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人生を細胞から若返らせる「つながり貯金」の凄さの話

   

 

「人とのつながりは健康にいい!」って話は、このブログをお読みの方ならおなじみでしょう。事実「孤独はタバコ並みに体に悪い」なんてデータもありますし、過去20年以上の研究でも「人とのつながり」は寿命の延長や病気の予防と強く関連していることが示されてきてるんですよ。たとえば米国で行われた有名なメタ分析(R)では、社会的に孤立している人は、そうでない人に比べて死亡リスクが26%高いという結果も出てたりします。

 

で、新しい研究(R)は、このテーマについてさらに一歩踏み込んでまして、「人生を通じて人とのつながりが豊かな人は、細胞レベルで若返っている」って報告してて面白かったです。

 

 

 

「ソーシャル貯金」という考え方

これはコーネル大学のアンソニー・オン教授が率いた調査で、彼らが注目したのは「累積的ソーシャルアドバンテージ」って概念であります。なんだか難しそうな言葉ですけど、ざっくり言えば「一生を通じて積み上げてきた社会的資産」のことで、シンプルに表現すると、

 

「社会的つながりは退職口座と同じ。早くからコツコツ積み上げておけば、後年に大きなリターンが返ってくる」

 

って感じです。他者とのつながりを、老後資金の積立てのような考え方として捉えてるわけですな。

 

では、この「つながり貯金」にはどれだけ大事なのかってことで、研究チームは「Midlife in the United States(MIDUS)」という大規模縦断研究を使い、2,117人(平均年齢55歳)のデータを分析したんですよ。まず研究者たちは、16項目の質問票を組み合わせて「つながり貯金スコア」を作成。以下の4分野をチェックしております。

 

  1. 子ども時代の親からのサポート

  2. 地域コミュニティとのつながり

  3. 宗教・信仰コミュニティへの参加

  4. 友人や家族からの情緒的サポート

 

要するに「その瞬間の人間関係」ではなく、「人生全体を通じて育んできた関係性」が評価の対象になってるわけです。その上でみんなの以下のような生物学的な指標もチェックしてます。

 

  • エピジェネティック老化:DNAメチル化パターンから生物学的年齢を推定する“エピジェネティッククロック”を7種類使用。特に「GrimAge」と「DunedinPACE」は死亡リスクや老化速度を高精度に予測する。

  • 慢性炎症:血液中の炎症マーカー(IL-6、CRPなど)を測定。これらが高いと心血管疾患や認知症リスクが跳ね上がる。

  • ストレスホルモン:一晩の尿サンプルからコルチゾールやアドレナリン系ホルモンを計測。

 

その上で、さらに年齢、性別、人種、教育、収入といった変数を統計的に調整し、「健康な人はそもそも友達が多いんじゃないの?」という疑いもできるだけ排除したんですよ。

 

 

 

結果:つながりは「若返り」を生む

では、分析の結果を見てみましょう。「つながり貯金」と老化には、こんな関係が見られました。

 

  • ソーシャル貯金が多い人ほど、エピジェネティック年齢が若い:7種類すべてのエピジェネティッククロックで確認。特にGrimAgeとDunedinPACEでは効果が顕著だった。

  • 炎症レベルが低い:特にIL-6で強い関連。低炎症=長寿リスク低下を意味するので、これもナイスな結果。

  • ストレスホルモンは無関係:一晩のサンプルでは有意な関連なし。短期的なストレスより、長期的な関係性が重要だと思われる。

 

ってことで、「つながり貯金」の効果ってのは、「気持ちが温かい」とか「寂しくない」といった心理的な効果にとどまらず、DNAの老化スピードや慢性炎症のレベルにまで良い影響を与える可能性が示されたわけです。オン教授いわく、

 

「社会的資源は積み重なっていく。今日の友達だけでなく、人生を通じて育んだつながりがあなたの健康を形づくる」

 

とのことで、いかに社会的なサポートが長期的な影響を及ぼすのかを強調しておられました。こりゃ凄いですねぇ。

 

もちろん、この研究にはいくつかの制約がありますんで、そこは押さえておきましょう。

 

  • 横断研究であること:因果関係は証明できないので、もしかすると「健康な人が友達を作りやすい」だけかもしれない。

  • 未計測の要因:遺伝的な気質(外向性など)や、幼少期の逆境が影響している可能性がある。

  • ストレス測定の限界:尿サンプル1回だけではストレス応答の全体像はつかみにくい。今後は唾液を使った日内変動の測定が必要。

 

ここら辺は、結果の判断を難しくしてるとこなんだけど、それでも「つながりと老化」の関連をエピジェネティックなレベルで示した点は画期的と言えるんじゃないかと。

 

 

 

この知見を日常生活にどう活かすか?

そんなわけで、この研究をもとに、私たちが「つながり貯金」を積み上げようと試みるのであれば、以下のような対策が考えられましょう。

 

  1. 「弱いつながり」を大切にする近所の人に挨拶、コンビニの店員に笑顔で「ありがとう」。こうした“弱いつながり”でも、心理学的には孤独感を減らす効果が大きいんで。

  2. 長期的なコミュニティに属する趣味のサークルや地域活動、あるいはオンラインの勉強会でもいいので、とにかく「年単位で関われる場」を持つ。

  3. 支援を与える「助けてもらう」だけでなく「助ける」側になることで、絆は強化される。研究でも“与えるサポート”の方が健康効果が大きいとされる。

  4. 早く始める老後に急に友達を作ろうとしても難しい。退職後の孤独が問題化するのはそのため。若いうちからコツコツ積み立てを。

 

どれをやるのかは皆さま次第ですが、いずれにせよ人とのつながりは「メンタルケア」だけでなく「アンチエイジング戦略」でもあると考えて取り組んでいただけると良いのではないでしょうか。下手すりゃ食事・運動・睡眠が万全だったとしても、「つながり」がダメだったら寿命は縮まるかもしれないんで。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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