今週の小ネタ:野心がある人は逆にリーダー向きじゃない?ゲームは本当にメンタルに悪い?政治的なスタンスの違いは恋愛に影響する?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
野心だけでリーダーは務まらない?
リーダーシップと聞くと、積極的に発言して物事をバリバリ進める野心的な人が頭に浮かぶ人も多いかもしれません。しかし、新しい研究(R)では、「『野心がある=優れたリーダー』って考え方は間違ってるんじゃないの?」みたいな指摘をしていて勉強になりました。
これはスタンフォード大学ビジネススクールのチームが行った調査で、「野心とリーダーシップ効果の関係」を調べたもの。まずは分析の結果から申し上げますと、
- 野心が強い人ほどリーダーの座に就きやすいが、それが必ずしも優れたリーダーシップを発揮するとは限らない。
みたいになります。野心が強いとリーダーにはなるんだけど、野心の強さがリーダーシップの善し悪しを決めるわけじゃないんだ、と。
この研究は、472名のエグゼクティブを対象に「360度評価」を実施したもので、被験者の上司、同僚、部下など、さまざまな立場の人たちから「あの人の能力をどう思う?」と尋ねまくったんだそうな。その結果は割と明確で、
- 野心が強い人ほど「自分はリーダーとして有能だ」と自己評価していた。
- ただし、野心が強い人は、周囲からは「そんな優秀でもない」と評価されることが多かった。
って感じだったんだそうな。つまり、野心のある人たちは自分をリーダーとして推薦するので、実際にリーダーの地位につくことが多いんだけど、それが他者からの評価と一致するケースは意外と少ないんだ、と。
では、なぜこのようなギャップが生じるのかと言いますと、研究チームは以下のような推測をしておられます。
- 自己認識のバイアス:野心がある人は、自分の能力を過信しがち。これは心理学で「自己奉仕バイアス」と呼ばれるもので、リーダーシップを目指す人ほど「自分はできる」と思っているため、自己評価が他者評価とズレやすい。
- リーダー選考のプロセス:野心の強い人は積極的なので、周囲も能力を吟味せずに「彼に任せてみるか」となりやすい。
- 社会的なステレオタイプ:リーダーには「カリスマ性」が求められがちで、野心的な人はこのイメージを体現しやすいので、自然とリーダーに選ばれやすくなる。しかし、現代の複雑な組織では、柔軟性や協調性のほうが大事だったりもするため、リーダー選考のミスマッチが起こりやすくなる。
いずれも納得感のある結論でして、ちゃんとしたリーダーを選びたい時は、野心にまどわされない心がけが必要なんでしょうな。具体的には、野心の強さにかかわらずに幅広い層からリーダー候補を募ったり、野心じゃなくて知性、共感力、社会性を指標にしたりみたいなとこですかねぇ。
ゲームは本当にメンタルに悪い?
「ゲームはメンタルに悪い」とよく言われます。特に子どもがゲームにハマってしまうと、「これってやばいんじゃないか?」と心配になる親御さんも多いんじゃないでしょうか。
しかし、最近発表された日本の研究(R)は、実際には「ゲームがメンタルヘルスにプラスの影響を与える!(かも)」って結論を出していておもしろかったです。
この研究は日本大学などのチームが行ったもので、新型コロナのパンデミックによって起きた状況を使って「自然実験」を試みたのがオモシロいポイント。何をしたのかと申しますと、
- コロナ禍のときは、スイッチやプレステ5といったゲーム機が品薄になったので、それを購入するための抽選が頻繁に行われていた。
- 「抽選に当たった人だけがゲーム機を買える」という状況は、「ゲームをプレイできるか否かがランダムに決まる」という実験の条件として使えるじゃん!と思いつく。
- そこで、97,602人の日本人に5回のオンライン調査を実施。ゲームのプレイ時間、ゲーム機の所有状況、そして心理的な健康状態や生活満足度を調べた。
みたいになります。普通の観察研究だと、「ゲームをする人としない人の違い」が調査の結果に反映されちゃうので、因果関係を明確にするのが難しいんだけど、この自然実験だと、抽選に当たった人と外れた人の間で因果関係をはっきりと示すことができるわけですね。うーん、ナイス。
で、結果がどうだったかと言いますと、
- ニンテンドースイッチを所有している人は、所有していない人に比べて心理的なストレスが減少し、生活満足度が向上していた。
