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今週の小ネタ:デジタルメディアが「退屈感」を増幅させる、スマホで「明晰夢」を操る時代が来る、「個性を出さない時代」に生きる私たち

 


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

 


デジタルメディアが「退屈感」を増幅させる

スマホやSNS、動画配信といったデジタルメディアで、現代人はさらに退屈を感じているぞ!」って論文(R)が出ておりました。これはカナダの心理学者ケイティ・タム先生らが手がけた「パースペクティブ(視点論文)」で、既存の研究やデータを統合して、理論を提案するタイプの論文になっております。

 

これによると、現代では「退屈を感じる」と報告する人が増えており、特に10代や大学生の間で顕著な現象なんだそうな。その理由を探ってみたのが、このレビューのポイントで、研究チームは、背後に「デジタルメディアの性質」があるのではないかと指摘しているんですな。

 

デジタルメディアのせいで退屈が増幅する理由として、ここでは3つのメカニズムが提唱されております。

 

  1. デジタルメディアによって「刺激水準」が上がりすぎている:デジタルメディアは、次々と目を引く刺激的なコンテンツを提供してくるので、私たちの「脳内の快楽レベル」を常に上昇させ続ける傾向がある。特にSNSでは、テキストだけでなく、写真、短編動画などと、視覚的に訴えるコンテンツが進化し、常にユーザーの注意を奪おうとする。これによって、脳はより強い刺激を求めるようになり、逆に普通の本を読んだり、講義に出席したりといった「落ち着いた活動」を「退屈」と感じやすくなる。実際のデータでも、SNSやスマホの利用後に「退屈」を感じやすくなる傾向が示されている。


  2. デジタルメディアによる「注意力の断片化」:スマホやタブレットなど、デジタルデバイスには常に通知が届き、アプリ間を自由に切り替えられる機能が備わっているため、私たちの集中力が短時間で次々と分断される。同時に、デジタルメディアでは「マルチタスキング」が起きがちで、たとえば「テレビを見ながらSNSをチェックする」と、脳に一時的な快楽を与えるものの、実際には深い満足感がなくなってしまうので、かえって「退屈」を増幅させてしまう。

    過去の研究では、ただスマホが視界にあるだけでも、対面での会話や活動に集中しにくくなる事実が示されている。つまり、デジタルデバイスに対する注意の断片化は、私たちの一つの物事に没頭する力を弱め、やりがいや充実感を奪ってしまう可能性が高い。


  3.  「意味の欠如」が生む空虚感:デジタルメディアは、コンテンツの「断片性」による「意味の欠如」も引き起こす。SNSやニュースサイトには断片的で関連性のない情報があふれており、一つひとつの投稿が一瞬で消費されていくため、どうしても満足感や充実感を得るのが難しくなってしまう。こうした無意味な情報の消費が、脳に「本当に価値あるものはどこにあるのか?」という疑念を抱かせ、退屈感を引き起こす。

    例えば、SNSで異なるテーマの投稿を連続で見た後、人々は「もっと有意義なもの」を求めたくなる。しかし、残念ながら、次の投稿も浅く、一貫性が欠けているため、結局は「本当の充足感」を得られず、退屈感が増してしまう。ある実験では、SNSの短い投稿や動画を立て続けに見た後には、内容の記憶に残るものが少なく、充実感も低いと報告されている。

 

というわけで、いずれも「おっしゃるとおりですなぁ……」って内容じゃないでしょうか。個人的には、「 意味の欠如が生む空虚感」は特によく感じるところでして、「ネット検索じゃなくて本を読めば良かった……」と思うことがしばしばであります(でも、ついネットを見ちゃうんだけど)。

 

この現象が年齢層や文化によって影響が異なるのかについては、今後もうちょい研究が必要なんだけど、「現代人は無限のエンタメによって逆に退屈を感じやすくなっている!」って可能性については、いつも念頭に置いておくと良いでしょうね。

 

 

 

スマホで「明晰夢」を操る時代が来る

このブログでは、よく「明晰夢(めいせきむ)」の話題を取り上げております。夢の中で「あ、これは夢だ」と気づき、意識的に夢を操作できる状態のことで、

 

 

といったエントリを過去に書いております。一説には、明晰夢には、創造力を高めたり、悪夢を克服したり、スキルの習得スピードを上げてくれる可能性があると言われてまして、私も「見てみたいもんですなぁ」とか常々思っていたんですよ。しかし、この明晰夢を体験するには、夢日記をつけたり、リアリティチェック(現実と夢の違いを確認する行動)を繰り返したりと、かなりの努力が必要になるのが難しいところで、なかなか実行に移せないでいたんですな。

 

