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2022年11月に読んでおもしろかった6冊の本と3本の映画

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2022年11月版です。新刊の作成は一段落しまして、1月ごろに「運を科学する」ような本が出る予定です。お願いしまーす。

 

 

ということで、今月に読めた21冊から、おもしろかったもののご紹介です。

  

 

 

運動の神話

 

人体六〇〇万年史」のダニエル・E・リーバーマン先生が、「なぜ運動は健康に役立つのか?」を掘り下げた本。リーバーマン先生については、このブログで何度も紹介していて、「人間は『運動をサボる』ために生まれた」や「人間は年をとったから動かなくなるのではない、動かなくなるから年をとるのだ!仮説」あたりが代表的。本書の内容も、これらのエントリをさらに拡大した内容になっております。その点で、リーバーマン先生の考え方を復習するのに役立ちました。

 

全体的には理論がメインの本ですけど、その他にも「運動のモチベーションを上げる方法」や「最適な運動の種類と量」など、すぐに役立つ知識もまとまってまして、幅広い層に役立つのではないかと思います。

 

 

 

脳の外で考える

 

2021の10月ごろに当ブログで紹介しまくった本の邦訳版です。翻訳がどうなるのかが気になるところがあったんで、再読してみました。

 

内容については過去のエントリを参照していただければと思いますが、ざっくり言えば「身体知の使い方」をベースにした内容で、「ジェスチャーを使うと理解力が上がる」や「運動で知識の活用レベルが広がる」のように、肉体を使って精神の働きを拡張する方法がまとまった良い本です。身心一如の科学って感じですね。

 

惜しむらくは全体を貫くフレームワークがないところですが、小難しい身体知の研究をTIPS集に落とし込んでくれているので、「すぐに使える知識が欲しい!」という方はお楽しみいただけるでしょう。

 

 

 

カラマーゾフの兄弟

 

6ヶ月ぐらいかけて読了。前に「罪と罰」を読んだときに、「自分はドストエフスキー先生と問題意識を共有していない!」とか思ったんですが、今回もやっぱり同じことを思ったりしました(特に神と信仰のとこが)。

 

その点で私はドストエフスキー先生の良い読者ではないんですが、それでも本作はエンタメとしての強度が高く、「聖なる長老の遺体が腐ってみんな大騒ぎ!」とか「逆転裁判ばりのディベートが展開する法廷バトル!」など、ところどころで出てくるおもしろシーンの読み応えにやられました。

 

特に4巻で登場する腕利き弁護士のキャラが最高で、この人を主人公にしたスピンオフを誰か書いて欲しいっすね(というか、「ベター・コール・ソウル」がかなり近いですが)。

 

 

 

「社会正義」はいつも正しい

 

「差別はダメ!」って考え方が正しいのは間違いないものの、現代のアカデミズムって社会正義を性急に支持しようとして暴走してないか? ってあたりを掘り下げた本。というと、ポリコレのバックラッシュ本のようにも見えますが、要するに、いまの社会正義に関する研究って、ちゃんとしたデータにもとづいてなくない? 結論ありきで研究を進めるから、意味不明なものになってない? と指摘しているだけでして、まことにお説ごもっともかと思います。

 

個人的に最もヒザを打ったのは「現代の社会正義研究の背景には、ポストモダン思想がある!」ってとこでして、ポモとかニューアカの流行期に学生時代を過ごした人間としては、「まだ生きてたのか……」って気分になりましたね。とりあえず、近年のSNSでよく見かける社会正義バトルに違和感を覚えているような人は、チェックしておいて損のない一冊ではないかと。

 

 

 

江戸の読書会

 

江戸時代に「読書会」という勉強法がいかに広まり、いかに日本人の精神を形作っていったかを解き明かす思想史の本。近代精神の形成とか、社会的なヒエラルキーの問題とか、いろいろな視点をふくむ本なんですけど、私としては荻生徂徠の学習観が最も響きました。

 

簡単に言っちゃうと、荻生徂徠が主張する学習観は、現代でいう「アクティブ・ラーニング」にかなり近いんですよね。本書で披露される荻生徂徠の言葉は、いまの研究から見ても「うーん、正しい」としか思えず、あらためて過去の賢人の先見性にビックリというか。

 

さらに、その後でアクティブ・ラーニングに難色を示す学者も現れるんですが、こちらの意見も非常にうなずけるものでして、「こういうタイプのディベートの内容も、本質は昔から変わらんのだなぁ……」って気分になりました。

 

 

 

ある男

 

死んだ夫の遺影を見た遺族が『これ誰?』と言い出した!」というツカミから、一気に引き込まれる一作。といっても、ゴリゴリのミステリーではなくて、「人間が入れ替わる」って謎を起点として、「アイデンティティの虚実」や「虚構による救い」みたいなテーマにつなげていく、めっちゃウェルメイドな小説になっておりました。

 

欲を言えば、本書はウェルメイドすぎるところがあって、「もうちょい破綻してもええんやで!」ぐらいに思いましたが、これはただの難癖であります。神経が行き届いた小説が好きな人におすすめ。

 

 

 

すずめの戸締まり

 

わたくし、これまで新海誠監督の良い観客ではなく、ポエミーなモノローグの多用や、過度な音楽の使い方にも乗れない人間だったのですが、今作は落ち着いた演出を見せつつもアクションのダイナミックさは残っていて、正面から楽しむことができました。

 

「天災は忘れたころにやってくる」という昔ながらの言い回しがありますが、このフレーズを視覚的なメタファーにしたうえで、「人の忘却こそが災いである!」ってテーマを展開していく発想がすごいっすね。そのための主人公として「過去の記憶にふたをしている少女」を設定しているのも上手ですし、ラストシーンで扉を閉ざすことの意味が反転して、記憶の解放につながるとこもうまいもんですなー、と。全体の結論も、「最後は自分で自分を救おうぜ!でも他人の助けは積極的に受けようぜ!」みたいになってるあたりが、原始仏教っぽくてしっくりきました。

 

ちなみに、本作の国家神道っぽさにひっかかる人もいるかもですが、私には、エヴァのグノーシス主義みたいな「中二の意匠」のようにしか思えなかったので、そこは気になりませんでした。おそらく監督さんの陰陽思想的な感覚に、神道の意匠がフィットしただけじゃないかなぁ。

 

 

 

RRR

 

英国植民地時代のインドを舞台に、拉致された妹の奪還に燃える男と、国を救う使命に燃えた男がぶつかりあう激アツアクション。80年代の少年ジャンプでよく見た陽気な荒唐無稽さと、近年の映画が獲得した上質なストーリーテリングと、社会問題へのストレートなメッセージが高度に合体していて、映画の熱量で言えば「トップガン マーヴェリック」に匹敵する傑作じゃないでしょうか。

 

なかでも「英国の屋敷にトラックで突っ込んでアニマル大合戦」と「自分を舐めてきた英国人を片足ダンスで圧倒」するシーンの2つは、最大風速でいったら今年に見た映画ではベストの盛り上がりでした。MCUの映画もおもしろいんだけど、なんか最近話が込み入ってるし、ちょっと暗いんだよなぁ……と思っているような方には特におすすめです。

 

 

 

LAMB / ラム

 

牧羊を営む夫婦のもとに、ある日「上半身が羊で下半身が人間の姿をした子供」が現れて……みたいな映画。予告編を見るとホラー映画みたいですが、実際には、ホラーともミステリーともファンタジーともコメディとも取れるジャンルレスな作品で、「いま自分はなにを見せられているのだ!」って感覚が好きな人には激しくおすすめです。逆に言えば、映画を見ながらシーンごとに鑑賞モードをチューニングしていかないと、ただの退屈な作品で終わっちゃう可能性があるのでご注意ください。

 

ちなみに、わたくし普段は黙って映画を見るタイプなのですが、後半10分の展開には、思わず「えっ……」と声が漏れてしまいました。あれはズルいなぁ……。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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