このブログを検索




今週の小ネタ:副作用ゼロでストレスを軽減する薬がある?プロフ写真は加工した方がモテる?合唱で頭が良くなる?

 


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

 

 

副作用ゼロでストレスを軽減する薬がある?

副作用なしでストレスが減る薬があるぞ!って話(R)が出ておりました。といっても、夢の新薬が開発されたわけではなくて、

 

  • プラセボの薬でメンタルが改善するぞ!

 

って話です。何の薬効成分も含まず、単なる食物繊維で作られたカプセルを飲むだけでも、さらには被験者が「この薬は食物繊維しか入ってない偽薬だ」と知っていても、ストレスが減る効果が見られたというんですな。

 

この現象について、研究チームは「だまさないプラセボ(non-deceptive placebo)」と呼んでまして、ざっくり以下のような実験を行っております。

 

  1. 参加者を2つのグループに分けて、一方のグループには、4回にわたって「プラセボ効果」について詳しく説明を行い、その上で2週間にわたって食物繊維しか入っていないプラセボ薬を飲んでもらう。

  2. もう一方のグループは、なにもしない(プラセボの説明やプラセボ薬の服用もない)。

 

こんな感じで、2週間の様子をチェックしたところ、結果はこんな感じになりました。

 

  • プラセボを服用したグループは、2週間後にストレス、抑うつ、および不安のレベルが低下していた。
  • おもしろいもんで、参加者の大多数(93%)は、「プラセボには何の効果もない」と頭では理解していたのに、メンタルヘルスの改善を実感してたとのこと。

 

というわけで、たとえ「本当の薬剤が入っていない」とを知っている場合でも、偽の薬を飲めばストレスや抑うつに対して一定の効果が得られるかもしれないわけっすね。

 

研究チームいわく、

 

長期的なストレスにさらされると、感情を管理する能力が損なわれ、メンタルヘルスに重大な問題を引き起こす可能性がある。

 

そのため、今回の研究ように、最小限の負担で済むプラセボは、ストレス、不安、抑うつを抱える人々にとって魅力的な介入となるだろう。

 

とのこと。確かに、「どうせプラセボだ」とわかっていても効果があるなら、自分でも試してみる価値はあるかもですね。

 

ちなみに、このような効果が起きる理由としては、「プラセボを飲むと、偽物だとわかっていても脳が安心感や期待を覚えるからでは?」と考えられております。つまり、参加者が「このプラセボを飲めば、少なくとも悪いことは起きないだろうし、もしかしたら良い結果が得られることもあるかも?」と思うおかげで、ストレスに強くなるんじゃないかと考えられるわけです。

 

まぁ、この研究では、精神的に深刻な問題を抱えてない人しか選んでないので、重度の抑うつ症や強い不安感を持つ人々に同じような効果があるかどうかは謎です。おそらく、プラセボの効果ってのは「軽度から中程度のストレスや不安」に対して有効な気がしますんで、そこは注意してくださいませ。

 

とはいえ、個人的には「やっぱプラセボすごいなー」って印象ですんで、自分なりの使い方を考えてみる気になりましたねー。

 

 

プロフ写真は加工した方がモテる?

マッチングアプリの顔写真を“盛る”とモテるの?」って研究(R)が出ておりました。ご存じのとおり、現代のマッチングアプリでは、いろんな写真フィルターが使われますが、これはユーザーの魅力度にどんな影響があるのかをチェックしたわけですね。

 

こちらはルイス・アミゴ・カトリック大学などの調査で、だいたい以下のような実験をしてます。

 

  1. 218人の男女を集めて、チームが作ったマッチングアプリを使ってもらう。このアプリはティンダーによく似ており、参加者は、パートナー候補の顔写真をスピーディにジャッジするように求められる。

  2. すべての参加者に、男性12人、女性12人を含む24種類の顔を見てもらい、デートしたいかどうかをジャッジしてもらう。この時、それぞれのプロフィール写真は、「フィルターなし」「微妙なフィルターあり」「大げさなフィルターありの」3つのバージョンで提示されている。具体的には、

