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2022年6月に読んでおもしろかった6冊の本と、1本の映画とその他もろもろ

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2022年6月版です。あいかわらず次の本の作業をやっていて、8月、10月、12月ぐらいの間隔で順次新刊が出る予定です。よろしくお願いします。

 

ということで、今月に読めた13冊から、おもしろかったもののご紹介です。

  

 

 

善と悪のパラドックス

 

人間の「自己家畜化」についての本。自己家畜化ってなんだか怖そうな言葉ですけど、簡単に言うと「人間は自己の暴力性を抑えて繁栄するために、自らをいかに優しくて協調性のある存在に馴らしてきたのだ!」みたいな話です。世の中には「ヒトの世は血で血を洗う世紀末なのだ!」みたいな世界観もありますが、近ごろは「人間って思いのほか協力的だよねー」って見解が一般的になりつつありまして、そこらへんの認識を正してくれる一冊になっております。

 

もっとも、人間が協力的になったのと同時に、その道徳性が暴力の源泉になってるあたりも指摘されていて、「人が他者を攻撃するときは、たいてい自分が道徳的に正しいと思った時だ!」というナイスなパンチラインも出てました。ここらへんは、近年のネットで起きるいざこざによくフィットする知見っすね。

 

その他、「人類の歴史からすればオラオラ系は非適応だ!本当に適応だったのは謙虚な人間だ!」みたいな話も出てて、これも近年における研究と適合するなーとか思いました(そして、謙虚な人間が徒党を組んでオラオラ系を虐殺してきたのも、また人間の歴史だったりする)。

 

 

 

愛書狂の本棚 異能と夢想が生んだ奇書・偽書・稀覯書

世界のいろんな奇書を紹介する本。「血のインクで書いた本!」「人間の皮膚で作った本!」みたいな猟奇的なものから、「ひたすらデタラメが書いてある本!」「ただただ物理的にデカい本!」「衣服の形をした本!」みたいに、古今東西の珍本が集められてて楽しめます。日本の本もいくつか取り上げられてて、大人たちがお互いに屁を撃ち合う様子を描いた江戸時代の「屁合戦絵巻」のすばらしさには、「世界よ、これが日本だ!」みたいな気分になりました。

 

ちなみに、本書の後半に取り上げられていた「猫ピアノ」がヒドすぎて笑ったので貼っておきます。

 

 

鍵盤を叩くたびに尻尾に針が刺さり、その痛みで鳴き出す猫の声で音楽を奏でる楽器だそうです。うーん、ヒドすぎる(というか、この仕組みだと音階を出せませんが)。

 

 

 

僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。

東大の後藤先生とハーバードの長谷川先生がタッグを組んで、「研究論文をどう読むか?」をまとめた一冊。というと専門的な内容になりそうですけど、初心者でも理解できるレベルまで落とし込まれていて、最初の一冊に好適。論文を読み慣れた人でも「あー、これってあるあるだよなー」みたいなポイントがどんどん出てきて、なんとなく独流でやってきたところの正誤を再確認できる感じになってます。

 

もちろん、これを読んですぐに文献を読めるわけじゃないですけど、量をこなしつつ定期的に本書を参考にすると、「こう言うことか!」と腑に落ちるとこが多いはず。よく「論文ってどう読むんですか?」と聞かれるんですけど、今後は「この本を読みなさい!」ということにします。

 

 

 

小説伊勢物語 業平

ちょっと前に友人のススメで「伊勢物語」を読みまして、「これは平安時代のモテマニュアルやで!」とか思ったことがあったんですよ。絶対権力を生かしてモテまくる光源氏とは違って、業平は中クラスの地位でして、あくまで平民のモテ男一代記として楽しいんですな(現代の基準からするとかなりヒドいことをやってますが)。

 

ただ、現代語訳を読むだけだと「歌物語」のところがわかりづく、「うーん、いまいち感情が伝わりづらい」と思ってたんですよね。その点、小説として翻案された本作では、「周囲の状況に合わせていかに上手いワードをやり取りできるか?」という歌物語のポイントが分かりやすく、やっぱ平安時代のMCバトルみたいなもんだったんだなーってのが腑に落ちました。というわけで、MCバトル好きにもおすすめです(適当なまとめ)。

 

 

 

一八〇秒の熱量

年齢による強制引退まであと数ヶ月のボクサーが、現役を続けるべくA級を目指す姿を描いたドキュメンタリー。常識を超えた連戦を重ねていくうち病気になり、体が動かなくなりつつも世界ランカーと戦い、激しい熱意に周囲も巻き込まれ、傷だらけでリングに立ち続けたその先に何があるのか?………と思ったら、最後には主人公はもちろんトレーナーたちもみなバーンアウトして終わるあたりがリアルっすね。

 

これを「不屈の精神がかっこいい」と思うか、「わけわからん」と思うかは人それぞれでしょうけど、個人的には、アドレナリンラッシュの快感に取り憑かれた男たちを描く貴重なレポートとして楽しく読みました。

 

 

 

感情制御ハンドブック

感情コントロールが人生の必須スキルであるのは間違いないとこですが、本書はセルフ・コンパッションの研究などで有名な有光興記先生などが、「感情をいかに制御するか?」「そもそも感情のコントロールにはどんな視点があるのか?」を総まとめしてくれていて、めちゃくちゃ頭の整理になりました。専門的な本なので、「手軽に感情のコントロールができる本ないかなー」とか思う人にはまったく向いてませんけど、感情制御を深掘りしたい方にはおすすめです。

 

 

 

犬王

 

「世阿弥の時代に、正体不明の伝説の能楽師がいたんだなー」ぐらいの知識で臨んだところ、まさかの室町版ボヘミアン・ラプソディみたいな映画になってて驚きました。社会に弾かれた者のリベンジを全編にわたって描いていくなかで、それが仕事論と芸能論にもつながっていき、最後は和風のクイーンが奏でるロックオペラとして怒涛の盛り上がりを見せまして、「なんだかわからないけど圧倒されるぜ!」という感覚が大好きな私にはたまらないものがありますね。

 

まー、説明なしで話をぶっ飛ばしてるとこもありますし、かなり癖が強めな作品なんで、幅広くはおすすめしづらいんですけど、フレディ・マーキュリーのような「異形性が逆に普遍的なかっこよさにつながった!」みたいな表現が好きな方なら楽しめるはずであります。


 

 

その他もろもろ
  • 俺ではない炎上:昨年読んで楽しかった「六人の嘘つきな大学生」の浅倉秋成さんの最新刊。ネット上で殺人犯に仕立てられた中年男の逃走劇で、ツイストの数を10倍にふくらませたヒッチコック作品みたいで、相変わらずのページターナーですね。後半で明らかになるトリックも「こう使うのかー」って感じで勉強になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。