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2021年12月に読んでおもしろかった7冊の本と、その他もろもろ

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2021年12月版です。あいかわらず新刊の作成で死んでまして、今月に読めたのは24冊ほどで、映画は1本しか見られませんでした。そんな状況でも良かった7冊をまとめてみます。

 

 

時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙

 

名著「エレガントな宇宙」のブライアン・グリーン先生の新作で、翻訳が青木薫さんときたら読まないわけにはいかず。本作は、これまでの宇宙素粒子物理学の枠をはるかに超えて、「人類のあらゆる知識をまとめる統一理論を打ち立てるのだ!」とぶちあげたすごい本になってました。

 

というと、だいたい風呂敷をまとめられずに困って終わりそうなもんですけど、エントロピーからスタートして少しずつ具象レベルをあげていき、最後は心理、アート、宗教までをつなぐ線を提示する解釈を提示していまして、「うーん……さすがグリーン先生……」とか思いました。

 

話題がめちゃくちゃ広いのでだだーっと読んでると迷子になりますが、あくまで「抽象度マックスの現象を思考の基礎にしつつ、どんどんレベルを上げてるんだなー」ってとこを押さえておけば、「いま何を読まされてるんだ……」って気分にならずに済むんじゃないでしょうか。たぶん、今年ベスト。

 

 

 

世界をつくった6つの革命の物語

 

ダメなものは、タメになる」などで有名なジャーナリストのスティーブン・ジョンソンさんが、「人間の生活を変えたすごい発明」についてまとめた本。ガラス、時間、光みたいなものがいかに生まれたかって話はもちろんおもしろいんだけど、それが思わぬところに波及して人類の生活を変えていったかを説明するパートが想像を超えてて楽しいです。

 

「イノベーションはなんで生まれるのか?」って観点じゃなくて、「いかに風が吹く桶屋がもうかるのくり返しで人類が発展してきたか?」ってとこに注目して読むと楽しい読書になるでしょう。

 

 

 

アウシュヴィッツは終わらない これが人間か

 

「『夜と霧』にならぶ名著」と言われる一作。『夜と霧』は限界状況から人間讃歌にいたる様子に泣かされる内容でしたけど、こちらは限界を超えた環境でヒトが絶望に飲み込まれる描写にフォーカスしていて、ひたすらに辛い。……なんだけど、それでも読まずにはいられなくなっちゃう恐ろしい本でありました。

 

 

 

ザリガニの鳴くところ

 

言わずとしれた本屋大賞受賞作。最初は「地味そうだし長いなぁ……」と思って敬遠してたのが、いざ読み始めたら、殺人の謎を終え!孤独な女性のラブロマンス!不遇な女性の成長物語!といったエンタメ要素がゴリゴリに詰まってて、ほぼ1日で読み終わりました。おそらく後世に残る作品……とまではいかないと思うものの、アメリカで死ぬほどベストセラーになったのは納得というか。

 

余談ですが、本作については「野蛮な進化心理学」のダグラス・ケンリック先生が、「『ザリガニの鳴くところ』は進化心理学から見た人間のモチベーション構造に作用してる!」みたいなコラムを書いてておもしろかったです(R)。

 

 

 

自意識とコメディの日々

 

"第3のバナナマン"ことオークラさんの自伝。お笑いファンなら当然読むでしょうが、「俺はなにかをなしとげる人間だ」や「あの天才に比べて自分なんか……」みたいな自意識に悩まされている人や、「自分が理解できないまま立ち位置に悩んでいる組織人」みたいな人にもオススメです。

 

 

 

汚れた手をそこで拭かない

 

どこにでもいる一般人が、ちょっとした判断ミスをもとに真綿で首を絞められながら破滅していく話が詰まった短編集。ちょっとした嘘が拡大して取り返しがつかなくなったような体験は誰にでもありましょうが、この「人生の取り返しのつかなさ」を倒叙ミステリーとして展開していて、話の展開も文章もまぁお上手。登場人物の立場におかれたらストレスで死ぬな……。

 

ちなみに、著者の芦沢央さんによる怪談集「火のないところに煙は」もよろしゅうございました。

 

 

 

女の体をゆるすまで

 

性自認に悩む漫画家さんが、アシスタント時代に受けたセクハラのトラウマを乗り越えるまでを描くエッセイコミック。性被害の非対称性を描くあたりはガツンとくるし、マンガでEMDRの治療プロセスが描かれたのを初めて見まして(他にもあるのかもしれんですが私は初見)、非常に勉強になりました。PTSDにお悩みの方などには参考になるんじゃないでしょうか(もちろんフラッシュバックには注意が必要ですけど……)。

 

 

 

マトリックス レザレクションズ

 

言わずとしれた18年ぶりの続編。斬新なアクションはなく、前作のスタイリッシュさは消え、ストーリーの中だるみもすごい……んだけど、全体に妙なかわいらしさが漂ってて嫌いになれない一作でした。いままでの「マトリックス」は「とにかく支配からの卒業!現実にもどるのだ!」ってトーンで一貫してたのが、今回は「フィクションも現実みたいなもんだから好きに変えようぜ!」みたいなノリになってたのがよかったっすね。

 

ちなみに、話の中盤でアナリストってキャラが主人公に語る「マトリックス」の仕組みは、「無(最高の状態) 」で書いた脳のシステムに近いことを言ってて、「ですよねー」とか思いました笑

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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