なんで金持ちは他人の感情を読み取るのが苦手になるの?みたいな実験の話
「パレオチャンネル」の質疑応答で、「なぜ歳を取ると老害のような行動を取る人が増えるのでしょうか?」みたいなご質問をいただいたんですよ。一般的には「年を取ると性格が丸くなる」と言われるんですけど、いっぽうでは加齢とともに若者にマウントを取りたがる人が出てくるのも事実ではないのか、と。
これについては個人的にこれといった見解があるわけでもなく、とりあえずこのときは、
- 歳を取ると高い地位についたり収入が増えるケースが多いから、そのせいで共感力が下がるのでは?
みたいな推測を述べたんですよ。
というのも、社会的に裕福で地位が高い人ほど他人の感情を読み取るのが苦手って報告が昔から多いんですよね(R)。その理由はよくわからないものの、裕福な人ほど他人に頼らず自分で問題を解決できちゃうので、そのぶんだけ感情知性が鍛えられないのでは?などと言われております。金を持つと他人の感情に注意を払うインセンティブがなくなるってことですな。
でもって、ブリティッシュコロンビア大学などの新しい研究(R)も似たようなポイントを調べていて、まず結論から簡単にまとめると、
- 裕福で社会的な地位が高い人は、感情知性テストのスコアが一貫して低い
- 特に自分が所属するコミュニティに高いレベルの不平等があると、さらに感情知性が低くなる
みたいになります。経済格差が激しい環境で暮らすお金持ちは、自分のコミュニティの資源をより多く所有しているので、さらに他人の感情に注意を払う必要が下がるのではないか、と。不平等が大きければ大きいほど、お金の影響はより大きくなりますからねぇ。
この研究は2,481人の男女を調べたもので、みんなに自分の経済レベルを自己申告してもらった上で、自分が住んでいる州でどの程度の経済的な不平等を感じているかを回答するように指示。くわえて感情的な知性を計測するテストを行って、すべてのデータを分析したんだそうな。ちなみに、 感情的知性ってのは、だいたい「自分や他人の感情を理解して対応し、調整する能力」と定義されております。
すると、結果は著者の予想どおりでして、
- やっぱり金持ちほど感情知性が低い傾向があった
- 経済力と感情知性の負の関係は、不平等感を強く感じている人の間で最も強かった
だったそうです。また、最後の実験では、参加者に「最近のアメリカは経済的不平等が増してるよ!」と伝える動画を見せる作業もおこなってまして、こちらでも不平等感を植え付けられたほうが、金持ちの感情知性は悪化したらしい。
研究チームいわく、
権力を持っている人には、人の感情状態に注意を払わないというインセンティブがある。 簡単に言えば、他人の感情が自分の結果にあまり影響を与えないため、すべてをより自分でコントロールできるということだ。 その結果、他人の精神状態を意図的に無視するか、あるいは時間の経過とともにその練習を怠るようになっていく。
また、資本主義には、本当にお金持ちになるためには「誰かのことを気にかけてはいけない」という側面がある。 富を蓄積するためには、その蓄積によって搾取される人々が経験する苦しみに目をつぶる必要があるのだ。
とのこと。世の中にはつねに飢えや病気で苦しんでいる人がいるものの、それを気にしてたら富は蓄積できないので、金持ちほど他人の感情から目を背けるインセンティブが働くんじゃない?ってことっすね。これはなかなか悲劇的な話ですなぁ……。
ちなみに、過去には「感情知性が高い人ほど経済的に成功しやすい」みたいな話もありまして、なんだか矛盾するような気もするわけですけど、いっぽうでは「サイコパスが成功する」って報告も出てまして、成功への道のりはひとつじゃないんだろうなーとか思った次第です。