【質問】「忘却曲線」って古い理論ですが今でも学習に使えるんですか?
記憶についてググったことがある人なら「忘却曲線」はご存じでしょう。「忘れたものを覚え直すのにかかる労力ってどう変わるの?」ってポイントを時間軸で表したものです(「人間は一度覚えたことをどれぐらい忘れるか?」って話ではないのでご注意を)。
忘却曲線によると、私たちが読んだり聞いたりした情報の約70%は1日で忘れると言われ、残りの30%はゆっくりと忘れ去られます。でもって、約31日後には学んだことの4%しか覚えておらず(この数字を約20%とする研究もある)。
で、おっしゃるとおりエビングハウスの忘却曲線は歴史が長くて、初出が1885年に出版された「記憶について」って本だったりします。歴史ありますねぇ。
ここでエビングハウス先生が行った試験はどんなものかといいますと、
- 実験の参加者に、無意味な音節をランダムに記憶してもらう(RUR、HAL、MEK、BESみたいな)
- 記憶テストをして、学習後にどれだけの情報を記憶に保持できたかを測定
みたいになります。その結果を曲線にプロットしたものが、いま「エビングハウスの忘却曲線」と呼ばれているものになります。
ここで測定したのは「節約率」って概念でして、式にしてみるとこんな感じです。
- 節約率=(1回目の学習時に必要な反復回数または時間ー2回目の学習時に必要な反復回数または時間) ÷ (1回の学習時に必要だった反復回数または時間)
かなり複雑に聞こえちゃいますが、実際は非常にシンプルです。たとえば、8つの無意味な単語を覚えるために25回の学習が必要だったが、1日後の再学習では15回で済んだとしましょう。この場合、この人の1日の節約率は「(25-15)/25 = 0.4」ってことで40%になります。要するに、1日後に、学習した情報の40%を保持できたってことですね。
では、エビングハウス先生が割り出した数値は正しいのかってことですが、幸いにもアムステルダム大学などが追試の調査(R)をしてくれていて参考になります。
この研究では、合計69個の無意味な単語を使ってまして、20分、1時間、9時間、1日、2日、6日、31日という、エビングハウス先生と同じ7つの時間帯で節約率をチェック。同じ手順を何度かくり返して、再学習するのにかかった繰り返し回数を平均化してます。
その結果、なにがわかったかと言いますと、
- 最初にリストを学習するのに必要な平均反復回数は31.22回
- 1日後に同じリストを学習するのに必要な平均反復回数は21.33回
- 1日ごとの平均節約率は 31.7%
だったそうです。こうして見ると、エビングハウス先生の発見と大きな違いはないですね。
ちなみに、この調査では、他のエビングハウス先生の追試もまとめてくれていて、全体的にこんな感じになります。
こちらでも、やはり全体的には似たような結果でして、エビングハウス先生の考え方は正しかった感じですね。ちなみに、研究の平均を取ると、だいたいの数値は以下のようになります。
- 覚えてから20分で、たいていの人は情報の約49%を忘れてしまう
- 1時間後には約61%忘れる
- 9時間後には約71%忘れる
- 1日後には約69%忘れる
- 2日後には約71%忘れる
- 6日後には約77%忘れる
- 31日後には約82%忘れる
9時間後に比べて1日後の節約率が増えてますが、著者によると「これは睡眠をはさんでいるからかも?」ってことらしい。なるほどねー。
そんなわけで、忘却曲線はおおむねのガイドラインとしては正しいと思われるわけですが、これらの試験には以下の難点もあるのでご注意ください。
- あくまで「無意味な単語を暗記する」って作業から得られた結果なので、別の種類の情報を記憶した場合の曲線は異なると思われる。
- なので、歴史みたいにストーリーのなかで学べるものや、英単語みたいに意味がある情報は、もうちょい節約率も変わると思われる
ってことで、そこらへんはご注意ください。まぁおおまかなガイドラインとしては十分に使えるんじゃないでしょうか。