アスリートはなぜ腸内環境が良いのか?を徹底的に調べたレビュー論文のお話
「アスリートはなぜ腸内環境が良いのか?」って疑問について徹底的に調べた面白いレビュー(R)が出ておりました。実は、優秀なアスリートは妙に腸内細菌のバリエーションが豊富だったり、善玉菌の量が多かったりといった現象が昔から確認されてたんですよ。
このレビューには242の引用がふくまれてまして、研究チームの問題意識はこんな感じです。
運動をしない人と比べて、アクティブな人は体に良い腸内細菌の量と種類が多い。
身体活動の異なる個人を比べたいくつかの研究によれば、運動をすればするほど腸内細菌叢は大きく変化していく。アマチュアランナー調べた調査でも、私たちの腸内細菌叢は運動してからすぐに変化を起こすようだ (Zhou et al., 2014)。
運動をする人はとにかく腸内細菌の量が多いんだけど、それはなぜなのかってことですね。
このレビューにふくまれるほぼすべての研究が、腸内フローラと運動との間の正の相関を示している。
エクササイズは腸内細菌の多様性を豊かにし、粘膜免疫システムを調節してバリア機能を改善し、パフォーマンスと健康を向上させる物質(酪酸やプロピオン酸など)を生産する。
では、アスリートの腸内における細菌の多様性がどんなメリットをもたらすのかというと、
- 人体組織の修復がスピーディになる(≒アンチエイジングに効く)
- 酪酸、プロピオン酸、酢酸塩などの短鎖脂肪酸が増え、人体を毒素から守る(≒体が不調を起こしにくくなる)
- 炭水化物代謝やヌクレオチドの合成が進み、食事からより多くのエネルギーを使えるようになる(≒元気に活動できる)
みたいになってます。うーん、どれもすばらしい……。
ただ、この問題についてはまだ研究レベルが初歩の初歩ぐらいの段階でして、アスリートの腸内が健全な理由はよくわかってなかったりもします。とりあえず研究チームが推論しているのはこんな感じ。
運動と腸内細菌
- アクティブな人は、環境生物圏にさらされる可能性が高い(大気や植物とのふれあいにより体内に良い細菌がとりこまれる)
- 運動の刺激によって消化器官を食物が通過する時間が長くなり、これが腸内のpHバランスを保って環境が良くなる(実際、大腸が詰まったままだと、腸内最近の多様性は減りやすい)
- 運動によって生まれた乳酸が、特定の細菌のエサになる
- あんま有酸素運動を繰り返していると食物の通過時間が長くなり、便秘を引き起こすこともある
- より高い強度(VO2maxが70%以上)では食事の通過が遅くなるっぽい
- 長時間の運動は腸内の粘膜にダメージをあたえ、脱水症状と組み合わさって下痢や腹部痙攣を起こすことがある。特に激しい持久系のスポーツはリーキーガットを引き起こすのでやめておきたい
- もしかしたら筋トレも腸内細菌に良いかもだが、いまんとこデータ不足で判断できない
タンパク質と腸内細菌
- タンパク質をたくさん摂っている人と腸内細菌の多様性には正の相関があるため、アスリートの腸内細菌が多いのはタンパク質を多く取っているからかもしれない
- ただ、高タンパク&低糖質食を試したテストでは、参加者の便にふくまれるニトロソ化合物(発がん性が疑われる物質)が増えたと報告されている
- また動物性タンパク質を大量に摂取している男性を調べた研究では、硫化物生成が肉の摂取量と相関しているとの報告もある(硫化物は潰瘍性大腸炎に関わってる)
- 高タンパクが腸内細菌に良いのかはよくわからないが、ここらへんは食物繊維や脂肪の摂取量も影響しそうな気がする
炭水化物と腸内細菌
- アスリートにおける炭水化物と食物繊維の摂取量は、プレボテラ属の増加と相関がある
- 食物繊維を増やしてもビフィズス菌の総量は増えないかも。ただし腸内細菌のバリエーションがない人は食物繊維で腸内細菌は増える
- レジスタントスターチは高タンパク食の悪影響をやわらげる可能性があるので、セットで取り入れた方がいいかも
脂質と腸内細菌
- ある実験では、高脂肪食を食べた被験者は食事が腸を通過する時間が3日も遅くなっていた。これは腸内環境に良くないかもしれない
- 動物実験では、ラードを与えたラットは代謝機能障害の兆候を示し、逆に魚油を与えられた動物は乳酸菌が増えていた
- また、脂質が多い食事は消化管の上皮吸収を下げる可能性がある
雑感
ということで、「かも?」とか「可能性がある?」みたいな表現ばかりになりましたが、なんせまだわからないことばっかなのでそこはご容赦ください。とりあえず上記の話をまとめておくと、
- 有酸素運動はやっぱ腸内細菌の増加に効くみたいだけど、ハードな運動は逆効果なので注意。筋トレの効果は不明
- 高タンパクは良いような気がするが、おそらくちゃんと食物繊維と組み合わせないと害があるのかも
- レジスタントスターチもちゃんと摂取しておきたい
- 脂肪は立ち位置が難しいけど、高脂肪食がよくなさげな空気は漂っている
ぐらいの感じになりましょう。具体的な食事法や運動法については今後の調査に期待しつつ、とりあえず「腸内環境のためにも適度なエクササイズを!」ってことで。