「時間が過ぎるのが速すぎる!」をなくすための3つの習慣
「時間が過ぎるのが速い!」って問題は、誰もが味わったことがあるものでしょう。仕事をして、スマホを見て、ご飯を食べて、気づいたらもう寝る時間、朝起きてから何をしていたか、いまいち思い出せない……みたいな感覚ですね。私も加齢とともに似た感覚が増す一方でして、もう10月になったのに体感ではまだ4月の気分であります。切ない。
この現象が起きる理由についてはいくつか仮説があるんだけど、新しい研究(R)では「時間の粒度が原因なのだ!」って考え方を提示していて面白かったです。
“時間の粒度”という見えないスイッチ
これはロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校の研究で、チームは157人の若者に、アルフレッド・ヒッチコックの短編ドラマ『バァン! もう死んだ』を見せて、「ひとつの出来事が終わり、次が始まった」と感じた瞬間に手持ちのボタンを押してもらったんだそうな。
それと同時に参加者の生活パターンを詳しく調べ、いつもどんな人と、どれくらい会っているか、どんな場所で過ごしているかなどをチェックし、上記のテスト結果と比較を行ったらしい。要するに、普段の日常で「どれだけ多様な体験をしているか?」ってのを測ったわけです。
すると、結果は非常にシンプルで、
- 人との交流や日常の変化が多い人ほど、映画の中でより多くの「区切り」を感じていた!
って相関が強く表れたというんですな。
この結果が何を意味するのかと申しますと、簡単に言えば「時間の速さ=出来事の区切りの数じゃないの?」ってことであります。どういうことかと言いますと、
- 私たちの脳ってのは、現実の出来事を“イベント”として記録している(例:「友人と話した」「コーヒーを淹れた」「メールを送った」といった行動を、それぞれ別の“シーン”として区切って保存している)。
- イベントが多いほど、記憶の中の時間は細かく刻まれ、結果として「1日が長く感じられる」。
みたいな感じでして、逆にイベントが少ないと、時間は「一枚の布」のように感じられちゃって、ふと気づけば「朝から夜までが、一本の線でつながっている!」みたいな感覚が発生。そのせいで、あたかも時間が短くなったような感覚が生まれるってことですね。つまり、「1日が速い」と感じるのは、出来事の粒度が粗くなっているサインなんですな。ここらへんは、拙著「YOUR TIME」でも触れた観点と似てますな。
社交的な人は、時間を“細かく”感じる
で、このデータで面白いのは、時間の粒度を細かく保つ最大の要因が「人との関わり」だったところであります。いろんな人と関わる頻度が高い人ほど、ヒッチコック作品の中でより多くの「出来事の切れ目」を感じていたというんですな。
これは、スポーツ心理学の知見と似てまして、先行研究によると、バスケットボールが上手い人ってのは、初心者よりも試合の中で多くのイベントを感じ取るのが上手いと言われてるんですよ。たとえば、「味方がパスを出した瞬間」「相手がディフェンスの位置を変えた瞬間」「ボールの軌道が変化した瞬間」みたいな感じですね。なんでもバスケの熟練者は、相手選手の動きや流れを「変化」として区切る訓練を受けているみたいなんですな。
時間の流れが遅い人もこれ同じで、他者とよく交流する人は感情や状況の変化を読む力が鍛えられ、そのおかげで時間の流れの中でも微細な変化を捉えるのが上手くなり、結果として1日が“長く感じられる”わけです。面白いですねぇ。
ちなみに、意外なことに「孤独を感じているかどうか」は時間の長さとは関係がなかったとのこと。つまり、自分が“寂しい”と思っていなくても、社会的な接触が減るだけで、脳は時間を粗く感じてしまうんですね。言い換えれば、孤独感という“主観”よりも、実際の“体験の数”が時間の体感を決めてるんだって話でして、どれだけ穏やかな毎日を過ごしていても、会話や行動のバリエーションが少なければ1日はどんどん短くなるのだと申せましょう。
さらに、もうひとつ興味深いのは、社会的な多様性と時間の粒度の関係は、不安傾向が高い人ほど強かったって結果が出てるとこですね。不安を感じやすい人は周囲の変化に敏感で、誰かの表情のわずかな変化、声のトーン、空気の揺らぎみたいな変化を検出しやすく、これが時間をより細かく刻む方向に働くんでしょうな。そう考えると、私のように不安症な人間ほど、時間を長く感じられても良さそうなもんですけども、
- 不安な人は、本当は時間を長く感じやすい
- しかし、不安なので人とのつきあいを避ける
- それによって、トータルでは時間が短くなる
ってメカニズムが働いているのかもしれませんな。トホホ。
時間を長くするにはどうすべきか?
では、どうすれば「1日が速く終わる病」を防げるのか? 上記の研究をもとに、いくつかの対策を考えてみると、こんな感じになるんじゃないでしょうか。
- 人との会話を「多様化」させる:人と話すことが、時間の粒度を保つための基本。ポイントは「会話量」ではなく「会話の多様性」でして、仕事仲間じゃなくて趣味のコミュニティの人と話してみたり、年齢層や立場の違う人に質問してみたり、スーパーのレジやカフェで一言添えてみたりと、おそらく「週に一度ぐらい普段話さない人と5分話す」だけでも、脳は時間を細かく切り始めるはず。
- 空間を「スイッチ」として使う:もうひとつの鍵は「空間的な多様性」で、研究では、1日に訪れる部屋の数や屋外に出る頻度も影響してたとのこと。たとえば、朝はリビングで作業したら昼はカフェに行ってみたり、定期的に違う道を歩いてみたり、机の配置を週に一度変えてみたり、みたいな感じ。これらの“小さな移動”が脳にとって「出来事の切れ目」になるでしょう。
- 「意味の区切り」を意識して作る:映画のように、日常の中にも“シーン転換”をつくるのが大事。仕事の始まりに深呼吸を1回入れるように心がけたり、コーヒーを淹れながら「ここから午後」と口に出してみたり、一日の終わりに今日のハイライトを1行メモしてみたりすると、脳はこのような「行為+意味づけ」をイベントとして認識し、時間の流れが立体的になるんじゃないかと。
こんな感じで、意識的に日々のイベント数を増やすつもりで暮らすと、時間が長くなるんじゃないかと思う次第です。ポイントは、“大きな出来事”を増やすことじゃなくて、“意味のある区切り”を増やすことなんで、そこは注意したいっすね。
簡単におさらいしておくと、「1日が速い」と感じるのは、あなたの脳が“世界を一続きに処理している”サイン。人との関わりが単調になり、空間に変化がなくなったせいで、時間が滑っていくように感じられちゃうわけですな。こいつを防ぐために、時間の中に“意味の粒”を増やすといいよーってお話でした。これは自分でもやらんとなぁ。