ストレッチで体を柔らかくしてもなんの意味もなくないですか?という意見論文の話
「ストレッチって必要なのか?」って問題については過去にもいろいろ書いていて、いまんとこの私の結論としては、
- おそらく怪我の予防とかにはならないし、やりすぎれば運動のパフォーマンスを落とすだろうけど、まぁやってるうちは気持ちがいいから好きな人はやればいいのでは?
みたいな感じです。「柔軟性が大事!」って意見があるのは承知してますし、アメリカスポーツ医学会なんかも「柔軟性は健康に欠かせない」としてストレッチを推奨したりはするんですが(R)、どうもここ最近のデータでは支持しづらいのが現状なんですよね。
で、近ごろNeuRAの先生が発表した文献(R)もストレッチの話で、まず結論から言っちゃうと、
- 柔軟性があってもなくても健康には関係なくない?
って感じになります。関節の動きがよくなろうが、股をパカーっと180度に開くことができようが、健康レベルとはなんの関係もないんじゃないかというんですな。なかなか強い主張ですね。
これは313の文献をベースにした意見書みたいなもので、まず柔軟性の定義から見ておくと、
静的な柔軟性とは、通常、筋肉が弛緩した状態での関節のROM(可動域)のことである。静的な柔軟性は、限界ROMがテスターまたは患者とそのストレッチ耐性によって決定されるように、主観的なものである。
みたいになります。要するに。柔軟性ってのは、特定の筋肉を伸ばすことができる能力のことで、その程度は「痛みにどれだけ耐えられるか?」という主観的な判断によって異なるってことですね。つまり、この分析は静的ストレッチの役割だけに限定されてまして、動的ストレッチについては何も言ってないのでご注意ください。
ってことで、以下に本論の要点を抜き出してみます。
- 筋トレ(ウェイトリフティングや腕立て伏せなど)や有酸素運動(ランニングなど)は、ストレッチだけに集中しなくてもシット&リーチのスコアを上げることができますし、おまけに、筋肉の成長や心肺機能の向上など、他の利点もある。筋トレについては、柔軟性が約25%ほど向上することを示す研究がいくつかある。
- 立位での体幹の屈曲(つま先に触れるテスト)と死亡リスクの減少との間には相関関係がない。つまり、ストレッチは長生きの助けにはならない可能性が高い。おそらく筋トレとかのほうが有利な気がする。
- 柔軟性は加齢とともに低下するが、筋力と異なり、柔軟性は高齢者の転倒を予測しない。というか、柔軟性ではなく、筋力が将来の日常生活動作のパフォーマンスを示す有力な指標であることを示す研究もある。
- 最近のシステマティックレビューでは、足首とハムストリングの柔軟性が筋肉の損傷を予測する「中程度の証拠がある」と結論づけている。
- 関節の可動性が高い(柔軟性の高い)プロの男性サッカー選手は、関節の可動性が高くない選手に比べてケガのリスクが高く、重症化する傾向がある。
- 柔軟性が高くても、心肺機能の健康、心血管系の持久力、筋持久力と強さとは関係がない。
- 水泳選手、ダンサー、体操選手などは、柔軟性が高い方が有利だと思われる。しかし、大半のスポーツでは、柔軟性のスコアが高いからといって、より高いパフォーマンスを発揮できるわけはない。
- 柔軟性が高くてもQOL(生活の質)は上がらないし、腰痛の発生を予測することもない。
ということで全体にかなりぶった切られている印象が強いっすね。個人的にはもうちょい意義があるかと思ってたんで、想像以上に否定されててビビりました。
まぁストレッチが完全に無意味ってわけではなくて、一部には「ストレッチを10週間やったら若年成人の筋力と持久力が約30%向上したよー」なんて報告もあるみたいではあります。が、この研究チームによりますと、
従来の筋力トレーニングに参加できない人が、ストレッチによって利益を得ることができる可能性がある。
ってことでして、あくまで筋トレを推奨している点ではあんま変わらないポジションですな。
以上をふまえたうえでチームは、
ストレッチングの重要性を減らすことの意義は、トレーニング効率の向上と、運動処方の他の部分への悪影響を防ぐことにあります
なんてことを言ってまして、ストレッチはしないほうが時間の節約なっていいのでは?ってスタンスが強調されておりました。
そんなわけで、個人的には「ストレッチが気持ちいいのは間違いないし、体を伸ばすことでヨガに近い効果も得られるから、ストレス対策ぐらいに使うのがいいのかもなぁ……」という気分になりました。どっとはらい。