化学物質にふれると頭痛が!めまいが!という「化学物質過敏症」はなぜ起きるのか?の過去最大レポ
「化学物質過敏症(MCS)」ってあるじゃないですか。洗剤とか柔軟剤、芳香剤などにふくまれる化学物質のせいで、頭痛や倦怠感、不眠など多岐にわたる症状があらわれちゃう状態であります。
この問題に悩む人はそこそこ多いものの、たいていは検査を受けても何も見つからないケースが多め。その結果として、多くの患者さんは「明らかに頭痛とダルさが出てるのになぜだ!」みたいな気分になりがちだったりするんですよね。
では、このMCSって問題はなぜ起きるのか?ってことで、ケベック州の衛生研究所が超膨大なレポート(R,R) を公開してくれておりました。もともとはケベック州の社会福祉省 が衛生研究所に委託したもので、MCSに関する先行研究を4,000以上も集めて、全体的になにが言えるかを徹底的に調べた内容になります。MCSのレポートっていろいろ見たことがありますが、こいつは間違いなく過去最大っすね。実に頭の下がる労作と申せましょう。
でもって、この報告書の結論をひとことでまとめてしまえば、
- 化学物質過敏症は慢性的な不安によるものであり、環境中の微量な化学物質への暴露によるものではない。
のようになります。えー!化学物質過敏症ってメンタルの問題なの!というわけで、驚く人には驚くべき結論かもしれません(類似の指摘は昔から多かったので、個人的には驚きませんでしたが)。
というわけで、このレポートがどんなことを言っているのか、要点をまとめてみましょうー。
- 1956年に初めて報告されて以来、科学者たちは、微量の化学物質がMCSの患者にどのような影響を与えるかを調べるために、遺伝学、神経学、免疫系、嗅覚、酸化ストレスなどの仮説を研究してきた。
- まず、MCSと遺伝の関わりに関する研究を見てみると、それぞれのデータはバラバラすぎて何も言えない。
- MCSと遺伝の研究が難しいのは、そもそもMCSを確認できる診断テストが存在しないからである。MCSは除外診断であり、その他のいろいろな病気の可能性を除外した後に残るものである。つまり、MCSの遺伝子研究に参加する人は、「自分は化学物質に弱い!」と思っている人なら誰でも参加することができ、研究データがバラバラになってしまう原因になる。
- これらの遺伝子研究の信頼性の欠如は、MCSがDNAの特定の変化が原因だとは言えないことを意味している。複数の遺伝子がすべてMCSに少しずつ寄与している可能性もあるが、これはまだ証明されていない。
- 大脳辺縁系(感情、記憶、学習、動機付けに関わる脳の部分)がMCSに関与していることは科学者の間で一致している。しかし、化学物質が脳に毒性を持っているのか、それとも化学物質を不安がるせいで大脳辺縁系に悪影響があるのかは、意見が分かれている。
- MCSがアレルギーと関係があるかと言えば、ラボテストでは陰性となるケースが多い。
- 酸化ストレス、脳や脊髄の炎症、嗅覚などの仮説について、特定の原因として特定することはできない。
- 実際のところ、MCSに悩む参加者の多くは、実際に化学物質にさらされる前から症状を報告し始めることが少なくない。
- 以上をふまえると、MCSに関連するすべての症状は、慢性的な不安で説明できる。
ということで、もちろん「化学物質過敏症は頭の中だけの現象だ!」とは言えないものの、化学物質への不安のせいで症状が起きている人は少なくなさそうな気はしますね。
つまり、科学過敏症が発症する流れとしては、
- なんらかの嫌なことがあって不安がブーストし、ストレス状態になる
- この時、周囲に化学物質があったり、柔軟剤の香りなどが印象付けられると、脳が「不調の原因はこれだ!」と考える
- 脳が化学物質と不調を関連付けたせいで常に不安が生まれ、頭痛などの諸症状が起きる
といった感じになりましょう。こりゃあ嫌ですな。
ちなみに、言わずもがなですが、このような報告が出たからと言って、悩んでいる当人に向かって「化学物質過敏症なんか気にするな!」と声をかけるのはNGであります。腰痛の研究を見てもわかるとおり、脳の誤作動によって起きる症状は高血圧や喘息と同じようにリアルで身体に深刻な影響を及ぼしますんで。
さらに余談ですが、MCSのテストがないので、この問題に苦しむ人の数を知るのは難しいものの、医師によって診断された場合は人口の0.5~3%、自己診断の場合は人口の32%(3分の1)、女性および40~60歳の成人に高いリスクが見られるんだそうな。こうして見ると結構な数値なんで、いざ自分が悩むことになったときは「これって不安のせいでは……」と考える余裕は残しておくとよさそうっすね。