今週の小ネタ:直感は時に裏切る?ゲームでトラウマが軽減?クラシック音楽で脳が整う?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
直感は時に裏切る?決断を後回しにするメリット
何かを決める時、つい最初の印象で判断してしまうのは誰にでもあること。面接官が第一印象で候補者を判断したり、商品の見た目で「これだ!」と思ってしまったり、みたいなことですな。
が、人間の直感は間違えちゃうことが多いので、「じっくり考える」ほうが最後には良い結果を生むケースが多いのは「科学的な適職」にも書いたとおり。新しい研究(R)もそのへんを掘り下げていて、「決断を後回しにする」ことのメリットを再確認してくれております。
この調査は、バーチャルな空間で「ガレージセール」の買い物体験をシミュレートしたもので、参加者には「ランダムに詰められたアイテムの箱を見て、その中身の価値を判断してね!」と指示。すると、それぞれのボックスには、同じ価値のアイテムが入っているにも関わらず、目立つアイテムを最初に見ちゃうと、それだけで箱全体の価値が高く感じられるというバイアスが確認されたんだそうな。
具体的にどういうことかと言いますと、
- 最初に高価なアイテムが並んでいるボックスを見た参加者は、箱全体の価値を10%以上も過大評価した!
みたいな感じです。箱の底にはまだたくさんのアイテムが隠れていることを知っていたにも関わらず、たいていの人は、最初に得た情報によって意思決定をガンガンに間違えちゃうわけですね。
では、どうすればこうした「第一印象の罠」から抜け出せるのか?ってことで、この研究では、「とにかく時間をかけよ!」みたいに主張しておられます。第一印象で判断するのを控え、あえて時間を置くことで、脳は最初の印象に囚われずに全体を見渡す力を発揮する、というんですな。
まぁ当たり前と言えば当たり前なんですが、実際のところ、この実験でも「時間をかけて評価した参加者は、全体の価値をより正確に判断できたよー」と報告されてますからね。ここで大事なのは、「自分にはぱっと見で判断しちゃうバイアスがある!」と知っておき、判断をいったん立ち止まるのを思い出すことなんでしょうな。
研究チームいわく、
脳は体験が終わった後も情報を整理して、記憶として編み込み、次の意思決定に役立てます。その巧妙なプロセスは、特に夜の間に行われるのです。
「迷ったらいったん寝てみろ!」ってのはよく聞くアドバイスですが、これは「判断の前にちょっとだけ時間を取る」だけでも、よりマシな決断を下せるようになるわけですね。
つまり、このデータから得られる教訓としては、
- 重要な決断は最低でも「一晩寝かせる」:例えば、家の購入や転職など、人生における重要な判断を下すときは、即決せずに一晩置いてみる。
- 仕事の評価も少し時間をおく:人を評価するときも、たいていは最初の印象に引きずられがち。例えば、新しい部下がなかなか成果を出せないような時は、少し時間をかけて全体のパフォーマンスを見て判断する。
- 大事な会議や提案書は時間を置いて再チェック:作成直後の提案書や計画書は、い込みやバイアスが入りやすいので、一度時間をおいて再確認する(これは、自分でも本を書く時に必ずやってることっすね)。
こんな感じで「意図的に待つぞ!」って意識を取り入れることで、よりバランスの取れた判断ができるようになりますんで、大事な決断ほど時間をかけてどうぞー。
ゲームでトラウマが軽減?