- ニンテンドースイッチを持っている人は、心理的なストレスが0.2標準偏差(SD)減少し、プレステ5では0.1SDの減少が見られた。
- プレステ5を持つことで生活満足度が0.2SD向上した。
って感じになります。どれも劇的な変化じゃないんだけど、確実にポジティブな効果を示したと言えるでしょうね。
研究チームいわく、
私たちも親として、ゲームが子どもに与える影響を心配していた。しかし、科学的なエビデンスに基づくと、その心配が必ずしも正当化されるわけではないことがわかった。
ということで、ゲームがメンタルヘルスにプラスの影響を与える可能性を強調しておられました。そのメカニズムはまだよくわからんのですが、考えられることとしては、
- 社会的つながりの強化:オンラインゲームを通じて、他のプレイヤーとコミュニケーションをとることで、孤独感が軽減される可能性がある。特にコロナ禍のように外出が制限される時期には、ゲームが貴重な社交の場になりやすい。
- 心理的ニーズの充足:ゲームは挑戦や達成感を味わえるため、自己効力感やモチベーションを高める効果がある。これは、特に若年層にとって大きな意味を持つかもしれない。
- ストレスの解消:ゲームは、現実のストレスから一時的に離れられる手段として機能するため、適度なプレイであれば意味があるのかもしれない。
ってあたりがあるんでしょうな。もちろん、これは「ゲームをやればやるほどメンタルが良くなる」って話じゃなくて、この研究では、プレイ時間が1日3時間を超えると、むしろ効果が減少してしまうって報告も出てるんでご注意ください。どんな良いものでも「過剰」は良くないで、ほどほどにやればメンタルヘルスを改善してくれそうっすね。
まぁ今回の研究は、コロナ禍という特別な状況下で行われたものなので、通常の状況下では異なる結果が出るかもしれないで、そこは頭の隅にでも置いといてくださいませ。とりあえず、ゲームについてそこまで心配しなくてもいいよーってことでひとつ。
政治的なスタンスの違いは恋愛に影響する?
「政治的なスタンスの違いが恋愛にどれだけ影響を与えるか?」って疑問を調べた研究(R)が出ておりました。「右寄りか左寄りか?」みたいなスタンスの違いが、パートナーとの関係に影響する可能性があるんじゃないかって話ですな。
これはミシガン大学の研究で、4,584人の成人(そのうち526組のカップル)を対象にしたもの。みんなに2週間にわたって日記をつけてもらい、パートナーとの関係の満足度やストレスの変化を分析したんだそうな。
その結果、どんな傾向が見て取れたかと言いますと、
- カップルの多くは、お互いに政治的に似た者同士であることが多かった。これは「アソートティブ・メイティング」という現象で、政治だけじゃなくても、同じ考えを持つ人ほど惹かれ合いやすい傾向を示している。
- 一方で、異なる政治的立場を持つカップルは全体の25%だった。また、「政治には関心がない!ノンポリです!」と答えたカップルでも、日常のなかで政治的な意見が違ったりすると、関係の質にはマイナスの影響があった。
「政治と時事問題に関するストレス」を感じると、カップルの関係満足度が低下する傾向がある。
みたいな感じです。要するに、どんなノンポリでも政治的な違いはカップルの間に小さな摩擦を生み、特に現代みたいに政治的な対立が激しい時期ほどカップルの安定性が試されるってことっすね。また、逆に言うなら、良いパートナーを探すためには、同じ政治スタンスの相手を探してみるのもありってことなんでしょうな。
まぁ、政治的なスタンスってのは、単なる意見の違いってだけではなく、価値観やライフスタイルの違いをも浮き彫りにしますからね。それが、日常の中で小さな摩擦を引き起こし、関係に大きな影響を与えるのは当然でしょう。
ちなみに、この研究では、政治的な立場が違うカップルは「できるだけ政治的な話題を避けて関係を維持していることが多いよー」って結果も出てたりもします。現時点で、政治的な意見が違う相手と付き合っているなら、無理に議論を続けたり、相手を説得しようと試みたりはせず、「この話題についてはお互い意見が違うけど、それはそれで良い」と思ってみるほうが大事なんでしょうな。
また、もし政治スタンスが異なる相手に惹かれた時は、アダム・グラント先生が推奨する「パースペクティブ・シーキング」を心がけてみるのも手でしょう。だいたいにおいて、あらゆる価値観が近い相手と付き合えるケースは少ないでしょうから、ここは心がけておきたいですね。