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【質問】教養ってなんですか? どうやって身につければいいですか?


こんなご質問をいただきました。

 

タイトルに「教養」が入ってるビジネス書が増えてますが、「教養」ってなんなんですか? 

 

特に最近は「ファスト教養」という言葉もあって、よくわかりません。やはり教養は身につけたほうがいいのでしょうか。身につけたほうがいいなら、何をどうすればいいのでしょうか。

 

ということで、「教養」って意味不明だけどなんなの? 役に立つの? 身につけたほうがいいの? って問題ですね。確かに、アマゾンで「教養としての」で検索したら、「教養としての『半導体』」とか「ラーメン」とか「意識」まであって、ビビっちゃいますね。

 

 

まー、「教養とは?」って問題については、当たり前ながら定量的な調査があるわけでもないので、以下は完全に私見になっちゃいますが、簡単にまとめてみましょう。

 

 

で、「教養とは?」って話を考えるにあたって、まず誰もが突き当たるのが、

 

  • そもそも教養の定義が意味不明!

 

って問題でしょう。少し検索するだけでも教養の定義はさまざまで、「教養とは人生を豊かにする知識だ!」みたいな考え方があったかと思えば、「ビジネスに役立つ知識だ!」といった考え方もありますからねぇ。

 

 

その上で、タイトルに「教養」を冠したビジネス書が増えたり、逆にインテリ層が教養本をバカにしたりといった現象が起きているので、なにがなにやら……って気分になる人が多いのも当然でしょう。

 

 

とはいえ、教養の定義があいまいなままなのは仕方ないところがありまして、それというのも、

 

  • 初期の「教養」は「神の意図を知るための方法論」だった。

 

って側面があるからじゃないでしょうか。ここらへんはリベラルアーツ系の本を読むと話が早いですが、中世のヨーロッパで生まれた「教養」ってのは、「いかに聖書をがっつり読みこなすか?」や「神が起こす自然の摂理をいかに読み解くか?」って目的に特化してしいて、その目的のために「修辞法」とか「天文」などの学問が尊ばれたところがあるんですよ。

 

 

でもって、さらに後年になると、今度は「教養」がまた別の機能を持ち始めるのがおもしろいところです。こちらはジェイン・オースティンの小説なんかを読むとわかりやすいポイントで、既存の上流階級から「お前となら交流してもよい!」と思われるためには、昔の文学やら絵画やらの知識を身につけて、彼らの前で披露できなきゃいけなかったんですよ。簡単に言えば、「コミュニティパスとしての教養」みたいなバージョンが出てきたわけですね。

 

 

西洋における「教養」がそんな感じだったのに、これを無造作に日本へ持ち込んだら、定義がフワフワしちゃうのは当然でしょう。日本の社会階層は欧米と全く異なるし、私たちに神の意図を読み解こうとするモチベーションもないですからねぇ。イギリスのバロックな家具を、和風の住宅に置いちゃったら、なじまないのが当たり前と申しますか。

 

 

では、日本においては、「教養っぽいもの」がどのように受け入れられてきたかと申しますと、

 

  • 江戸の読書会」によると、江戸時代における勉強サークルというのは、ガチガチに固定された身分社会のなかで「自分の能力の優位性を示せる場」として機能した側面がある(もちろん純粋な知的好奇心もあったけど)。普段の生活では下位の人間でも、読書会では知識で上位層をぶっ倒せるので、その武器としての教養。

 

  • 『修養』の日本近代」によると、明治以降の教養は「人間性を高めるもの」としてスタートしたが、少しずつ「社会で成功するためのもの」にスライド。それ以降は、「教養=人格成長の手段」派と「教養=成功の手段」派が交互に勢力を増し続けた。

 

みたいな感じになってます。こうして見ると、日本で受け入れられてる「教養」ってのは、西洋で生まれた「神の理解(≒人間性の改善)」と「階級の調整(≒社会での成功)」という2つの目的を、なんとなく和風に翻訳した概念って感じもしますな。

 

 

で、以上をふまえたうえで、いまの日本で「教養」がどのように機能しているかといえば、だいたいこんな感じでしょう。

 

  1. よりよい人間になるための教養:「教養は人生を豊かにするものだ!」みたいな考え方。インテリ層から支持されやすい。

  2. コミュニティパスとしての教養:「ビジネスに役立つ教養」に近い考え方で、「ワインの知識があると金持ちと話が弾みやすい」みたいなやつ。周囲から見ると、「成功のためにズルしてる!」とか「あいつはニワカだ!」といった印象が生まれやすく、インテリ層からはバカにされがち。

