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現代の仕事環境って人間の脳に向いてないよねーみたいな話 ----「拡張された精神」

 

というわけで、近ごろちょこちょこ紹介している「拡張された精神」って本の覚え書きの続きです。

 

 

前回は「ジェスチャーで思考力が上がるよー」って話をしてましたが、今回は「考える力を上げたいなら環境を変えようぜ!」って主張についてまとめたパートを見ておきます。ヒトの脳の働きは周囲の人やオブジェクトによって変わるので、そこも考慮しないと万全に知性を発揮できないよ!ってポイントですね。

 

 

この考え方を支持するデータは昔からとても多くて、

 

  • 毎日を室内で過ごすと思考に悪影響が出る。これは、進化の歴史の中で、人間は建築物ではなく自然界のなかで暮らすように適応してきたため、緑の多い環境でないと脳がフルに働かない

 

  • 私たちの脳は、生物学的に人工的な室内の景色や音を処理するのに適しておらず、疲れやストレスを感じやすく、気が散りやすい状態になる

 

みたいな報告はよく耳にするところなんですよね。それにも関わらず、現代人はオフィスで働き、交通機関を利用し、家の中で動き回るなど、屋内で過ごす時間がやたらと増えており、時間の使い方に関する調査によると、私たちが屋外で過ごす時間は約7%しかないんだそうな。

 

 

この問題は子供にも受け継がれていて、かつては外で遊ぶのが当たり前だったのが、「子供が毎日外で遊んでいる」と答えた母親もわずか26%だったとのこと。これが長期的にどう出るかは謎ですけど、少なくとも良いことはなさそうっすよね。

 

 

では、この問題にどう取り組むべきかってとこですが、著者のポールさんは「自然と触れ合え!」ってのを強調してます。もともと人間は自然のなかで知性をフル活用するように進化してきたんで、こういう処方箋が出てくるのは当然でしょうね。

 

 

このポイントについては「最高の体調」でさんざん述べたことなので割愛。具体的には、

 

 

などをご参照ください。とにかく日々の暮らしに自然を導入するだけで脳の働きは上がりますんで、ぜひ心がけていただければと。

 

 

でもって、自然と同じぐらい著者が重要視しているのが「労働環境」であります。ふだんどんな場所で誰と仕事をしているか?みたいなポイントですね。

 

 

この観点で、著者が主張するのが「求める仕事によって労働環境を切り替えよ!」みたいな考え方です。現代のオフィスってのは、他人の働く姿が見えるオープンオフィスか、もしくは半個室の状況で働くプライベートオフィスのどちらかに偏ると思うんですが、どちらにも一長一短あって「どちらがよい!」とは言いづらいんですよね。

 

 

ざっくり両者のポイントをまとめておくと、以下のようになります。

 

 

 

オープンオフィスの良いとこ悪いとこ

近くに同僚がいるおかげでコミュニケーションや共同作業をしやすくなるのが最大の利点。MITの調査によれば、物理的な距離とコミュニケーションの頻度には一貫した関係があり、例えば、1.8メートル離れて座っている人は、19メートル離れて座っている人に比べて、定期的に会話をする確率が4倍も高くなる。定期的な情報交換の限界点は50メートルで、その距離を超えると日常的なコミュニケーションは途絶えてしまうそうな。

 

 

ただし、一方では絶え間ないおしゃべりは生産性の向上にはつながらず、複雑で認知力を必要とする仕事には向いていないのが欠点。これは、私たちの脳が身近な環境を監視するように進化してきたせいで、近くの音や動きですぐに気が散ってしまうのが原因でしょう。

 

 

ちなみに、職場での気を散らすものトップ3はこんな感じ。

 

  • 目新しさ:人間は目新しいものに敏感で、日々変化しないものには目を向けない。この性質は活動や変化の多い環境下で問題となり、新鮮な音に目を奪われたり、他の人に目をやったりして、何度も思考が途切れてしまう。

  • 交流:人類は社会的なコミュニケーションに敏感なので、同僚との会話は集中力を大きく下げる要因になる。もし会話に参加していなくても、人間の脳は、本能的に他人の話に耳を傾けてしまう傾向があるので注意。

     

     

  • 発話:どんな環境音でも人間の注意はそれてしまうが、他人の言葉は特に注意をそらす最大の要因になる。言葉が聞き取れなくても、聞きたくなくても、脳は耳を傾けてしまう。さらに悪いことに、耳に入ってきた言葉を処理する脳領域は、データを分析したりレポートを書いたりする作業に使うのと同じ脳領域と等しく、耳に入るだけででも脳の処理力はだだ下がりする。

 

いずれも現代オフィスの大問題なので、集中が必要な作業をする際はオープンオフィスを避けるのが吉であります。

 

 

 

プライベートオフィスの良いとこ悪いとこ

個室的なオフィスの良いとこ悪いとこは、ほぼオープンオフィスと真逆の関係にあります。要するに、他人との共同作業で斬新なアイデアを出すのには向いていないが、集中したい状況には向いているってことです。

 

 

ってことで、もし集中が必要な作業をしなければならないときは、以下の対策をお試しください。

 

  • プライベートな空間に移動する:扉のないプライベートオフィスで仕事ができるなら、絶対にそちらを選ぶべき。自分と他人の間に物理的な距離とプライバシーがあればあるほど、集中しやすくなります。

 

  • 気が散るものを制限:オフィスを変えられない場合は、気が散らないようにする方法を考えてみる。例えば、人通りの多い場所や目新しいものがない場所にイスを置く。ノイズキャンセリングヘッドフォンを使用して会話や明瞭な音声をシャットする。デスクに「作業中!」のサインを付けておく、など。

 

まぁいずれも会社によっては対策が難しいとは思うんですが、上記の「職場での気を散らすものトップ3をできるだけ断つぞ!」と考えてみるだけでも状況は変化するはずであります。私の場合はひたすら自室でこもりっきりなので、逆に「他人と交流しないとなぁ」とは思いますが。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。