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今週半ばの小ネタ:学校で認知力アップ、家庭環境と自尊心、実存的な孤立

Summary

ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。  
 


学校に行くと認知が高まり、人生の質が上がるぞ!という話
認知機能を高めるために学校って役立つの?」って疑問を調べた研究(R)が出ておりました。子供の成績が思考力や記憶力に左右されるのは当たり前ですが、こういった脳の機能をアップさせるために学校教育は役立つのか?それとも生まれつきの問題なのか?ってのがポイントであります。

この論文はテキサス大学などによるもので、学校教育と脳機能について調べた先行研究をレビューした内容になっております。そこで、まずは全体的な傾向を見てみると、

  • 「ワーキングメモリおよび知能」と「読書と数学における学業成績」は長期的に双方向の相関関係を持っている

ってのが複数のメタ分析で確認されてまして、要するに学校教育については「賢いと成績は良くなるし、そのために勉強するとさらに賢くなる」っていう上昇スパイラルが得られる可能性がかなり高いわけっすね。 ここらへんは学校教育でIQは上がるってデータと親和性がありますな。


さらに、そのほかの知見としましては、

  • 短期の認知トレーニングは学業成績に有意な影響を与えないので、長期的なトレーニングをしないとだめ
  • 多くの教育のなかでも読解力と数学の2つは、教育的成果だけでなく、雇用や年収、生活スキル、健康、心理的幸福にも幅広いメリットをもたらす

といったあたりが得られておりました。「人生の質を上げるには読解力と数学が欠かせない」っては過去のデータで何度も見かけたので、ここらへんはかなり納得ですね。最近は個人的に数学力が落ちてきた感じがあるので、勉強し直さないとなぁ…‥。



0歳〜6歳までの家庭環境が自尊心を決める?
自尊心は育った環境にどこまで左右される?」ってポイントを調べたデータ(R)が出ておりました。


このデータは、1970年〜1979年の間に生まれた約9,000人の一卵性双生児を調べた長期研究になっていて、0歳〜27歳までの自尊心の変化をチェックしております。ざっとどんな実験だったかと申しますと、

  1.  0歳〜6歳まで母親からどんな育児をされたかを調べる
  2. 8歳〜27歳のあいだに測定した自尊心レベルと比べる(ローゼンバーグ自尊心尺度を使用)

みたいになってまして、子供時代の育てられ方と成人後の自尊心にどんな関係があるかを調べたわけっすね。


で、結果はこんな風になりました。

  • やっぱ家庭環境は大事で、0歳から6歳までに「ちゃんと子供に反応してくれて、安心感を与えてくれる親」に育てられた場合は自尊心レベルが高くなる

  • とはいえ、成長するほど遺伝の力は大きくなり、27歳の時点ではわりと環境の影響は薄れる
  • 親の不仲や母親の抑鬱状態も子供の自尊心と相関していたが、これらの相関は成人後にはほぼゼロになる

  • 一方で、貧しい家庭に育ったことによる自尊心の低下は、27歳まで相関を続けた

というわけで、幼少期の環境は「自分には価値があるのか?」って感覚にそれなりに影響を与えるみたい。当たり前といえば当たり前の話ですが、やっぱ貧さの影響は大きそうな感じですなぁ…‥。


まぁそうは言っても自尊心は遺伝の要素が大きい(つまり、育った環境が違っても一卵性双生児の自尊心はそれなりに似てくる)のも確かなんで、ここらへんのバランスは難しいところではあります。というか、近年では「自尊心ってメリットが少なくない?」って論調も普通にあるんで、別に追い求める必要もないのかもですが。



「実存的な孤立」はメンタルを悪化させるかもだから注意してね!みたいな話
孤独は体に悪い!」みたいな話をよく書いてますけど、近ごろ「実存的な孤立もヤバいのでは?」と主張する興味深いデータ(R)が出ておりました。


なにやら耳慣れない言葉が出てきましたが、「実存的な孤立」ってのは「個人の経験や感覚はどこまでも個人のものであり、他人とはわかちあうことなどできないのだ!」といった考え方のことです。わりと哲学の世界ではおなじみの話で、「私が見ている赤色が、あなたの見ている赤色と同じであることを確かめることはできない!」みたいな議論を聞いたことがある方も多いでしょう。


ってことで、この研究ではまず心理テストで1,545名の学生の「実存的な孤立」のレベルをチェック。そのうえで、別の試験を行って「どれぐらい『死』について考えているか?」を調べたところ、

  • 実存的な孤立を感じている人ほど、普段から死を連想しやすい!

って傾向が見られたんだそうな。どうやら実存的な孤立には「人生の無意味さ」や「死の不安」を強調する作用があるみたい。まぁわかりやすいですよね。


そんなわけで、個の体験がどこまでもパーソナルなのは間違いないところですが、そこを掘り下げても実りは少ないので、人類が生まれつき持ち合わせた共感力を駆使しつつ、「みんなそこそこ分かり合えてるからいいんとちゃいますか?」ぐらいに考えておくのが大人のたしなみ。「実存的な孤立」にハマっちゃうと出口がない迷路をさまようことになるので、確かにメンタルには悪そうっすね。

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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。