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断食は本当に安全か?メリットとリフィードのリスクを考察したぞ!というマウス実験の話

 


断食やカロリー制限は、このブログでもおなじみのテクニックのひとつ。どちらの方法も複数の健康メリットが認められており、

 

  • 体重減少
  • 2型糖尿病のリスク低下
  • 心臓と脳の健康改善
  • がんのリスク低下
  • 酸化ストレスと炎症の軽減
  • 寿命の延長

 

といったメリットがあると考えられております。なので、私もプチ断食を実践しながら日々を過ごしているわけです。

 

ただし、こうした健康メリットが報告される一方で、実際に人体での検証が進んでいるのは、ほぼ体重減少と糖尿病に対する効果がメイン。その他のメリットについてはまだわからない点が多いんですが、そこで近ごろMITが発表した研究(R)では、

 

  • 断食をすると腸が健康になるが、がんのリスクが増える可能性もあるぞ!

 

みたいな話になってて勉強になりました。断食のメリットとリスクを再考するきっかけを与えてくれて良いっすね。

 

で、前提として、ここ数年は「断食で腸の健康が改善するのではないか?」と言われ始めた歴史があったりします。たとえば、2018年にMITの同じチームが行った研究(R)では、断食の間に腸の幹細胞が炭水化物の代わりに脂肪をエネルギー源として使い、再生能力が向上することが示されたんですよ。つまり、断食は腸の健康に良いかもしれず、それによっていろんなメリットが得られるんじゃないかと考えられるわけですね。

 

そこで今回の研究では、「断食による腸の再生はいつ始まるのか?」って問題に焦点を当ててまして、3つのグループのマウスを使って実験を行っております。あくまでマウス実験ではありますが、ヒトとマウスの腸には多くの共通点があるので、参考になるんじゃないかと思う次第です。

 

実験ではマウスを3つのグループに分けてまして、

 

  1. 24時間の断食をしたグループ

  2. 24時間の断食後に24時間自由に食事を摂らせたグループ(リフィードあり)

  3. 断食もリフィードも行わず通常通り食事をしたグループ

 

その上で、すべてのマウスにどんな変化が現れたかをチェックしたところ、以下のような結果が見られたんだそうな。

 

  • 腸の幹細胞が増える現象は、断食後のリフィード期間にピークに達した。つまり、断食そのものが再生を促すというよりも、その後に食事を再開したときに再生が一気に進むのだと考えられる。

 

断食をしている間、細胞は脂肪や脂肪酸をエネルギー源として使って生存を維持するんだけど、リフィードの段階では栄養が豊富になるので幹細胞や前駆細胞が活発に働き、腸の組織の再生が激しくスピードアップするわけっすね。

 

さらに、研究チームは、断食後のリフィードで腸の再生が進む理由として、「mTOR経路」が大きく関わってるってのも発見しておられます。この経路は細胞の成長に関わっているため、リフィードの際にこいつが活性化されることで、腸の内壁を再生させる助けになってるみたいなんですな。なるほどねぇ。

 

ただし、その一方では、このメカニズムが断食を「諸刃の剣」にしちゃう可能性が浮上しまして、

 

  • リフィードの時期にがん関連の変異が起きた場合、腫瘍ができるリスクが高まる!

 

って事実も報告しているんですな。腸の幹細胞は体内で最も活発に分裂する細胞の一つなので、幹細胞が腫瘍の発生源になることも多いみたいなんですよ。これは困ったもんですな。

 

研究チームいわく、

 

これはあくまでマウスでの結果だが、人間でも似たようなことが起こる可能性がある。断食そのものは健康に良いが、断食後に再摂取したタイミングで発がん性物質(たとえば焦げたステーキなど)にさらされると、がんが発生するリスクが高まるかもしれない。

 

とのこと。この結果を見てみると、断食やカロリー制限を「万能の健康法」と見なすのはちょっとリスクがありそうっすね。特にリフィードの時期にがんリスクが高まる可能性を考えると、単に食べないだけではなく、食事を再開する時の食事内容にも注意を払う必要がありそうであります。

 

まぁ、そうは言っても、「断食には癌リスクがあるのでは…」とビビる必要はなくて、断食を取り入れる際には、リフィードの際に発がん性のリスクがある食材(焦げた肉や加工食品など)を避け、栄養バランスの取れた食事を心がければ問題ないでしょう。逆に言えば、断食明けに「よし!好きなものを食べるぞ!」と考えて体に悪いものをガンガン食べちゃうと、リスクが一気に高まっちゃうかもしれませんな。

 

なんといっても、やはり断食が持つ健康効果は無視できず、これまでの研究でも、体重減少や糖尿病の予防に効果的であることが確認されてますんで、「リフィードの時ほど食事の内容に気をつける!」ぐらいに心がけておくのが良いでしょうな。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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