あらゆる学習の効果をガツンと上げたきゃ「生産的失敗」でGO!
新年!ということで、一発目のエントリは「生産的失敗」の古典的な研究(R)を紹介しておきましょう。
生産的失敗ってのは、名前のとおり"役に立つ失敗"のことでして、
- 何度も何度も失敗して、手探りで解決法を探っていって、ようやく正解にたどりつく
みたいな学習法を意味しております。これが一般的な学習法とはかなり違うのは一目瞭然で、伝統的な教え方は、だいたい以下のようになります。
- レクチャー:まずは学習の対象を説明する
- デモンストレーション:学習の内容を実践してみせる
- フィードバック:実際に学習内容をやってもらい、間違ったら修正していき、成功したら報酬を与える
この学習モデルは定番中の定番でして、実際に効率よく学習を進めるのに役立つことがわかっております。
ところが、いっぽう近年では「効率を追求するのもいいけどさぁ、なんの手がかりもなしにもがく体験も大事じゃない?」って考え方もあったりするんですよ。できるだけ早く正解にたどり着こうとするんじゃなくて、あえて混乱しながら学習したほうがものごとの理解は深まるし、長期的に見て役に立つんじゃないのだろうか……みたいな発想ですね。
これは個人的にもよくわかる話でして、いろいろと文献をつきあわせて「ここのつながりはどうなっとるんだ!よくわからん!」と模索しまくったほうが、よくできた教科書を読んで学んだことよりも理解度が高いと思う事が多いんですよね(ここでいう理解度が高いってのは、抽象度が高くて他のことにも応用しやすい知識が身についている、ぐらいの意味)。
ってことで、この2011年の研究では「生産的な失敗」の効果を調べるべく、こんな実験をしております。
- 11〜12の学生を集めて2つの教室で、平均速度の計算方法についてどれだけ知っているかを確認するために、30分間のプレテストを行う
- その後、全体を2つのグループにわけて、異なった学習方法で「平均速度の出し方」を教える
- 「直接指導」」グループは、平均速度についての講義からスタート。まず先生が速度や平均の概念を説明し、いくつかの例を取り上げて質問を促し、生徒に練習問題を解かせて宿題を出した。このような講義→実践→宿題→フィードバックのプロセスを7回の授業で繰り返す
- もう1つの「生産的な失敗」グループは小さな集団に分かれ、それぞれが次のような2つの複雑な問題を解くように指示された。
「ハチドリは、毎年カナダからチリまでの約9000kmを往復しています。オオハチドリはハチドリの仲間の中では最も大きく、体重は18~20グラム。体長は23cmで、1分間に70~80回羽ばたき、18時間の飛行で6時間の休息を必要とします。
いっぽう、フトオハチドリもハチドリの仲間で、1分間に100~125回羽ばたきます。体長は約10~11cm、体重は約3~4gで、12時間飛行すると12時間の休息が必要でし。550回の羽ばたきで1km移動でき、ほぼ同時にカナダを出発した場合、どちらのハチドリが先にチリに到着するでしょうか?」
以上の問題について教師のサポートや指導は一切なく、ただ2回の授業でそれぞれの問題を解くように指示(計4回の授業)。そのあとで宿題は出されなかったたが、グループで問題を解いた後に、個人で取り組む問題が追加された(2コマ)。
6回の個人作業の後、最後の授業では、複雑な問題を解決するための解決策、戦略、アプローチなどを教師とお互いに共有。この段階で教師はようやく「正しい」方法で問題に取り組み、解決する方法を説明し、生徒たちが正しい答えにたどり着けるようにサポートを行った
ってことで、どちらのグループも7回の授業で平均速度の計算方法を学んだのは同じながら、「生産的な失敗」グループにはしばらくなんの指導もなく、ひたすら自分の頭でウンウン考えさせたわけですね。確かに、一見するとかなり非効率な印象がありますね。
その後、生徒たちに「平均速度」を出すための問題をいろいろ行ったところ、結果はこんな感じになりました。
- 簡単な問題と複雑な問題の両方において、生産的な失敗グループは、直接指導グループに大差をつけて勝利した
- 単純な問題の場合、生産的な失敗グループの平均スコアは84.8%だった(直接指導グループは75.3%)
- 複雑な問題の場合、生産的な失敗グループの平均スコアは59.7%だった(直接指導グループの42.4%)
いやー、これはなかなかの差じゃないでしょうか。つまり、この結果を言い換えると、
- 効率が悪そうな学習法は短期的には成績が悪くなるかもしれないがが、長期的には成績がグンと良くなる
みたいになります。生産的な失敗を目指すと問題の基本的な原理や解決策への理解が深まり、おかげで長い目でみたらこっちのほうがいいんじゃなかろうか、と。すげーわかる……。
ちなみに、研究チームはこんなことも言っておられます。
問題を解決するために、生徒たちはさまざな斬新なアイデアや方法を編み出した。また、それだけにとどまらず、生産的な失敗を目指したグループには、「自分の考えた方法がなぜうまくいかないのか」や「なぜ他の方法のほうが良いのか?」を心から知ろうとするモチベーションが生まれていた。
生産的な失敗には学習のモチベーションアップ効果もあるのではないか、ってことですね。確かに自分の力で編み出した解法には愛着がわきやすいでしょうから、それだけやる気が高まるのも納得と申しますか。
そんなわけで、なにかと効率ばかりが尊ばれる昨今ではありますが、今年からの学習やトレーニングは、あえて非効率を取り入れてみちゃいかがかな?とか思う次第です。ポコペン。