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ダイエット後に「リバウンド」しちゃう理由の最新バージョン:肥満が刻む“記憶”とは?

 

 

ダイエットをしたことがある人には、「リバウンド」の経験者も多いでしょう。一時的に体重が減ったとしても、気がつけば元通りになるどころか、以前よりも太ってしまうってケースはよくあることですからね。

 

で、この問題については、「意志が弱いからだ!」や「食生活がまた乱れたのだ!」みたいな批判が上がりがちですが、最新の研究(R)では、「人体は肥満を記憶しているからリバウンドするのだ!」って話が出ていて面白かったです。私も最盛期には30キロ近く体重を落とした人間なので、ここらへんの仕組みは気になりますねぇ。

 

 

 

人体って"肥満”を記憶するの?

これはチューリッヒ工科大学などが行った実験で、研究チームは肥満を経験した人間とマウスの脂肪組織を解析してまして、

 

  • 人間:肥満に悩んだことがある人と、健康な体重を維持している人の脂肪組織を比較し、遺伝子がどう変わっているのかをチェック。
  • マウス:肥満からの減量とリバウンドを再現し、エピジェネティックな変化を詳しくチェック。
  • 比較:人間とマウスのデータを統合し、「肥満の記憶」がリバウンドに与える影響を調べる。

 

みたいな流れになってます。このように、分子レベルから個体レベルまでアプローチして、「肥満の記憶」って新しい概念を浮き彫りにしたところが、この研究のオモシロポイントなんですな。

 

では、この分析で何がわかったかと言いますと、だいたいこんな感じです。

 

  • いったん肥満になると、遺伝子発現の変化が続く:肥満になった時には特定の遺伝子グループが活性化するんだけど、体重が減少した後でも、その変化は完全には元に戻らず、脂肪細胞の代謝能力を下げ続ける

 

  • いったん肥満になると、エピジェネティックな変化が続く:DNAそのものではなく、遺伝子のオン・オフを制御する「エピジェネティクス」と呼ばれる仕組みが肥満時に変化し、その変化が体重が減った後も細胞に残り続ける。

 

  • 上記の変化が、リバウンドを促進する:この「肥満の記憶」を持つ脂肪細胞は、新たに高カロリーな食事を再開すると、通常よりも早く脂肪をためこむようになり、リバウンドを加速させる傾向がある。

 

ってことで、いったん肥満になると、遺伝子レベルでリバウンドしやすい体になってしまうんだって結論ですね。ここで特に注目すべきは、これらの変化が単に一時的なものではなく、長期間にわたって細胞に“記憶”として残るってところです。肥満を経験した脂肪細胞には「肥満の記憶」が残ってしまい、体重が減った後でも、その影響が続くことが示されました。この記憶が、リバウンドの引き金になる可能性があるんですな。

 

 

 

肥満の記憶が生まれる仕組みってどんな感じなの?

人体が肥満を記憶するメカニズムには、“エピジェネティクス”ってメカニズムが関わっております。エピジェネティクスってのは、DNAそのものを変えずに、DNAに化学的な「しるし」を付けることで遺伝子の働きをコントロールする仕組みのこと。肥満になると、脂肪細胞のエピジェネティクスに、以下のような変化が生じるんですよ。

 

  1. 代謝に関わる遺伝子の抑制:脂肪細胞のエネルギー代謝や、脂肪燃焼を助ける遺伝子が働きづらくなる。これにより、エネルギー消費が低下し、脂肪が蓄積しやすくなる。


  2. 炎症に関わる遺伝子の活性化:炎症を引き起こす遺伝子が活性化し、脂肪細胞に慢性的なダメージを与える。この炎症状態が、脂肪細胞の健康を損なうだけでなく、全身の代謝機能にも悪影響を与える。


  3. リバウンドの準備状態を作る:肥満時のエピジェネティックな変化は、体重減少後も脂肪細胞に残り、次に高脂肪の食事を摂取した際に、通常よりも早く脂肪を蓄積する状態を作り出す。結果的に、ダイエット前よりも体重が増える「ヨーヨー効果」を引き起こしちゃう。

 

これらの問題が起きるせいで、「肥満の記憶」が脂肪細胞に刻み込まれ、肥満だったときに脂肪細胞がダメージを受けたせいで体重が減った後もカロリーがうまく消費できなくなるし、慢性的な炎症が収まりきらないしで、ダイエットの後に高脂肪の食事を摂ると通常よりも速いスピードで体重が増加してしまうんですな。こう考えると、元肥満体だった私の体にも、「肥満の記憶」が刻み込まれてるんでしょうなぁ……。

 

 

 

じゃあリバウンドを防ぐにはどうすりゃいいの?

というわけで、「肥満の記憶」ってのはなんとも怖い現象なわけでして、リバウンドを完全に防ぐのは簡単じゃないなーってのが改めてわかったわけです。これを元に対策を考えるとするならば、ざっくり以下のようになるでしょう。

 

  1. 急激な減量を避ける:短期間で大幅に体重を減らすと、肥満の記憶が強化される可能性があるので、ゆっくりと体重を減らすことが重要になる。


  2. 運動を取り入れる:脂肪細胞の代謝能力を高めるには運動が有効。特に筋力トレーニングや高強度インターバルトレーニング(HIIT)は、炎症を抑える効果が期待できる。


  3. メンタルヘルスのケアを忘れない:リバウンドにはストレスや感情的な要因も大きいので、瞑想や認知行動療法(CBT)を使って、心理的な要因にアプローチするのも効果的。

 

まぁどれも決定的な対策にはならんのですが、「私たちの身体は、これまで想像以上に『記憶』を持っている!」と思うだけでも、気合いが入ってよろしいのではないでしょうか。あと、将来的には、エピジェネティックな変化をリセットする技術が登場する可能性も十分あるんで、個人的にはそこも待ちたいところです。どうぞよしなにー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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