心理学の研究で最頻出のゲームといえば「テトリス」であります。あのブロックを積み上げるパズルゲームには、いろんな効果があるとされてまして、
みたいな報告がいろいろ出てるんですよ。というのも、テトリスってのは高度な「視空間処理」を必要とするゲームでして、ブロックを組み合わせていく動作を繰り返すことで、脳が視覚的な情報を処理するためにフル回転するわけです。この処理のせいで脳が忙しくなり、ストレスや欲望につながる情報を処理できなくなった結果として、メンタル改善のメリットを得られるわけであります。
でもって、新しい研究(R)では、「テトリスがトラウマに大きな効果を持つ!(かも)」というナイスな結果を出してくれておりました。
この研究は、ウプサラ大学などの研究チームが行ったもので、新型コロナのパンデミック中に大変な思いをした医療従事者が対象(1週間で平均15回ものフラッシュバックを経験していたらしい)。PTSDの主な症状である「フラッシュバック(過去のトラウマが不意に思い出される現象)」に悩む方々を選んで、みんなに「特定のトラウマを思い出しあ後で、テトリスで遊んでみてね!」と指示したんだそうな。すると、テトリスには大きなメリットが見られまして、
- たった1回、約20分間だけ「テトリス」をプレイしてもらうだけで、参加者のフラッシュバックがなんと90%も減少し、その効果が6か月も続いた!
って結果だったそうです。こりゃあ、なかなか凄い効果ですなぁ。
検索エンジンは、この効果を「認知のワクチン」と呼んでまして、「短時間のデジタル治療でPTSD症状が減少し、安全に利用できる」と報告しておられます。なんでも、テトリスを行うと、その間は視覚の情報処理に脳が忙しくなるため、トラウマが「長期的な記憶」として定着されなくなるんらそうな。つまり、テトリスが脳内でトラウマの形成をブロックしてくれるわけっすね。
研究チームは、この「認知のワクチン」が多くの人のトラウマ軽減に役立つと考えてまして、確かにテトリスのような簡単で安価なツールがあれば、トラウマケアのハードルはぐっと下がるでしょうな。おそらく、PTSDレベルの問題でなくとも、日常のちょっとしたストレスにも有効だと思われますんで、気分が落ち込んだ時などにちょっとテトリスを試してみちゃいかがかと。
クラシック音楽で脳が整う?
「クラシック音楽を聴くと心が落ち着く」って経験は誰でもしたことがあるでしょうが、最近の研究(R)によれば、どうやらその理由ってのは、「拡張扁桃体」と呼ばれる脳のエリアがクラシック音楽に反応して、気分がアップする仕組みが関係しているらしい。具体的には、音楽が脳の中でさまざまな領域の神経活動を同期させ、感情の処理に関わる回路を活性化するみたいなんですな。
この研究は、うつ病に悩む13人の被験者にクラシック音楽を聴いてもらい、その時の脳の活動を計測したんだそうな。その結果がどうだったかと言いますと、
- クラシックを聴いた人は、脳の聴覚野から扁桃体や報酬系といった感情処理の中枢が活性化し、「延長扁桃体」の神経活動が同期した。
って感じです。もっと簡単に言うと、クラシックを聴くと脳の「感情の調整回路」が活発になり、うつ症状が軽減するかもしれないわけですな。これは良いですねー。
また、この研究では、「クラシック音楽をどれだけ楽しんでいるか」も結果に大きく影響してまして、被験者のうち、クラシック音楽を好む人は、特に神経活動が強く同期し、うつ症状の改善度も高かったんだそうな。つまり、音楽の効果は一律ではなく、「どれだけ音楽を楽しむか」によっても変わってくるわけですな。
ちなみに、研究に使われたのは、チャイコフスキーの「交響曲第6番」やベートーヴェンの「交響曲第7番」といった有名なクラシック曲だったそうな。ただし、被験者たちはもともとこれらの曲には馴染みがなかったそうなんで、曲自体の「意味」に引っ張られることなく、純粋に音楽のリズムやメロディの影響を受けたと考えられそうであります。
ってことで、この研究は、音楽が持つ「癒し」の力を科学的に明らかにしてくれた感じ。疲れた時や落ち込んだ時などは、上記のクラシックををじっくり聴いてみるのもありでしょう。それによって、皆さんの「延長扁桃体」が活発に動き出し、気分が少しずつ軽くなっていくかもしれませんので。私も自分なりに「癒しの音楽プレイリスト」を作ってみたいと思います。