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「ウソ」と「カンニング」の違いとは?心理学で判明したAI時代の不正行動の正体とは

  

  

「AIで文章を作りまくってます!」という方は多いでしょう。私もめっちゃAIに依存してまして、日々のメールなどはだいたいChatGPTに書いてもらってます。最近は書籍も書いてもらいたいと思ってるものの、本の執筆についてはAIを使うことで逆に必要な手間と時間が増えちゃいまして、「まだ難しいもんだなー」とか思ってますが。

 

で、閑話休題。最近では教育現場で「AIカンニング問題」が深刻化しているのはご存じのとおり。学生の提出物を見て「これ、本当に本人が書いたのか?」と頭を抱える先生が増えているそうで、なかなか大変ですな。もちろん、AIによる自動生成かどうかを見抜くための検出ツールはありますが、実際のところ「ちょっと手を加えればバレない」ってのが現実ですしね。

 

では、そもそも「不正」ってのは、どういう心理で行われるものなんでしょう? さらには、ウソとカンニングって、どこがどう違うんでしょうか?

 

ということで、このあたりの問題に明確な指針を与えてくれたのが、2025年にUCLAのサミュエル・スカロネック先生が発表した研究(R)であります。この研究では、ウソとカンニングの違いを明確に定義してまして、不正行為を大きく2つの段階に分けて考えております。

 

  • パフォーマンス段階:実際にどんなズルをしたか。
  • 報告段階:自分の行動を伝える時にズルをしたか。

 

たとえば、就職活動のエントリーシートに「TOEICスコア900点」と書いたとしましょう。これを上記の分類にしたがってわけると、こんな感じになります。

 

  • ウソつきタイプ:本当はTOEICのスコアが700点なのに、点数を盛って報告する。ただし、成績証明書などの証拠は提出しない(=報告段階のウソ)
  • カンニングタイプ:本当はTOEICのスコアが700点なのに、偽の成績証明書を作って提出する(=パフォーマンス段階の不正)

 

つまり、ウソは「本当の行動を少し曲げて報告」するのに対し、カンニングは「最初から行動そのものを偽造」するって違いがあるわけですね。この区別は地味に重要でして、というのもカンニングのほうが心理的なブレーキが外れやすく、より大きな不正を生みやすいって傾向があるからです。まあカンニングのほうが大胆な罪を犯してるんで、これは当然でしょう。

 

ってことで、上記の心理を確かめるために、この研究では14件の実験を通じて約7700人の参加者を分析しております。たとえば、被験者に指示されたのは、こんな課題です。

 

  • 単語記憶タスク:25個の単語を記憶する課題を指示。成績に応じて報酬をもらえる(全部覚えたら30セント)
  • その際に、2種類の条件を作る。
    • カンニング条件:すべての単語が一気に表示され、スクリーンショットで保存が可能
    • ウソ条件:単語をスクロールしながら覚える必要があり、暗記力が試される

 

このデザインで実験を行うと、「カンニング条件」では偽の「記憶した証拠」をつくる余地があり、「ウソ条件」では見た単語数をごまかす(=ウソ)ことが可能になるわけですな。

 

で、その結果がどうなったかと言いますと、

 

  • カンニング条件:21%が「全部覚えた」と虚偽申告
  • ウソ条件:15%が「全部覚えた」と虚偽申告

 

って感じだったそうな。ここからわかるのは、人はウソをつくよりも、証拠を偽造して得をしようとする方が大胆になりやすいってことですな。

 

でもって、さらに興味深いのは、ズルをした人ほど「自分は優秀だ!」と錯覚する傾向が強かったところです。データによると、カンニングした人の多くが「自分は高い記憶力を持っている」と回答していたそうで、俗に言う「根拠なき自己効力感」に満ちてしまったわけですな。これは怖いバイアスですなぁ。

 

では、なぜ人は“少しのウソ”なら平気でつけるのか?ってことで、ここで注目したいのが、「真実の引き延ばし仮説」って概念であります。これがどういうことかと言いますと、

 

  • 人は完全なウソは嫌うけど、ちょっとだけなら曲げてもOKだと思いやすく、それが積み重なってドえらい不正に進んでしまう!

 

ってバイアスのことです。たとえば、上の実験で言えば、25個の単語のうち20個しか覚えていないのに「5個分くらいならセーフでしょ」という心理が働き、これが積み重なっていくってことですな。小さな歪みなら罪悪感をあまり感じずにいられるってのは、当然の心理でしょう。

 

が、これがカンニングまで進むと話は別でして、「証拠自体をねつ造できるよー」って可能になると、わりと多くの人は思い切ってズルをしがちだし、それに加えて「これだけ手間をかけたんだから報酬を得るのは当然だろう!」と自分を正当化しちゃう傾向まであるわけっすね。

 

こうして見ると、研究の結果から導き出される実用的なアドバイスは、以下のようになるでしょうな。

 

  1. 「作る過程」に誇りを持たせる:不正行為のチャンスがある状況では、これから自分が作成するものが「個人的に誇りを持てるものであるべきだ」ということを明確にするのがよさげ。例えば、職場で「この報告書はあなたの仕事への取り組み方を表すものですよ!」と強調したり、学生には「これはあなたが自力で作成し、自信を持って提出できる作品であるべきだ」と語りかけたり、とかですな。研究でも、「自分の成果物に誇りを感じている」人ほど不正行為をしにくいことがわかってますんで。


  2. “先回りの罪悪感”を促す:人間は行動の“あと”に罪悪感を感じるのではなく、“前”に想像することで抑制がかかる生き物だったりするので、「これをやったら、後からどんな気持ちになるか?」と自問することで、ズルを思いとどまりやすくなる。たとえば、もし相手が真実を少しだけ歪曲する傾向があるなら、「たとえ小さな嘘でも、あなた自身の評価や信用に悪影響を与えますよ」と具体的に示すことで、正直に行動するように説得できるかもしれない。


  3. 「証拠提出=信頼の担保」ではないことを知る:スカロネック先生は、「証拠を求めることが逆に不正を誘発するケースがある」とも指摘しておられます。たとえば、「経費報告書を出せ!」と言われたら、「じゃあ、それっぽいのを作ろう!」と考えてしまうようなケースですな。なので、証拠の提出を重視するよりも、「信頼」を前提にする環境づくりのほうが重要ってのも大事なことでしょうな。

 

まあここらへんの知見はAIの普及とは関係ない人間の心理なんで、自分のズルを抑えるためにも、他人のズルを防ぐためにも、幅広く活用できる感じじゃないでしょうか。あと、AIについては、個人的には「生成AIと脳」で池谷先生が言ってたように、『AIを必ず使うように!』って前提で取り組ませたほうが良いようにも思いますなぁ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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