筋トレで脳も鍛えられる?最新研究はどんな結論を出しているのか?
「有酸素運動は脳に良い!」って考え方は今や常識。これまでの研究では、有酸素運動が認知機能向上や記憶力向上に大きな効果をもたらすことは複数の調査で報告されてまして、この点については疑いようがないでしょう。
で、ここでまだよくわかっていないのが、「筋トレは脳の健康や認知機能にどのような影響を与えるの?」ってポイントであります。個人的には、筋トレは脳にも良いだろうと思ってますが、ここらへんをちゃんと調べた研究ってまだまだ少ないんですよね。
そこで、新しい研究(R)では、ざっくり以下のポイントを調べてくれてます。
- 筋トレによって記憶力は改善するか?
- 筋トレによってBDNFは増えるか?
BDNFってのは運動で分泌されるタンパク質の一種で、このブログでは過去に「頭を良くする物質」として紹介しております。BDNFは脳の神経を保護してくれるし、新しい神経の発達をブーストしてくれるし、シナプスの柔軟性も高めてくれるしで、とにかく脳に良いことだらけなんですね。
ということで、本研究では、何らかの勉強をする前に筋トレを行うことで、記憶力とBDNFにメリットがあるかを検証。そのために、以下のような実験を行っております。
- 18歳から35歳の健康な男女36名を集めて、筋トレを行うグループと、運動をしないグループに分ける。
- 実験1日目: みんなの最大酸素摂取量(VO2max)をチェックし、ついでに6種のマシン筋トレ(チェストプレス、ラットプルダウン、バイセップカール、レッグプレス、トライセップエクステンション、レッグエクステンション)の1RM(最大挙上重量)を評価する。
実験2・3日目: 筋トレグループには、1回42分間の筋トレ(1RMの70%で2セット10回ずつのエクササイズ)を指示。運動をしないグループには、42分間の筋トレ動画を見てもらう。
筋トレの後に心拍数が回復するまで30分間休憩し、それから30分間の学習をしてもらい、さらにそれから後に30分間の記憶テストを行う。
みたいになります。筋トレをした後で勉強をしたら、どれぐらい内容を覚えていられるかを調べたわけですね。ちなみに、この実験で採用された学習課題ってのは、PCの画面に表示された物体を記憶して、その物体とセットになる正しいペアを選ぶ……といったものだったらしい。
でもって、結果はこんな感じになりました。
- BDNFの量:筋トレ後には血中のBDNFと乳酸の濃度が有意に上昇しました(p < 0.01)。しかし、プラズマ中のBDNF濃度には変化は見られなかった。
- 記憶テストの成績:筋トレをした後の参加者は、物体を新しい物体と認識する反応時間が速くなった。しかし、その一方で、前に見た物体を「古い」と認識する正確さが低下した。
関係認識テストでは、筋トレ後の参加者は再配置されたペアをより正確に認識したものの、筋トレ群とコントロール群の間での認識正確性の有意差は見られなかった。
ということで、筋トレをすると、確かに脳に良い物質の量は増えるらしいんですが、その変化は記憶テスト成績とはあんまり関係がみられなかったらしい。うーん、いまいちスッキリしない結果ですが、少なくとも学習の前に筋トレをやったところで、勉強したことを思い出しやすくなるってことはないのかもですね。
もっとも、この結果はある程度まで予想できたところでして、2022年のメタ分析(R)では、筋トレ後の0~30分で記憶力をテストした場合の結果をまとめたうえで「筋トレが記憶力におよぼす効果はまちまちでよくわからん!」と結論してたりします。ここで対象になった19の研究のうち、
- 筋トレ後に認知パフォーマンスについてプラスの効果を示したのは~57%だった。
- ただし、これらのポジティブな効果は、抑制制御の能力(衝動的な反応を抑え、適切な行動を選択する能力)がメイン(~65%)で、ワーキングメモリーについては、急性レジスタンストレーニング後に改善したのは9件中4件だけだった。
みたいな感じになってます。筋トレで脳機能が上がるかはまだよくわからんものの、全体的に見ると、中程度の強度(1RMの50~69%ぐらい)で筋トレをすると、脳の機能に良い影響がありそうなので、そこらへんを目指してみると良いかもしれません。少なくともBDNFの量は増えるので、長期的には脳が改善するかもしれませんしね。
まぁ今のところは、運動で脳を鍛えようと思ったら有酸素運動のほうが確実でして、勉強の後に有酸素運動を行うと記憶が有意に改善されると考えられております(R)(d=0.47)。もうちょい詳しく説明しておくと、学習の前後に中程度の強度の運動(最大心拍数の76%)を行うと記憶力が改善する可能性が高いでしょう。どうぞよしなに。