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七つの大罪と脳の関係と自由意志に関する本を読んだ話


 

七つの大罪 人間であることの生物学(Seven Deadly Sins: The Biology of Being Human)」って本(R)を読みました。著者のガイ・レシュジナー先生は臨床神経学者で、ロンドンで神経障害や睡眠障害に悩む患者さんを診ている人らしい。

 

で、本書が取り扱うテーマは、「キリスト教で有名な『七つの大罪』って、脳の問題で起きるセルフコントロールの問題を上手く言い表してないか?」みたいな感じです。傲慢、貪欲、邪淫、憤怒、貪食、嫉妬、怠惰で構成される7つの罪は、現代人も苦しんでいる脳の不調の表現として的確っぽいよなーみたいな話ですね。ちょっと面白い視点ですよね。

 

ってことで、いつもどおり本書から勉強になったところをまとめてみましょうー。

 

 

  • 「7つの大罪」が示す問題は、いずれも誰もが持つ一般的な性格特性を極端にしたものだとも言える。 ほとんどの人は、「7つの大罪」の特性を全て中程度に持ち合わせているため、これが極端な方向に向かわない限りは問題にならない。 これらは人間を人間たらしめる基礎的な感情や行動であり、それぞれが生物学的な必然性を持っているからである。

 

  • たとえば、
    欲望がなければ、私たちは繁殖できずに絶滅してしまう。
    食欲がなければ、私たちは飢饉の際に飢え死にしてしまう。
    嫉妬がなければ、自分の遺伝子を後生に残せなくなる。
    貪欲がなければ、生存に必要な資源を獲得し、蓄えられなくなる。
    怠惰がなければ、必要な時に力を発揮するリソースがなくなってしまう。
    傲慢がなければ、不安や恐怖を乗り越えて、目標を達成できなくなってしまう。

    これらの特性は、人類が生存するために備わった感情であり、極端に走らない限りは問題がない。

 

  • しかし、脳の病気とその治療は、七つの大罪のすべてに影響を与える可能性がある。中でも精神の治療に使われる薬には必ず副作用があり、それは単に肉体的なものだけにとどまらず、私たちの行動を根本的に変えてしまうことすらある。

 

  • たとえば、パーキンソン病の治療に使われる薬は、セルフコントロールの能力を下げたり、性的な欲求を増やしたり、性的な趣味を変えてしまう可能性が指摘されている。

 

  • 炎症の治療に使われるステロイドは、『自分は重要な人間だ』という感覚を増幅させ、自己顕示欲を激しく高めることが知られている。

 

  • 特定の抗てんかん薬は、怒りを極端に高め、攻撃性を引き起こすことがあり、その結果、QOLを悪化させることがある。

 

  • こういった薬は、いずれも脳の報酬系のシステムや、感情や行動を司る回路に影響をおよぼし、脳の機能を変化させる。

 

  • 薬の影響だけでなく、腫瘍、脳卒中、外傷、変性といった脳の問題も、過剰な性欲、極端な食欲、病的な嫉妬、慢心、セルフコントロールの低下を引き起こす可能性がある。

 

  • たとえば、筆者が実際に診察したある患者は、脳腫瘍によって過剰なプライドが生じていた。また、ハンチントン病のような遺伝的疾患によって無気力な状態が生まれていることもあったし、脳卒中によって過剰な性欲が起きるケースも確認されている。

 

  • 「七つの大罪」に影響を与える要因は、生まれつき親から受け継いでいる可能性もある。遺伝子は私たちの人格に大きな影響を及ぼし、たとえば「戦士遺伝子」と呼ばれる遺伝子を持つ者は攻撃性が高くなりやすい。この遺伝子の変異は、男性を暴力的にさせることがあり、その結果、暴行、放火、殺人などの犯罪に走るケースも少なくない。

 

  • 同様に、一般的な遺伝子と突然変異の両方のさまざまな組み合わせが、食欲や肥満のレベルを変化させることもある。ある患者の例では、脳の視床下部と呼ばれるエリアの機能を変える遺伝子変異を持っていたため、常に飢餓感にさいなまれ、際限なく食事を続けざるを得なくなっていた。つまり、大食は道徳的な欠陥ではなく、食欲や空腹感を抑制する機能の不調を反映したものだと言える。

 

  • さらに、親からの影響も人格形成には無視できない。ストレスの多い環境やトラウマを与えるような環境で育つと、たいていの人は攻撃性が増して怒りっぽくなる。このような問題行動を起こす人は、感情のコントロールを司る脳のエリアに構造的な違いが見られ、脳内化学物質にも変化が見られるケースが多い。

    また、幼少期に味わったトラウマは、ホルモンや遺伝子の制御に影響を与え、脳の発達に直接的な影響を与えることもある。

 

  • 子育てのスタイルも、性格特性に大きな影響を与える。子供を過剰に褒めたり、子どもの重要性を常に強調するような子育ては、健全な自尊心ではなくナルシシズムを育む結果を生みやすい。

 

  • さらに、より軽度なケースでは、育った環境や、ポルノ、甘い食べ物といった他の環境要因が、快楽や報酬を司る脳の回路に変化をもたらす場合もある。

 

  • もっとも、近年では、これらの問題が脳スキャンで理解できる確率も高くなった。脳や精神の疾患をどのように定義するかは医学技術の進歩によって変わり、脳の働きに影響を与えるさまざまな要因(遺伝、環境、感染症、腸内微生物など)が明らかになるにつれ、「七つの大罪」が、実は本人のコントロールの及ばない要因によって引き起こされている事実が明らかになるのだと思われる。

 

  • しかし、「七つの大罪」の多くが、遺伝や病気などによって起きるのだとすれば、私たちは“自由意志”について考え直さざるを得なくなるだろう。人間の行動は善か悪かに分類できるものの、それを個人の単位に適用するのは不可能になってしまうかもしれない。こうなると、悪と病理の境界を決定するのは非常に難しい作業となる。

 

  • 「七つの大罪」は、人類に備わった基本的なOSのようなものであり、時と場合によっては大きな利益をもたらす。となれば、そのOSの働きが“異常”とみなされるのはどのような場合か、正常と異常の境界線を定義するにはどうすれば良いかという問題に、これから私たちは直面し続けることになる。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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