  3. マウンティングの棍棒としての教養:江戸時代に行われたような、「他人の上に立つぞ!」って目的で使われる教養。いわゆる「知識マウンティング」としての教養で、尊敬されるための手段として情報を使う。インテリ層も非インテリ層も、現実では、このパターンにハマりがち。

 

というわけで、一般的に好ましく思われやすいのは1番目で、あとの2つは馬鹿にされがちってとこじゃないでしょうか。やっぱ知識をスケベ心で使うと下に見られますよね。

 

 

ただし、個人的には、2番めも3番めも別に悪いとは思ってなくて、「自分の目的を理解して、それに即した知識を掘っていただければ良いのでは?」ぐらいに思っております。要するに、

 

  • よりよい人間になりたい!=哲学でも科学でも文学でもなんでもいいので、自分に響くもの、自分の内面を掘れるものをディグる。ただし、自分とは真逆の思想もディグっておかないと、自分の気分がよくなる情報ばっかりを選ぶことになり、最後は偏向マンになって死ぬ。

 

  • 何らかのコミュニティに属したい!=「なにかに帰属したい!」とか「成功したい!」って気持ちは正当なものなので、インテリ層にバカにされたとしても、別に気後れする必要はない。このような場合は、自分が所属したいコミュニティが必要とする情報を特定して、それを中心にディグるのが吉。この作業をふまずに「教養としての◯◯」みたいな本を読みまくっても、ただの雑学マンになって死ぬ。

 

  • 知識で他人をぶん殴りたい!=というか、このタイプはナルシシズムの発露の結果であるケースが多いため、あんまりおすすめできない(だいたい過度なナルシシズムは幸福度と反比例するので)。ただし、「自分をよく見せたい!」って気持ちは人間として自然なものなので、悪く思う必要もない。ナルシシズムの発露を「自分の能力を高めるためのモチベーション」に変換して使っていけるならアリ。そこを間違えると、イキリマウンティング厨になって死ぬ。

 

のようになります。今回いただいた「教養にどう接していくか?」みたいな質問に、実践的な答えを返すなら、こんな感じになるんじゃないですかねぇ。

 

 

ただ、「教養ってなに?」って質問の答えについては、個人的にまったく異なる定義を使ってまして、

 

  • 教養=知的好奇心の指標

 

のように考えていたりします。要するに、「教養」ってのは知的な好奇心を追求した結果であって、その逆ではないよなーという意味です。

 

 

具体的なイメージとしては、ノーベル賞受賞者のリチャード・ファインマンが典型で、この先生は、本職で物理学をやりながらも、やたらボンゴがうまくなったり、絵画に精通したり、日本の知識が豊富だったりして、かなりの教養人として知られたじゃないですか。

 

 

しかし、一方では、ファインマン先生が「教養を身につけてやるぞ!」と思ったわけじゃないのは当然の話。知的な好奇心を発揮しまくってたら、いつの間にか教養人と呼ばれるようになっただけなんですよね。

 

 

このファインマン先生のような感じで、私は「教養って知的好奇心の結果でしかないよなー」と思っているわけです。よく「教養は心を豊かにする知識を指します」といった表現がなされますが、実際には「心の豊かな人が持っている知識を教養と呼んでいる」って定義したほうが使い勝手もよろしいのではないかと。

 

 


そのため、この考え方をベースに、ご質問にお答えすると、

 

  • 教養は結果として身につくものなので、意図しては身につけられないものとして考えたほうが楽だし、使い勝手がよい

 

って感じになります。たとえば、カワゲラっていう虫は川の美しさを示すサインとして使われてますが、だからといって汚い川にカワゲラを放っても水はきれいにならないじゃないすか。それとおなじで、意図的に「教養を身につけるぞ!」と考えても、実りは少なかろうってことです(カワゲラの放流よりは意味があるでしょうが)。

 

 

まー、そんな感じで、「教養ってなに?」って問題については、「指標だよなー」ぐらいに扱っておいたほうが、気が楽になっていいんじゃないでしょうか。これなら定義づけの泥沼にハマらずに済むし、そもそも「教養を身につけないと…」って悩みからも解放されますからねぇ。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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