頭を冷やせばパフォーマンスアップ?話題の冷却ガジェット『オミウス』を徹底検証してみた結果
「オミウス」っていうトレーニングアイテムがあるんですよ。アスリートやアウトドア好きに向けて設計された冷却ヘッドバンドで、汗や水分が蒸発する際に熱を吸収してくれるおかげで、頭部を効率的に冷やして身体のパフォーマンスが上がるというんですな。
確かに、体を冷やすことでパフォーマンスが上がるのは十分あり得ることで、たとえばある研究(R)では、ヒートパッドを使って微量の熱を与えられたサイクリストは、体温が変化しなくてもスピードが落ちたと言いますからね。直感的にも暑さで運動の能力が下がるのは理解しやすいでしょう。
事実、オミウスは2019年に世に出たガジェットなんですが、すぐに世界のアスリートから支持を集めまして、エリウド・キプチョゲ、シファン・ハッサン、バシール・アブディといったメダリストなどが愛用しているとのこと。プロのアスリートが使っていて、ちゃんと結果を出していると言われると、ちょっと気になりますな。
では、本当に頭を冷やすことで運動のパフォーマンスは上がるのか?ってことで、初の査読付き論文(R)が発表されておりました。これはシェルブルック大学などの研究で、オミウス社はこの研究に資金を提供しておりません。つまり、完全に独立した状態で行われた研究なわけですな。
ここで研究チームが何をやったかと言いますと、
- 3Dプリンターでリアルな偽オミウスを作る。
- 10人の参加者に2回のランニングテストを指示。テストの内容は、摂氏35℃、湿度56%に設定されたヒートチェンバーの中で、適度なペースで70分間走ってもらい、その後5kmのタイムトライアルを全力疾走するというものだった。
- ランニングテストの際に、本物のオミウスと偽のオミウスを使ってもらい、いろんな生理学的データを測定する。
みたいになります。偽ガジェットを作って効果を検証するって手法は、他のガジェット系研究でもやってみて欲しいですね。
で、この研究で何がわかったかと言いますと、
- 70分間のランニング中、オミウスのヘッドバンドは額の温度を下げ快適さを向上させた。ただし、オミウスを使っても、深部体温や心拍数に変化はなかった(これは予想通りの結果)。
- 5kmのタイムトライアルでは、オミウスを使ってみても、快適さ、総合タイムなど、関連するどのパラメーターにも有意な差は見られなかった。
って感じです。要するに、オミウスを使ってもランニングの成績は変わらなかったわけで、「やっぱアスリートが使っているといっても当てにならんなぁ……」って感じがしますね。まぁ被験者が10人しかいないので、統計的に有意な結果を出すには心もとないところがあるわけですが、これを見ちゃうと、わざわざ高価なガジェット(4万円ちょい)を買う必要はないかなぁ……って気がしますね。
ただし、この実験を行ったチームは、決してオミウスに否定的な見解を持っているわけではなく、ざっくりまとめると「ほとんどの人は、ちょっと暑さが減るだけでもだいぶ快適を感じるから、場合によってはパフォーマンスを向上させる可能性はあるんじゃない?」ぐらいのことを述べておられます。暑さが運動のパフォーマンスを下げるのは間違いないから、頭を冷やすだけでもそれなりの効果はあるんじゃないの?ってことですな。この見解には私も賛成っすね。
ただ、くり返しになりますが、オミウスはちょっと高すぎるんで、冷却によるパフォーマンス改善の効果を得たいなら、別の方法を選ぶほうが無難でしょう。たとえば、2024年に南オーストラリア大学などが行った実験(R)では、「定期的に頭に水をかけるだけでも運動のパフォーマンスはアップすあるよー」と報告されてますんで、それで十分じゃないかと思うわけです。
この研究もざっくりとまとめておくと、13人のランナーを摂氏30度、湿度47%に設定された部屋で、10キロのタイムトライアルを行い、その1時間後に60分間のランニングを指示。 そのうちの1回では、2.5kmまたは10分ごとに2カップの水を頭、顔、腕にかけたんだそうな。
すると、水浴びをしつつタイムトライアルをした場合は、参加者は平均で1.0%速く走れたんだそうな。これは統計的に有意な効果でして、それならパフォーマンス改善の効果が見られなかったオミウスを使うよりも、ペットボトルにの水を頭にかけながら運動をしたほうが良いのではないかって気がしてきますね。
もちろん、これら2つの実験はデザインが違うので、単に「頭に水をかければ高価なガジェットは不要!」とは言えないあたりはご注意ください。とはいえ、とりあえず手軽に運動のパフォーマンスを上げたい人は、あらかじめ用意しておいた水を頭、顔、腕にかけ続けてみたほうが手軽で良いんじゃないでしょうか。