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脳に良く効く最新データ3選:脳に効く スポーツ、ADHDに良い運動、VRで脳が改善

 

「脳の働きを改善する方法!」みたいな研究がいくつか出てたんで、ここでまとめてご紹介しておきましょう。

 

 

 

サッカーが子どもの脳に効く!?

「子どもにサッカーをさせると脳が育つかも?」みたいな報告が、アメリカの大規模な研究(R)から出ておりました。これは米国のAdolescent Brain Cognitive Development(ABCD)のデータを使ったもので、9〜10歳の子ども9,898人を対象にしているというから、なかなかのビッグデータですな。

 

調査では、以下の3つの活動グループに子どもを分けて、実行機能(エグゼクティブファンクション)のテストを行ってます。実行機能ってのは、「考える」「切り替える」「抑える」などの処理を行う脳の司令塔機能のことで、具体的には以下のようなスキルが含まれます。

 

  • ワーキングメモリ:頭の中で情報を一時的に保持して操作する力
  • 認知的柔軟性:状況に応じて行動を切り替える力
  • 抑制制御:衝動を我慢して行動をコントロールする力

 

当然ながら、子どもに限らず大人にもめっちゃ重要な能力で、人生を決める能力とまで言う専門家もいるほどだったりします。これがスポーツで伸びるのなら素晴らしいことですな。

 

でもって、この研究では、子供たちが行ったスポーツの種類を以下のように分けています。

 

  • オープンスキル系スポーツ:サッカー、バスケットボール、テニスなど、 環境が変化する中で、瞬時の判断・適応が求められるもの。

 

  • クローズドスキル系スポーツ:水泳、陸上、体操など、 環境が安定していて、同じ動きを繰り返すもの。

 

  • 非スポーツ系活動:音楽、絵画、チェスクラブなど、 身体的運動は少なく、認知的負荷の高い活動。

 

要するに、「動きが予測できない vs 予測できる vs スポーツじゃない」という3つの枠組みですね。その結果、頭ひとつ抜けてたのはオープンスキルスポーツでして、ざっくり以下のような差が見られたんだそうな。

 

  • リストソーティング作業記憶テスト:オープンスキル組が他の2つより成績が良かった
  • フランカーテスト(注意の制御力):オープンスキル組がトップ
  • ピクチャーシーケンス記憶テスト:オープン/クローズドともに非スポーツより成績良し
  • ディメンショナルチェンジカードソート(柔軟な思考力):オープンスキル組が非スポーツより高得点

 

こうして見ると、動的なスポーツ(=オープンスキル系)に参加していた子どもたちは、認知機能が一歩リードしていたと言えそうであります。こういった結果が出るのはある意味で当然でして、

 

  • 瞬時の判断と切り替えの連続がある:動的なスポーツの試合中は、相手の動き、味方の位置、ボールの軌道など、絶えず情報が変化する。こうした「予測不可能性」が、脳の柔軟性や反応スピードを刺激してくれるのだと思われる。

 

  • チーム内の意思疎通・戦略的思考の違い:サッカーやバスケでは、「いまは自分が動くべきか?」「パスを出すべきか?」といった判断が求められる。このような社会的スキル+戦略性のミックスが、実行機能をガンガン鍛える材料になるのだと思われる。

 

  • 意欲と集中の持続:試合のような“楽しくて意味のある活動”は、モチベーションが上がりやすく、脳の注意資源を効率よく使えるようになる可能性もある。

 

ってことで、これらの要素が組み合わさって、オープンスキルな運動の効果を高めているんじゃないかと思うわけです。もちろん、親の教育スタイルや学校の環境といった未測定の要因が結果に影響している可能性は十分にあるし、あくまで横断研究(1時点の観察)なので「因果関係がある」とは断言できないところは注意していただきたいですが、「脳を育てる運動とは?」って問題を考える上では、かなり価値ある知見ではないかと思うわけです。

 

いずれにせよ、「脳には“正解のない状況”がいい刺激になる」ってのは、ある程度確実な知見だと思いますので、脳への刺激を求めてオープンスキル系のスポーツをやってみるのも良いんじゃないでしょうか。

 

 

 

ADHDの10代に効く「たった週1回の習慣」とは?

