自己催眠で「ニセの良い記憶」を植えつければメンタルが改善するよ!というロシアの初歩研究
「メンタルが健康な人ほど錯覚にとらわれている!」ってのは有名な話。たとえば、過去のデータでは、
- だいたいの人は「自分は全人口の50%よりは頭がいい!」と思ってる
- だいたいの人は良い思い出のほうを多く記憶している
って傾向が出てまして、どうも精神的に健やかな人ほど「己にとって都合がいい錯覚」を抱いているらしいんですな。この錯覚がないと人生なんてやってらんないわけです。
いっぽうでメンタルを病みがちな人は、ネガティブな記憶もちゃんと覚えてるケースが多め。人よりポジティブな錯覚が少ないせいで負の記憶にとらわれちゃって、おかげで少しずつ不安を拗らせて行くんですな。ある意味で、世界を正しく認識しているとも言えるわけですが。
そんな状況下、「ネガティブな人にポジティブな錯覚を植えつければメンタルが改善するんじゃない?」って発想(1)のおもしろい論文が出ておりました。
これはモスクワ大学の実験で、120人の男女を対象にしております。実験のデザインはこんな感じ。
- みんなの不安レベルをチェックする
- 参加者に「不安をかきたてる嫌な記憶を思い出してください」と指示する(仕事をクビになった体験とか、人前でスピーチしたときとか)
以上が実験の前提条件で、ここから参加者を4グループにわけております。
- カウンセリング:研究チームとディスカッションして、嫌な記憶をやわらげる
- 自然音:いひたすら心地よい自然の音を聞く
- 催眠+自然音:参加者を催眠にかけつつ、自然の音を聞く
- 催眠+記憶の書き換え:「嫌な記憶」を「良い記憶」に作り変える
「催眠で記憶を書き換える!」というとインチキっぽく聞こえますが、やってることは認知行動療法でも使われるイメージ系の誘導とあまり変わらないです。たとえば、「スピーチに失敗した人」の場合は、研究者がこんな質問をしてくんですな。
研究者:目を閉じてイメージしてください。いまあなたはどんな場所にいますか?
参加者:いっぱい人がいて友だちと両親がいます
研究者:それからどうなりました?
参加者:立ち上ってみんなの前でスピーチを始めました
研究者:その時に、あなたが取りたい最高の行動はなんですか?
参加者:冷静にあたりを見回して、ハッキリとスピーチします
って感じで、一般的な催眠のイメージとはだいぶ違うかと思います。これはミルトン・エリクソンが開発した誘導テクニックによるもので、いわゆる「現代催眠」と呼ばれる手法の流れなんですな。
個人的には、エリクソンの心理療法については「ケーススタディは真偽が疑わしいな……」とか「スピリチュアル系に悪用されてるよな……」とか「体系化された理論もないよな……」とか思うわけですが、興味のある方は以下の本などをどうぞ。わたしとしては、普通に認知行動療法系の本を読めば十分だと思いますが。
さて、実験ではそこから参加者の不安度をチェックして、4カ月後にもフォローアップを行なっております。すると、
- 「催眠+記憶の書き換え」グループのみ不安が減り、自尊心もアップした!
って結果だったんですよ。残りのグループは特に不安度は変わらないままで、催眠で記憶の書き換えをしたグループのみ有意差が出たらしい。
まぁこれは初歩研究なので信頼性の判断が難しいんですが、ヒトの記憶が簡単に変えられるってのは確実なんで、過去の嫌な体験をダラダラと思い出してしまうような方は試して見てもいいのかも。自分でやりたいときは、
- ラクな姿勢で座るか横たわって、2〜3分ほどひたすら深呼吸
- 「嫌な記憶」の状況で、自分がどんな人間として振るまいたかったかを考える
- 自分が理想的な行動をとったと具体的に想像してみる
みたいなイメトレをやってみると良いかと思います。もちろん、これは偽の記憶なわけですが、正しい記憶に足を引っ張られ続けるよりはマシですもんね。