投資の相談、AIと人間はどっちが役に立つ?のか問題
「人間 vs. AI どっちのアドバイスのほうが資産形成に役立つ?」という、面白いテーマを調べた研究(R)が出ておりました。お金の相談をするときに、経験豊富なファイナンシャルプランナーを選ぶ人は多いでしょうが、果たしてそのアドバイスは、チャットボットを使った場合と比べてどれぐらい正確なのかって問題ですな。
なにせ近年は、生成AIに家計管理、投資、クレジットカード選びなどを相談する人も増えてまして、それをもとに資産形成をする人も少なくないわけです。そう考えると、やはり「AIに相談することで、本当に資産は増えるのか?」ってのはめっちゃ気になるとこですからね。
ってことで、この実験では、インドのMBA学生93人を集め、全員に「自分のことを、20年後までに10億ルピーの資産を作りたい一家の家計責任者だと考えてください」と指示。まずは自力で投資ポートフォリオを組んでもらった後で、
- 人間の金融アドバイザーに相談するグループ
- ChatGPTに相談するグループ
- 人間とChatGPTの両方に相談するグループ
に分かれて、10〜15分ほど質問や反論を交えながら助言を受けてもらったうえで、もう一度ポートフォリオを作り直してもらったんだそうな。そのうえで、研究チームは、各ポートフォリオが本当に目標額へ到達する確率を、10万回の市場シミュレーションで算出しまして、実際にどれぐらい資産形成の成功率が上がったかをチェックしております。「シミュレーションで結果を判断できるの?」とか思っちゃいそうですが、今回は参加者全員に同じ目標額、同じ運用期間、同じ市場条件を与えたうえで比較してるので、「どの助言を受けたあとに、より目標達成しやすいポートフォリオになったか」を見るには、わりと妥当な方法ではあります。
で、その結果がどうだったかと言うと、
- 助言を受けたあとには、すべてのグループでポートフォリオの成功確率が改善した。
- ただし、伸び幅には差があって、
- AIのみを使った場合:成功確率が約0.034ポイント上昇
- 人間+AIの組み合わせ: 約0.037ポイント上昇
- 人間のみのアドバイスを聞いた場合: 約0.016ポイント上昇
って感じだったんだそうな。というわけで、「AIのほうが人間より金融アドバイスが上手いのでは?」と思いたくなる結果が出ております。
ただし、ちゃんとデータを見てみると、これは別にAIのアドバイスのほうが優秀ってことではないようでして、
- 研究者が「実際に助言を受け入れた人」だけを比べてみたところ、人間のアドバイザーとAIのアドバイザーで、最終的な投資プランの質に大きな差はなかった。
- ただし、AIの助言を受け入れた人は、全体の82%だったのに対し、人間の助言を受け入れた人は63%だった。
って傾向が見られたんですよ。要するに、人間のアドバイザーもそれなりに正しいことを言っていたのに、なぜかクライアントが実行に移しにくかったんだ、と。ここは面白いポイントですなぁ。
では、なぜAIのほうが助言を受け入れてもらえたのか?ってとこが気になりますが、この実験を見る限り「人間とAIに対する信頼スコアに大きな差は出なかった」んだそうな。具体的には、人間のアドバイザーへの信頼度は7点満点で5.67、AIは5.38だったらしく、人間への信頼のほうがやや上まわる結果になってまして、「私たちはAIのほうを信用しているのだ!」ってわけじゃないみたいっすね。
じゃあ、どこに違いがあったのかというと、ここで研究チームは、アドバイスの中身そのものよりも相談の体験に注目しております。相談の体験ってのは、たとえば、
- ちゃんと話を聞いてくれている感じがあるか?
- 説明に納得感があるか?
- 会話の雰囲気が心地よいか?
- こちらの質問や反論にきちんと対応してくれるか?
みたいなポイントでして、AIの場合、この「相談体験の良さ」が信頼感をかなり強く左右していたんだそうな。対して、人間の場合は、相談の中身以外にも、「肩書き」「見た目」「専門家っぽさ」「社会的な評判」みたいな要素をもとに、みんな相手の信頼性を判断してたらしい。要するに、人間の専門家は、会話の前からある程度は信頼されてるんだけど、その信頼がそのまま「言われた通りにやってみよう!」ってモチベーションにはつながらないわけっすね。
一方で、AIってのは、権威や肩書きがないぶん目の前の会話でしか評価されないんだけど、質問への反応が速く、説明がわかりやすく、こちらのペースに合わせてくれるって特徴があるので、相談した人からは「こいつは使えるな」と思われやすく、その信頼がそのまま行動に結びつきやすいんだそうな。なるほどねぇ。
でもって、この研究を読んでて個人的に面白かったのは、私たちはAIに対して「人間より賢いから価値を感じている」わけじゃなさそうなとこです。むしろAIってのは、
- 同じ質問を何度しても嫌な顔をしない
- 初歩的な疑問でも聞きやすい
- こちらの反論を受け止めて、別案をすぐ出せる
- 知識不足を恥ずかしく感じずに済む
- 自分のペースで考えられる
みたいな特徴があるので、そのおかげで人間が行動を起こすモチベーションを高めているんじゃないか、と。
まぁ確かに、人間の専門家と話すと「こんな基本的なことを聞いたらバカにされるかも」「せっかく提案してもらったのに断りづらいな」「自分の事情をうまく説明できないな」みたいな心理が働くことがありますからねぇ。その結果、たとえその専門家を信頼していても、提案の中身を十分に理解できないまま終わったり、なんとなく違和感を抱えたまま助言をスルーしたりするわけです。
ところが、AIには、その手のコミュニケーション問題がほとんどないんで、私たちはAI相手だと遠慮なく質問するし、遠慮なく反論するしで、最終的に自分で納得したプランを作りやすいのかもしれません。これは金融に限らず、健康、勉強、仕事、キャリア相談などでも同じような気がしますな。要するに、私たちはたんに「答えを教えてもらう」より、「自分が納得するまで壁打ちできる」ほうが、実際の行動を起こしやすい心理があるんじゃないか、と。
もちろん、この研究だけで「投資は全部AIに聞け!」と結論づけるのは無理筋でして、そもそもこれは本物のお金を賭けた投資じゃないし、サンプルも93人と小さめで、相談時間もたった10〜15分ですからね。市場が暴落したときにAIの助言を守れるのかとか、数年にわたって人間とAIのどちらを信頼し続けるのか、といった問題まではわからないんで。
ただし、今回の結果を見る限り、AIの強みってのは、専門家を完全に置き換えることよりも、「人間が行動を起こすための摩擦を減らしてくれる」とこにあるのかも?とは言えそうっすね。実際、この研究でも、結局は人間とAIの両方に相談したグループが、もっとも大きく投資プランを改善してますんで、現時点ではヒトとAIのいいとこ取りをするのがベストな気がしております。
なので、いまのところは、
- まずAIに「自分の状況で考えるべき論点」を洗い出してもらう
- わからない用語や選択肢を、納得できるまでAIに説明してもらう
- 大きな決定の前には、人間の専門家に個別事情を含めて相談する
- 最後にAIを使い、「専門家の提案に見落としはないか」「自分の理解は正しいか」を整理する
みたいな使い方が良いのかもですなー。


.jpg)