ADHD(注意欠陥・多動性障害)の当事者にとって悩ましいのはメンタル面の不調の問題でしょう。ADHDを持つ人は、うつ、不安、ストレスへの耐性の低さなど、二次的な問題を抱えやすいというデータもありますからね。

 

そんな中、「運動がADHDの子の心の健康を改善するかも?」という、興味深い研究(R)が出てきたので内容をメモっておきましょう。

 

この研究は、ADHDを持つ思春期の男女80人(平均年齢はおそらく10代後半)を対象にしたランダム化比較試験で、対象のうち9割が男子だったとのこと。研究チームは、参加者は以下の2グループに分けてます。

 

  • 運動グループ:週に1回、60分間の有酸素運動を12週間続ける
  • 対照グループ:運動以外の活動を行う(たとえば、教育的なグループセッションなど)

 

そのうえで心理尺度とコンピュータベースの課題を使って、以下の項目を定期的にチェックしたんだそうな。

 

  • 抑うつ
  • 不安
  • ストレス
  • レジリエンス(心の回復力)
  • 抑制機能
  • 攻撃性

 

その結果、どんな違いが確認されたと言いますと、運動したグループは、

 

  • うつ・不安・ストレスが有意に改善:運動グループでは、12週終了時にこれらのスコアが大幅に低下。しかも、運動が終わったあと12週間たっても、その効果が持続していたそうな。

 

  • レジリエンス(心の回復力)もアップ:ただし、こちらの効果は運動をやめたあとは持続しなかった。つまり、レジリエンスは「やってる間に強化される」系のスキルなのかもしれませんな。

 

  • 攻撃性・抑制機能には変化なし:残念ながら、行動面の衝動性や攻撃的傾向については、大きな差は見られなかったらしい。

 

って感じで、なかなか良い違いが確認されたみたいですね。ADHDの10代においてここまで明確な効果が出たのは、おそらく運動で神経伝達物質が増えたり、ストレスが軽減されたり、「1時間の運動をやり遂げた」という体験が自己効力感を上げたりといった原因があるでしょうが、ADHDの子は“できなかった”体験が積み重なりやすいので、これは大きな意味があるかもしれませんな。

 

まあこの研究は参加者の9割が男子なので、女子における効果や、性別による違いはまだよくわかってないので、その点はご注意ください。また、攻撃性や衝動性には効果がなかったって結果も出ているので、運動にそこまでの期待を抱くのも禁物でしょう。

 

とはいえ、「うつ・不安・ストレス」という見えにくい苦しさに対して、簡単かつ副作用の少ないアプローチとして運動が有効かも?ってのは、かなり希望が持てる話じゃないかと。「週1回でも、ちゃんとやればメンタルは変わるかも」ってのは、非常に良い知見ですな。

 

 

 

仮想空間で畑仕事をすると頭が良くなる!?

歳を重ねると、どうしても記憶力が衰えてくるものでして、私自身も40代半ばを過ぎたあたりから「あれ、あの単語なんだっけ?」ってケースが激増しております。そんな中、「VR(バーチャルリアリティ)で園芸をすると『認知機能』と『身体能力』が同時に上がるぞ!」という、ちょっと変わった研究(R)が出ていて面白かったです。

 

こちらは60~80歳の高齢者137名を対象にした8週間のランダム化比較試験(RCT)で、参加者を以下の2グループに振り分けてます。

 

  • VR園芸グループ: ヘッドセットとワイヤレスコントローラーを装着し、仮想空間で種をまいたり、水をあげたり、収穫したりといった園芸作業をシミュレーションする(1回60分×週2回)
  • 対照グループ: 折り紙や手芸などの非認知系アクティビティをする(同じく1回60分×週2回)

 

こんな感じで、“脳を使う体験”と“脳をあまり使わない体験”による効果の違いを比べたわけですな。

 

その結果がどうなったかと言いますと、

 

  • VR園芸グループは、記憶力・認知力・身体機能のすべてで、対照グループよりも有意な改善が見られた。
  • 具体的には、「小〜中程度の効果」が認められたそうでして、これは「誤差レベル」ではなく、「ちゃんと変化した」と言えるくらいの変化量。

 

だったそうで、1回60分の活動を週2回ずつ8週間だけやったわりには、なかなかよろしい成績ではないでしょうか。これはやってみたい……。

 

「なんでVR園芸が脳に効くの?」と思う方も多いかと思いますが、考えられる原因としては、

 

  • 身体と頭を“同時に”使うから:園芸作業は、一見すると単純だけど、「どこに何を植えるか」「いつ水をやるか」といった段取りを考える要素が満載。しかもVRではコントローラーを使って手を動かすので、脳と身体を同時に刺激するマルチタスク型の活動になる。これが、前頭前野(判断・注意・計画などを司る領域)や運動皮質などをまんべんなく刺激するのかもしれない。

 

  • 「没入感」が脳の活性を促す:VRの特性として、「まるで本当にその場にいるような感覚」が得られるため、この“臨場感”や“リアリティ”が、記憶や感情に強く残りやすい体験を作り出してくれる。

 

  • 「やらされ感」が少ない:高齢者向けの認知トレーニングはどうしても「課題っぽさ」が前に出がちだが、VR園芸は「成果が目に見える」ので、達成感と意味づけがしやすい。これがモチベーション維持に効いてると思われる。

 

まあこの研究だと、継続的な効果(数ヶ月後の状態)はわからんですが、「こんなにライトな介入でこれだけの変化が出た」ってのは、わりとポジティブなサインかもしんないですな。これは未来の健康法としてアリやで……。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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