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「運動してるから大丈夫」勢がハマる、座りっぱなしの害を考える本を読んだ話

 

『ボディ・エレクトリック(Body Electric)』って本を読みました。著者のマヌーシュ・ゾモロディさんは、NPRの『TED Radio Hour』のホストとして知られるジャーナリストで、ポッドキャスト界ではかなり有名な方だそうな。本書のもとになった「ボディ・エレクトリック」プロジェクトは、2万人以上が参加した大規模な健康実験だったそうで、デジタル時代の身体問題を扱った内容になっております。

 

本書のテーマは、「現代人の不調は、スマホやパソコンの見すぎだけじゃなく、“動かなさすぎる生活”が原因なんじゃないか?」って感じ。近ごろは、1日何時間も画面を見続けるのが普通になってるので、その結果として、現代人のいろんな不調が起きてるんじゃないか、と。人間の体は、そもそも長時間じっとしているようにはできていないですからねぇ。

 

というわけで、今回も本書から勉強になったところをチェックしてみましょうー。

 

  • 本書のメッセージは、「朝に運動していても、日中ずっと座りっぱなしなら体は普通にダメージを受ける!」というもの。朝にランニングをしている人やジムで筋トレしている人は「自分はちゃんと運動してるから大丈夫」と思いやすいが、コロンビア大学の研究によれば、1時間の運動は1日のうちのたった4%にすぎない。残りの時間をずっとイスの上で過ごしているなら、体からすれば「この人、ほとんど動いてないな」と判断されても仕方がない。

 

  • 研究の世界では、このような人を「アクティブ・カウチポテト」と呼ぶ。つまり、運動はしているが、それ以外の時間はほぼ置物のように座っている人である。運動習慣そのものは良いことだが、それだけで長時間の座りっぱなしによる糖尿病、心疾患、早期死亡リスクなどがチャラになるわけではない。座りっぱなしは、それ自体が独立した問題である。

 

  • ここで最大の問題は「中断されない静止」である。健康の世界ではスタンディングデスクがブームだが、もし立ったままでも動かなければ、結局は静止していることに変わりない。長時間立ちっぱなしになると、静脈瘤、低血圧、血栓などの問題も起きうるため、座るか立つかよりも、体をこまめに動かしているかどうかのほうが大事だと言える。

 

  • そこで出てくるのが、「30分ごとに5分歩く」という対策である。生理学者キース・ディアスの研究では、30分ごとに5分、時速3キロぐらいのゆっくりしたペースで歩くと、食後の血糖値スパイクが大きく抑えられ、血圧も下がったという。時速3キロというのは、ざっくり言えば散歩レベルであり、汗だくになる必要も、心拍数をガンガン上げる必要もない。ただ、立ち上がって少し歩くだけである。

 

  • 現代人が必要としているのは、必ずしも「激しい運動」ではなく、むしろ長時間の静止をこまめに切ることのほうが、日中の体調には大きく効く可能性がある。人間の体は、1時間だけ激しく動いて残りの時間は動かない状態よりも、軽い運動を何度も挟むほうが自然なのだと考えられる。

 

  • そこで本書の著者は、NPRのリスナーを対象に大規模な実験を行った。参加者は2万人以上で、参加者には、自分の生活に合った運動休憩の量を選ぶように指示した。たとえば、30分ごとに5分歩く人もいれば、60分ごと、2時間ごと、あるいは1日に4〜5回だけ休憩を入れる人もいた。その結果、完璧に実践できなかった人でも、ちゃんと健康メリットが確認された。そのため、とにかく大事なのは、活動の量をゼロにしないことなのだと思われる。座りっぱなしのダメージは「長時間の静止」が問題なのだから、まずはその静止をちょっとでも切ればいい。

 

  • ここから言えるのは、現代人に必要なのは「完璧な運動習慣」ではなく、「完璧じゃない運動休憩」を増やすことである。朝に筋トレするのも、夜にランニングするのも素晴らしいが、それとは別に、日中のあいだに体を何度も動かす必要がある。5分歩く、階段を上る、廊下をうろつく、遠いトイレに行く、電話中に立つぐらいの小さな動きが、意外とバカにならないかもしれない。

