「歳を取って人生がつまんないなー」問題をどう解決すればいいのか?って本を読んだ話。
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『タフな女(Tough Broad)』って本を読みました。意味がわからないタイトルですが、サブタイは「アウトドアの冒険は、歳を取った人たちの人生をいかに向上させるか(How Outdoor Adventure Improves Our Lives as We Age.)」って感じでして、「歳を取って人生がつまんないなー」問題の解決策を示した内容になってます。
女性の加齢に向けた内容がメインですが、ここで披露される知見は、男性の加齢にも十分に適用できるものなんで、「歳を取って虚しくなった……」みたいなミッドライフクライシスな方にも良いのではないでしょうか。
著者のキャロライン・ポール先生はベストセラーを連発している才人で、スタンフォード大学でコミュニケーションの学位を取得しているとのこと。おかげで全体に科学的な思考が貫かれてまして、データにもとづいた議論が展開されていて良かったです。
では、本書から勉強になったところをピックアップしてみましょうー。
- 自分の老いをどう見るかによって、どれぐらい老いるかを予測できる。近年の研究によれば、自分の老いに対する見方によって、どれだけうまく老いることができるのかを予測できることがわかってきた。「歳をとることは体が衰えて弱くなるすることだ!」と考えていた人は、心臓のトラブルや認知機能が早期に低下する可能性がかなり高い傾向があった。
しかし、「歳を取ることは人生の可能性を開くものなのだ!」と考える人は、心疾患のリスクが低く、脳の機能も衰えづらい傾向があった。女性の場合は、加齢をポジティブにとらえる人は、そうでない人より7年半も長生きできていた。
- この問題については、特に女性への悪影響が多い。多くの先進国では、女性の加齢にまつわる有害なメッセージにあふれており、歳を取ることで、女性は容姿が衰え、骨が折れ、認知機能が下がっていくという考え方に取り囲まれていく。しかし、データが示すとおり、実際にはすべて考え方の問題であり、このようなメッセージに抗うのが重要である。
- 自分の老いについてポジティブな考え方を持とうと言っても、ポジティブシンキングでどうにかなるものではない。重要なのは、行動によって、社会が考える「できること」「できないこと」を覆すことである。
そのために、著者はアウトドアを推奨している。自然のなかで遊ぶ行為は畏敬の念を引き起こしやすく、そのおかげで加齢へのネガティブなイメージを覆しやすくなる。
- 畏敬の念とは、何か神秘的なもの、自分自身よりも大きなものの前で感じる感情であり、恐怖、混乱、驚きのすべてが混ざり合ったようなものと定義される。畏敬の念は宗教的な体験と結びつけられることが多いが、夜空を見上げたり、広大なグランドキャニオンを見下ろしたりと、自然によって簡単に引き起こされやすい。
- 畏敬の念の重要性は年ごとに高まっており、UCSFメモリーケア&エイジング研究所の調査では、8週間にわたって60歳から80歳のボランティアに毎日15分ほど屋外を散歩してもらった。その際、全員に「新鮮で子供のような目であらゆるものを見てね!」と指示したところ、参加者はおしなべて畏敬の念を感じ、すぐに幸福感の上昇、不安の減少、感謝と思いやりの増加を報告した。さらには、健康の大きな指標である炎症が有意に低いことも発見した。
- この実験で注目すべきは、散歩の際に、被験者にスマホで写真を撮るように指示した点である。すると、大半の被験者は、最初は画面全体に自分の顔を映し出すことが多かったが、8週間かけるうちに自撮りの量が減り、その代わりに、散歩中の光景の写真が大部分を占めるようになった。科学者たちは、これを「スモールセルフの視点」と呼んでおり、参加者たちの好奇心が育まれ、自分の存在をより健全に感じられるようになったことを示している。
- しかし、現代人は、携帯電話やコンピュータのような、畏怖を感じさせないデバイスに囲まれて生活している。電子のスクリーンは、私たちの集中力を狭める働きがあり、思考が小さくなり、人間を中心に置いた思考をブーストさせる。これは畏怖とは正反対の心の働きである、
一方で、木の葉や樹皮、昆虫や鳥に感嘆すれば、自分自身を中心に置く思考から離れやすくなり、古い神経回路がリセットされ、コルチゾールと炎症レベルが低下する。そのため、科学者たちは、畏敬の念を「脳のリセットボタン」と呼んでいる。
- 外に出ると気分が良くなることは誰でも知っているが、これには生物学的な証拠がある。樹木に含まれる化学物質は、私たちの免疫システムを強化し、血圧を下げる。
鳥のさえずりに関する研究によれば、鳥のさえずりは私たちの気分と認知能力を高めてくれる。この現象は、鳥の鳴き声が、私たちの原始的な脳に「周囲に敵がいない!」と知らせるのが原因だと考えられている。都会の環境のように鳥が静かな場所では、私たちの神経系は一気に興奮しはじめる。
- 地平線や丘のような自然に特有の曲線や、木々や葉っぱのようなフラクタルな要素の繰り返しは、私たちの網膜の構造とよくマッチしており、外にいるときの情報処理を容易にしてくれる。
一方で、交通渋滞や騒音、直線的で硬質な建築物など、都会のなかにいるときには、脳は常にノイズを除去するために働き続かねばならず、脳が休めなくなってしまう。ある研究では、緑地を散歩した被験者は、その後のテストで記憶力や認知力の著しい向上を示しており、これは脳の情報処理能力が上がったのが原因だと思われる。
結論としては、どんな種類の自然環境でも、15分から45分は幸福感が高まる。最低でも、月に5時間は自然の中に身を置くことを考えたい。
- 加齢について多くの人が恐れるのが、認知機能の健康である。これは確かに大きな問題だが、歳を取っても目新しいことや新しいことを学び続ければ、脳は活性化し続ける。
私たちは、年齢を重ねるにつれて脳がガチガチになり、新しい課題に取り組むことができなくなると信じている。しかし、脳には可塑性と呼ばれる要素があり、何歳になっても常に新しい細胞を作っていることが研究で証明されている。
この点でも、アウトドアは私たちの人生に新しさをもたらすのに役立つ。例えば、公園を散歩すれば、雨が降るかもしれないし、思いがけない鳥に出会うかもしれない。そのような意外な事態が起きるたびに、脳は適応しなければならない。