお持ちの方も読む価値があるかと。
A子さんの恋人
やたら評判が良かったので読んでみた恋愛漫画。過去と現在のエピソードが入れ子になって進む語り口がおもしろく、最初は「恋愛版パルプフィクションみたいだなー」ぐらいに思ってたら、中盤あたりから「人間の迷い」を表現するためのメタ的な手法だったことに気づいてビビりました。
恋愛に迷ったことがある人だけでなく、人生で何らかの答えが言語化できずにモヤモヤしたことがあるすべての人にお勧め(大半の人に当てはまりそうですが)。
その他、おもしろかった本
- 「思いどおりになんて育たない: 反ペアレンティングの科学」進化心理学的に「なんで現代の子育てはうまくいかないのか?」を解いていく本。子育ての明確な正解が書いてあるわけじゃないんだけど、ヒントにはなるでしょう。
- 「拳闘士の休息」戦争や病気でどこか壊れた人たちが、「これでいいのだ!」って地点に行き着くまでの話が詰まった短編集。
- 「スピン」LGBTな作者が、フィギュアスケート漬けで過ごした十代の記憶を描いた自伝マンガ。淡々と十代の挫折が表現されてて泣ける。