 

  • また、こまめに動いた人たちは、仕事の生産性も上がった。多くの人は、「仕事中に休憩を入れると集中が途切れる」「席を立つと作業効率が落ちる」と考えがちだが、ボディ・エレクトリック・プロジェクトでは、運動休憩を入れた日のほうが、参加者の仕事量は約4%増え、仕事の質も少し高まったと報告されている。5分歩くと、血流が変わり、筋肉が動き、注意が切り替わるのが原因だと考えられる。

 

  • もうひとつ重要なのが、ボディ・エレクトリック・プロジェクトの参加者たちが、「気分がよくなった」という実感を報告したことである。頭のモヤが晴れた、イライラが減った、仕事終わりの疲労感が軽くなった、という声が多く、実際、こまめに動いた日には、疲労感が最大28%ほど下がったという。

 

  • これは、筋肉が収縮すると、さまざまな化学物質が放出され、それが脳にも影響するからだと推測される。筋肉は気分や集中力やエネルギーを調整する臓器でもあるため、「気分が重いときはまず歩く」ほうがよいことも多い。気分の問題に見えていたものが、実は「筋肉をしばらく使っていなかった問題」だった可能性がある。

 

  • 「インターオセプション」の観点も重要である。インターオセプションとは、自分の体の内側で起きていることに気づく感覚のことである。心臓がドキドキしている、肩が固まっている、お腹が空いている、トイレに行きたい、目が疲れている、そろそろ休みたい。こうした体内のサインを読み取る能力だと言える。神経科学者のサヒブ・カルサ博士は、これを「内側のセルフィー」と表現している。自分の体の状態を、内側からパシャッと撮るような感覚である。

 

  • テクノロジーはこの「インターオセプション」の感覚を鈍らせる可能性がある。ベルン大学の研究では、健康な成人に加速度計をつけ、スマホで定期的に「いま体の感覚にどれぐらい気づいていますか?」と尋ねたところ、30分座って画面を見た後には、自分の体への気づきが低下していたという。一方で、10分ほど動くと、その感覚は戻ってきたという。

 

  • 現代のスマホやPCは、私たちの注意を外側に固定する。SNS、ニュース、動画、チャット、メール、通知。画面の中には無限の刺激があり、こちらの注意を絶えず引っ張ってくる。そのあいだ、脳は体が発するサインを無視してしまう。

    この意味で、運動休憩の価値は血糖値や血圧だけではなく、「インターオセプションを復活させる」ことにあるとも言える。5分歩くと、画面に吸い込まれていた意識が体に戻り、足の裏、呼吸、肩、背中、疲労感、空腹感に気づけるようになる。一部の研究者は、現代人の不調は、インターオセプションの能力の低下によるものだとしている。

 

  • 現代のオフィス、学校、通勤、リビングは、だいたいイスを中心に設計されている。仕事はデスクに座って行い、授業も座って受け、移動も座り、家に帰ってもソファに座ってスマホを見る。さらにスマホは、指先に無限の刺激を与えてくれるため、ますます体を動かす理由がなくなってしまう。この問題に立ち向かうには、本来なら、職場や学校の設計そのものを変える必要がある。

 

  • とはいえ、社会や会社がすぐに変わるわけではないので、まずは個人で小さくスタートするのが次善策である。たとえば、会議を30分ではなく25分にする、Slackで送る代わりに同僚の席まで歩く、電話は立って受ける、トイレを少し遠い場所にする、昼食後に5分だけ歩く、集中が切れたらスマホを見るのではなく廊下を歩く、などである。

 

ということで、今回は『ボディ・エレクトリック』って本のお話でした。「座りすぎはよくない!」という話は昔からありますが、本書がおもしろいのは、そこにデジタル時代の身体感覚の喪失までつなげているとこですね。ただ運動不足なのが問題なのではなく、デジタルによるインターオセプションも大きいんでしょうなぁ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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