ところが、新しい研究(R)では、「特定の音を活用したスマホアプリを使えば簡単に明晰夢を体験できるよ!」と結論づけていて、めっちゃ気になりました。

 

この研究では、「ターゲット・ルシディティ・リアクティベーション」という手法を採用してまして、簡単に言うと、ある音(ビープ音やメロディなど)を「夢の中で気づきを促すサイン」として脳に覚えさせる方法です。もうちょい詳しく言うと、

 

  1.  事前のトレーニング: 就寝前に20分間、アプリの指導に従い「音と明晰夢の関連付け」を学ぶ。音が鳴るたびに「これは夢の中で目覚めるためのサインだ」と意識することで、脳にそのパターンを定着させていく。

  2. 睡眠中の音の再生:このアプリは、睡眠開始から約6時間後に、ゆっくりと音量を上げながら音を再生してくれる。このタイミングは、明晰夢が起きやすいREM睡眠(レム睡眠)を狙ったもので、夢の中で音が再生されると、「これは夢だ」と気づくことができるようになり、明晰夢の頻度が増える。

 

って仕組みになっております。実験では、この手法を416名の男女で試してみたところ、アプリでトレーニングを受けたグループは、明晰夢の頻度がガッツリと高まったというんですよ。

 

研究チームいわく、

 

明晰夢は、自分の意識をまったく新しい形で体験できるツールだ。夢の中の世界すべてが、自分の脳によって生成されたものだと気づいたときの驚きは計り知れない。さらに、明晰夢はスキル練習や問題解決、精神的な成長のための空間としても活用できる。

 

とのことで、明晰夢が持つポテンシャルを強調しておられました。こりゃいいっすね。

 

実験で使われたアプリについては、最新版がGoogle Playストアで公開されております。iPhoto版も出してくれないかなぁ……。

 

 

 

「個性を出さない時代」に生きる私たち

現代では“自分らしさ”を意識する人が減っている!」ってデータ(R)が出ておりました。「自分らしくあれ!」「個性が大事!」みたいな主張が尊ばれたのも今や昔で、現代では自意識を抑えようとする人の方が多いんだって話ですな。

 

これはミシガン州立大学などの研究で、20年間にわたって約130万人を対象に調査を実施。「ゴスリング・ポッター性格プロジェクト」って性格調査のデータを使ったもので、すべての参加者に、毎年「ユニークさの必要性」に関する質問に答えてもらったんだそうな。

 

この調査では以下の3つの側面に注目してまして、

 

  1. 他人の意見を気にしない傾向:他人の目を気にせず、自分らしさを表現する能力。
  2. ルールを破る意欲:社会的な規範に縛られず、独自の行動を取る勇気。
  3. 信念を守る意志:他人の意見に左右されず、自分の考えを公然と主張する力。

 

って要素が、ここ20年でどう変化したのかをチェックしたんだそうな。その結果がどうだったかと言いますと、

 

  • すべての側面で「ユニークであること」への意欲が低下していた!
  • 特に顕著だったのが「信念を守る意志」の減少で、この20年間で6.52%も低下した!
  • 「他人の目を気にする傾向」が20年間で4.28%増加している!

 

って感じだったそうな。要するに、ここ20年で、多くの人が他人の目を気にし、社会ルールを守り、意見を控えるようになったってことですね。

 

その理由はいくつもあるんですけど、ここで最大の要因として挙げられているのが「オンライン環境の変化」であります。いまのSNSでは、自分の意見が瞬時に広がり、多くの人々から反応を受けちゃうので、多くの人が「目立たない方が安全だ」と考えるようになったと考えられるんですな。これはありそうっすねぇ。

 

研究チームいわく、

 

今の人々は、SNSでの投稿に非常に慎重になり、できるだけ静かにして目立たない方が良いと感じている。また、公共の場で意見を述べることに恐れを感じる人も増えた。

 

ある調査では、70%以上の人がオンラインで自己検閲をしていると答えている。この現象が、自由な意見交換を阻害している可能性もある。

 

とのこと。SNSのせいで多くの人が他者の評価や反応を恐れ、「波風を立てないように」行動しているんだって話ですな。これは、オンライン上だけでなく、職場や友人関係など、現実社会のあらゆる場面にも影響を与えている可能性があるでしょうな。

 

まぁデータを細かく見ると、この傾向は、SNSが普及する前(2001年頃)からすでに始まっているようでして、「目立ちたくない」という感情はSNSだけに原因があるわけではなく、社会全体の変化と関係している可能性も高そうであります。また、もっと長いスパンで見ると違った傾向が現れる可能性もあるんですが、「自分らしさ」にこだわらない傾向ってのは日本でも増えてそうな気がしますな。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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