    ・微妙なフィルター=肌をなめらかにしたり、特徴をわずかに強調したりといった、小さくてぱっと見ではわかりづらい変化を与えるもの。
    ・誇張されたフィルター=目を大きくしたり、顔の対称性をめっちゃ整えたりと、顔をより人工的に見せるもの。

    みたいな感じ。

 

このデザインにより、どんなフィルターを使った時に顔の魅力が上がるかをチェックしたわけですね。

 

それでは、結果を見てみましょうー。

 

  • カジュアルな性的関係にオープンな人ほど、魅力のない顔を嫌う傾向が強く、デートしたいかどうかを顔で判断しやすかった。

 

  • 魅力的な顔は魅力的でない顔よりも信頼できると評価され、より好かれた(これは予想どおり)。

 

  • 微妙なフィルターは、一般的に参加者の顔への好感度を高める。一方で、誇張されたフィルターは好感度に影響を与えなかった。また、フィルターの程度も信頼性の判断に有意な影響を与えなかった。

 

ってことで、ちょっと顔の欠点を直すぐらいの軽い修正であれば、好感度を上げる役に立つみたいですね。というか、なんとなく「加工しまくった写真はモテないだろう」と思っていたので、加工バリバリの人工写真は好感度を下げないって結果は意外っすな。

 

研究チームも同じようなことを言ってまして、

 

私たちは、誇張された写真フィルター(例えば、目を極端に大きくしたもの)は、信頼性判断や好感の反応を低下させるだろうと予想していた。 しかし、実際には、写真フィルターの "強さ "が社会的認知に及ぼす影響は、知覚される信頼性には影響しないことが示唆された。

 

とのこと。まぁ基本的に加工は少なめにしておくに超したことはないものの、「加工が強すぎるかも……」とまでは心配しなくても良いのかもですな。

 

 

 

合唱で頭が良くなる?

合唱で頭が良くなる!」って研究(R)が出ておりました。定期的に合唱に参加すると、脳の白質の構造が強化され、脳の健康が改善されるらしいんですな。

 

この研究では、21歳から88歳までの健康な成人95人を集め、まずはみんなの脳の構造を測定。神経画像技術で白質と灰白質の状態をチェックしたんだそうな。ざっくり言うと、白質は脳の異なる領域をつないで情報の流れを促進するエリアで、灰白質は筋肉の制御、知覚、意思決定などの機能に関わっております。

 

その後、参加者を、若年成人(20~39歳)、中年成人(40~59歳)、高齢成人(60歳以上)の3グループに分け、みんなが普段からどれぐらいの頻度で“合唱”に参加していて、どれぐらいの期間続けているのかをチェックしたらしい。

 

でもって、2つのデータを分析したら、結果はこんな感じになりました。

 

  • 合唱をよくやっている人ほど、白質の機能が大きかった。そのため、合唱をやっている人は、言語処理、運動調整、記憶などの認知機能が高いのだと考えられる。

 

  • 合唱による脳梁の改善はすべての年齢層で見られたが、高齢者ほど顕著だった。白質は加齢とともに減少することが多いので、ここが強化されてるってはめっちゃ大事。

 

  • 合唱によるメリットは、前庭の白質でも観察された。 前庭は、記憶の中枢である海馬と他の脳領域とをつなぐ神経線維の束なので、記憶力にも良い影響があるのだと思われる。

 

  • ただし、合唱は灰白質の体積に有意な影響を及ぼさないっぽい。

 

ってことで、合唱をやっている人ほど、どうやら脳の機能が高かったらしい。もちろん、この研究デザインだと、合唱によって脳が変化したのかは断定できず、合唱で脳が改善するのではなく、脳が健康な人ほど合唱をしたがるだけって可能性もありますからね。

 

とはいえ、研究チームは、「合唱は脳の健康維持に役立つだろう」と考えてまして、以下のように言っておられます。

 

この研究は、合唱と脳構造の増強との関連を初めて証明するものだ。この研究は、音楽活動に参加することが、特に高齢期において、認知的・感情的なさまざまな利益をもたらす可能性を示唆している。

 

ということで、合唱は簡単に参加できるし、コミュニティにも参加出来るしで、それで脳の健康が改善するならよろしいのではないでしょうか。私も死ぬまで音楽には触れていこうと思っております。


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM