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2022年8月に買って良かった6冊の本と、1本のドラマとその他2点

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2022年8月版です。今月に読めたのは25冊ほどで、先月よりはいろいろ読めてますが、あいからわず新刊づくりで死んではおります。

  

 

 

人はどこまで合理的か?

 

毎度おなじみ天才心理学者ピンカーさんの新刊。今回も上下巻の大著になっていて、あんな忙しい人が、なんでこんなペースで大作を書けるのかと……。

 

ただ、ここんとこ多かった「人類のビッグヒストリー」を描く作品とは違って、今回は「人間って非合理性が内蔵されてるけど、せっかく合理性が備わったんだから、人類の未来のためにも活かすべきだよねー」って内容になっていて、従来作よりは啓蒙要素は抑えめ(下巻からだいぶ啓蒙的になりますが)。その点で従来よりは体系だってないのが残念ながら、逆に「非合理性大全」や「合理ツール大全」みたいなノリで楽しめる内容になってました。「こんなツールがあるんだなぁ」みたいにチビチビ読み進めると楽しいんじゃないでしょうか。

 

ちなみに、ピンカー先生の本は、なぜか2014年の「The Sense of Style」だけ日本版が出てないので、邦訳はよ。思考ツールとしての「文筆」について書かれた実用的な本で、良いと思うんだよなぁ(まぁ英文に向けたアドバイスを翻訳しにくいのかもですが)。

 

 

 

進化を超える進化

 

ヒトってなんでここまで進化できたの?」って疑問を探った本で、たとえばハラリ先生は「虚構だ!」と言うし、ヘンリック博士は「文化だ!」と言うわけですが、本作ではもうちょい粒度を細かくして、「火、言葉、美、時間」という4つの要素を上げてくれてます。火や言葉はヘンリック先生の本でも挙げられてたポイントですけど、ここに美と時間を持ってきたのが新しいとこですね。

 

個人的に、最近「時間術」の本を書いたばかりだったので、「時間の発明が世界の客観的な把握を可能にした」って指摘はなるほどねーって感じでありました。この結論を導くためにくり出される雑学も楽しく、進化に興味がある方なら楽しくお読みいただけるのではないかと。

 

 

 

人類の起源

 

ここ十数年で激しく進んだゲノム解析の技術でわかった、“人類の起源”に関する最新の知見をまとめたよ!という本。近ごろ遺伝人類学の進化がすごいことになっているってのは知ってたんですけど、その内容を手際よくまとめてくれているうえに、最新の情報を使って人類の通史として編み直してくれていて、見た目は地味でも実はかなりすごいことをやっている本じゃないでしょうか。

 

でもって、最新の人類史をたんねんにたどったうえで、最後には「結局みんなごっちゃごちゃで【人種】なんてないんだから、仲良くしようぜ!」(意訳)という結論になりまして、そこもまたよしでしたねー。

 

 

 

読者に憐れみを

 

カート・ヴォネガットの発言を、お弟子さんがまとめた創作法&文章指南の本。とはいえ、ヴォネガット大先生のことなので、「体系だった説明」とか「読者に伝わる書き方」みたいなことは教えてくれず、散らかったエピソードを読み手が噛み砕いて、積極的に栄養を摂取しなきゃいけない内容になっております。

 

おそらく、これを読んで創作がうまくなる!とか文章がスラスラ書ける!なんてことは絶対にないものの、なんらかの創作活動をしている方であれば、メンタル面のサポーターとして役立ってくれるでしょう。「頭のからっぽな作家を、文章がうまいからという理由で尊敬するか?」みたいな金言も多いので、細かいエッセイ集として読むのもおすすめ。

 

 

 

禁色

 

三島由紀夫の1951年作品。女性への逆恨みがヒドい老作家がゲイの超美青年とタッグを組み、自分をおとしめた3人の美女へ復讐を狙う!みたいな導入からバツグンにおもしろく、中盤からも昼ドラ並みのエグい展開が何度もあるため、最後までテンションを落とさず読めました。小難しい話じゃないし、ストーリーがエンタメ寄りなので、文学が苦手な方でもいけるんじゃないでしょうか。

 

地の文でキャラの思考や感情をガンガンに説明する「心理小説」系の作品なんですが、その文章がいちいちゴージャスな美文なうえに、そのくせ論理の流れは端正で無駄がないしで、あの筒井康隆が若いころに読んで「こんなスゴい文が書けないとダメなら作家なんて無理じゃん!」と絶望したというのも納得と申しますか。おかげで、文章をじっくり読んでたら、読了まで3ヶ月ぐらいかかってしまいました。楽しかったなぁ。

 

 

 

ベター・コール・ソウル

 

悪徳弁護士がどん底に落ち込んでいく様子を描く全63話のドラマ。最強の海外ドラマ「ブレイキング・バッド」のスピンオフ作品と聞いた当初は、「ありゃあ超えられないでしょ!」とか思ったもんですが、終わってみれば、あらビックリ。余裕で「ブレイキング・バッド」と並ぶ傑作になっていて、完走後は何もする気がしなくなりました。

 

基本は「人生の後悔にどう向き合うか?」を丁寧に描いたドラマで、クリフハンガーをほぼ使わず、人がほとんど死なず(前半は)、おおげさな展開も控え、復讐や成功といった大きなゴールも設定せず、それでもエンタメとして最高におもしろいのが奇跡っすね。


見る側にリテラシーの高さを求めるストーリーと演出も好ましく、すべてのシーンが複数の意味を持つし、気を抜くと見逃すような小物にすらメタファーが仕込まれているしで、視聴者を信頼してるなーって感じがしますね(と言いつつ、私もすべての演出意図をくみ取れてる自信はまったくないのですが)。

 

もっとも、そのぶん展開はかなりスローなんで、めまぐるしい話運びを求めちゃう人には辛いでしょうが、かのギレルモ・デル・トロ大先生は、こんなツイートをしておられました。

 

ほとんどの脚本家が理解しているひとつの方程式があり、これが「ブレイキング・バッド」と「ソウル」の違いだろう。プロットが減るほど、ストーリーは豊かになる。プロットはリズムで、ストーリーはメロディだ。

 

要するに、本作は大きな展開と引き換えに豊かなストーリーを手に入れているんだってことで、まことに至言と申せましょう。

 

 

 

その他もろもろ
  • 仏像のひみつ:仏像にまつわる豆知識を、わかりやすいイラストとともに教えてくれる本。仏像の種類のような基本を押さえつつも、「仏像は時代とともに太ったり痩せたりする」とか「仏像は硬いのと柔らかいのがある」みたいに、従来の仏像本には見られない視点がいくつもあって、類書のなかではかなり楽しい一冊でした。

 

  • 女神の継承:タイの田舎で悪霊に取り憑かれた娘に立ち向かう一家を描く、フェイク・ドキュメンタリー。正直、「なんでこんなに撮影隊が!」「なんでここを撮影してるのか?」みたいなノイズも多い作品なんですけど(「呪詛」より多い)、悪霊憑きの娘さんと霊媒お姉さんの演技がすばらしいし、過去の有名ホラー描写の詰め込みセットみたいな展開もサービス精神満点だし、タイ版エクソシストとして楽しめました。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。