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近ごろおもしろかった心理系メタ分析3選:起業に成功する年齢、自殺報道、犯罪プロファイリング

 
 

このブログでは健康に関するいろんなメタ分析(複数のデータをまとめて精度が高い結論を出す手法)を紹介しております。が、近ごろ健康系じゃないメタ分析でおもしろいのがいくつか出てたんで、ひとつのエントリにまとめてみます。


歳をとった起業家も十分に成功できるぞ!という話
「成功した起業家」というと20代から大成功するようなイメージがありますけど、直近のメタ分析(R)では「年配もかなりすごいぞ!」って結論になってました。


これはレンセラー工科大学の研究で、102の独立したサンプルでメタ分析を行い、成功した起業家は何歳ぐらいの人が多いの?ってポイントを掘り下げてくれたんですよ。そこでまず大きな結論から言っちゃうと、

  • 男性の場合は、20代で起業した人の成功率は、50代で起業した人とほぼ同じだった
  • 女性の場合は、20代よりも50代で起業した人の成功率が高かった
  • 30代と40代の起業家は成功率が低い
  • 50代の起業家は20代の起業家よりも少しだけ満足度が高かった

みたいになります。起業家の成功率ってのは、20代では高いのに40代に向けて低下していき、50代からまた数字が上がっていくというU字カーブを描く感じらしい。


このような現象が起きる理由はいくつもありましょうが、おおよその原因としては、

  • 若い起業家は新しい技術への適応力が高くてリスクを取るのもいとわない
  • 一方で年配の起業家は経験値が高くて、資本と取引関係が多い
  • 30代と40代は育児や介護など必要が発生するので、必要な時間が取れないケースが多い

といったあたりが推定されておりました。30〜40代はいろいろライフイベントがありますからねぇ。


研究チームいわく、

高齢の起業家に対する人々のネガティブな思い込みを正し、人生後期の人々に起業家精神を持つよううながすのは重要だろう。

また、今回の結果は、女性は人生の後半になるにつれて成功のチャンスが増え、忍耐が最終的には報われる傾向を示している。

とのこと。いずれにせよ男も女も人生の後期に旗揚げしてみるのも悪くなさそうっすね。



 メディアの自殺報道はどこまで悪影響なのか?というメタ分析
メディアが自殺を報じると後追いが増える」ってのは昔からよく言われることで、例えばWHOなんかは「悲劇を防ぐための正しい報道の仕方」を定めたガイドライン(R)を公開してたりするわけです。


では、実際にメディア報道と 自殺にはどれぐらいの関係があるのか?ってことで、その点をくわしく調べたメタ分析(R)が出ておりました。この調査では過去の研究から20件のデータを使っていて、だいたいの内容をまとめると、

  • 紙媒体、ネットニュース、テレビで自殺が報道された前後の自殺率を調べる
  • 全体のうち14件の研究は、有名人の死亡に関する報告を特に調べている

みたいになってます。報道の前後で果たして本当に一般の自殺率は変わるのか、と。


すると、分析の結果はチームの予想どおりでして、こんな傾向が確認されました。

  • 有名人の死亡が報道されると、その後で確実に自殺は増える。メディアが死因をくわしく報道すればするほど、同じ方法を使った自殺者が増加する
  • 有名人の自殺報道は、一般人の自殺率が8〜18%ほど増える傾向と相関し、その人物が世界的に著名なほど数値も高くなる
  • 有名人ではなく自殺全般についての報道は、死亡の増加と関連していなかった

過去のデータでも、「メディアの自殺報道は一般人のメンタルに深刻なダメージを与える」って報告はいくつもあったんで、今回の結果にもやはりそうかーって感じでした。


もちろん、自殺は複雑な問題で原因がよくわからないところも大きいので、メディアこそが最大の要因だとは申しません。逆にものごとを単純化しすぎる悪影響もデカそうですしね。とはいえ、今回の分析が重要なのも確かですんでメディア側の人間は意識しておくに越したことはないっすな。



犯罪プロファイリングってちゃんと使えるの?のメタ分析
犯罪プロファイリングってどこまで正確なの?」って問題を調べたメタ分析(R)が出ておりました。「マインドハンター」とか「FBI心理分析官」に出てくるような、犯罪者の心理を見ぬいて捜査するやり方には本当に効果があるのかってことですね。


これはケンブリッジ大学などのチームによる研究で、1976年から2016年までのあいだに出版された犯罪プロファイリングに関する426のデータをまとめたもの。すべてをひっくるめたうえで、いまのところ犯罪プロファイリングについて何が言えるのかをチェックしてくれております。


そこでわかったポイントをざっと並べていきますと、

  • 確かに、犯罪プロファイリングの科学的な厳密さはかなり改善されてきているが、まだまだレベルは低い。例えば、統計分析を使った犯罪プロファイリングの割合は大幅に増加しているが、その数字はまだ33%にすぎない(40年前には0%だったので、かなりの改善とは言えるものの)

  • 犯罪プロファイリングが警察の捜査に使われるケースは少なくないが、その正確さや有効性に関する評価はほとんど行われていない。プロファイルの評価をふくむデータは全体の10%未満だった

  • そもそも犯罪者の分析に使う用語や特徴の分類にバラつきが多すぎて統一された技法がほとんど存在しないし、プロファイリングが正しいかどうかの割合もよくわからない

  • ただし、事件リンク分析(連続して起きてる事件が同一犯化を判断する方法)の精度については、良い評価を与えてもいい

みたいになります。一部では使える側面もあるんだけど、全体的に見ると科学的にはまだまだって感じらしい。うーん、FBIが採用してるぐらいだから信頼性が高いのかと思ってたんですが。


もっとも研究チームの見立てはわりと楽観的でして、

犯罪プロファイリングは、より科学的で統計的なメソッドを使うケースが増えており、ポジティブな方向に向かっているようだ。この方向性が続けば、次の10年では犯罪プロファイリングが「偽科学」 から「エビデンスベースの手法」に変わるだろう。その結果、警察の捜査に役立ち、政策にも影響を与え、最終的には世界をより安全な場所にしてくれるはずだ。

と述べておられます。「現時点ではまだ生煮えの状態だけど、いまの改善が続けば希望はあるんだ!」ってことでして、個人的にも期待できそうな印象を持ったりしました。

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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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