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おすすめ機能のアルゴリズムが優秀すぎると、逆に人生が退屈になるんじゃないか問題

 
 

音楽でも映画でもYouTubeでも、「おすすめ」機能がやたら優秀になってきた昨今。私が若かったころは、CDショップでジャケ買いして失敗したり、深夜テレビで謎の映画に出会ったり、友人に勧められた謎バンドを聴いて「なんだこれ?」と思ったりしたもんですが、いまや我々の娯楽体験はかなりの部分をアルゴリズムの奴隷になっております。Spotifyが「自分が好きそうな曲」を出し、Netflixは「おすすめの作品」を並べ、YouTubeは一度見たジャンルを延々と差し出し………みたいな感じですな。

 

まぁ、これはこれで便利な機能ではありますが、近ごろ出た研究(R)では、

 

  • アルゴリズムが優秀すぎると、逆に好みが狭くなり、娯楽が退屈になっていくぞ!

 

という話になってておもしろかったです。これはトロント大学の研究で、「アルゴリズムがエンゲージメントを最大化しようとすると、私たちの長期的な満足度はどうなるのか?」という問題であります。たとえば、Spotifyがあなたに「この曲、好きでしょ?」とおすすめしてきた曲が、実際にめちゃくちゃ良かった場合、最初は「おお、Spotifyわかってる!」とか喜ぶわけです。が、その曲や似たような曲ばかりを何度もおすすめされると、だんだん飽きてきて徐々に「またこれかよ」になる、みたいな経験は誰にでもありましょう。このような現象が積み重なると、少しずつ人生がつまらなくなるのではないかと、研究チームは考えたんですよ。

 

 

完璧なおすすめより、ちょっと変なおすすめのほうがいい説

で、この研究は実際の人間を使ったものではなく、数学モデルを使ったシミュレーション実験でして、このモデルの中では、

 

  1. 人間は同じジャンルに適度に触れると好きになる
  2. しかし、触れすぎると飽きる
  3. アルゴリズムは短期的な反応を見ておすすめを決める
  4. 新しいものをどれぐらい試すかも変えられる

 

という条件を設定したんだそうな。短期的な反応を最大化するアルゴリズムが、長期的な好みの成長をどう邪魔するのかってポイントを調べたわけですな。

 

でもって、このモデルを走らせてみて、どんなことがわかったかと言いますと、

 

  • 完璧に近いアルゴリズムほど、新しいものを探索しなくなる

 

というものだったそうな。簡単に言えば、アルゴリズムが「いま好きなもの」ばかりを出すせいで、「これから好きになれたかもしれないもの」と出会う可能性を奪うってことです。

 

なんでそんな現象が起きるのかと言いますと、私たちが娯楽を楽しむ際には「消費資本」って現象が起きるからです。これは簡単に言えば、

 

  • あるジャンルを何度か体験することで、そのジャンルを楽しむ能力が育つ

 

という考え方であります。たとえば、はじめてジャズを聴いて「なんかよくわからん」と思ったり、クラシックに「眠い」と感じたり、ヒップホップに「騒がしいな」と感じたりするケースはよくありますが、それでも何度か触れていくうちに、

 

  • このリズム感がいいんだな……
  • この即興がすごいl
  • この言葉の乗せ方が気持ちいい!

 

みたいに、だんだん楽しみ方がわかってくるものじゃないですか。つまり、私たちの好みってのは、決して固定されたものではなく、何度も接触することによって育つわけです。

 

ところが、ここで問題が起きまして、アルゴリズムってのは、基本的に「いま何をクリックしたか」「いま何を最後まで見たか」「いま何に反応したか」を見て、「この人は、こういうコンテンツが好きだな!」と判断を行うんですよ。本来、人間ってのは10年、20年かけて好みが育つものなのに、アルゴリズムは数週間から数カ月の反応で「この人はこれが好き/嫌い」を決めてしまうわけですな。

 

 

アルゴリズムを使うと「まだ好きになっていないもの」は、永遠に出会えない

これはなかなか怖い問題で、たとえば、あなたが最初にヒップホップを聴いたときに「ちょっと苦手だな」と思ったとしましょう。すると、アルゴリズムは「このユーザーはヒップホップに反応しなかったから、ヒップホップはこの人に向いていない」と判断して、その結果、ヒップホップはあなたのおすすめ欄から消えていきます。

 

しかし、実際は、あと5回ぐらい聴けば好きになっていたかもしれないし、別のアーティストから入ればハマっていたかもしれないし、ある時期の気分で「あれ、ヒップホップって面白いな」と思う未来があったかもしれない。それなのに、アルゴリズムが「この人には向いてない」と判断してしまうと、その未来が消えちゃうんですよ。

 

研究チームいわく、

 

今日あなたが欲しがるものを正確に当てるアルゴリズムは、明日あなたが好きになれたはずのものを奪っている。

 

ってことでして、アルゴリズムが消費資本を奪っちゃう問題が強調されておりました。これは嫌だなぁ。

 

実際のところ、このモデル実験では、「ちょっと予測が外れるアルゴリズムのほうが、長期的には満足度が高くなった」って結果も出ております。それもそのはずで、ズレたアルゴリズムのほうが、たまに変なものをおすすめしてくるおかげで、ユーザーが新しいジャンルに触れる機会が生まれるんですよ。やはり、人生には適度なノイズとカオスが必要。

 

というわけで、もしあなたがいま、

 

  • コンテンツは無数にあるのに「見るものがない」なぁ……。
  • おすすめが全部同じに見えるなぁ……。
  • 最近の作品は、似たようなものばかりだなぁ……。

 

と感じているのなら、それはあなたが触れるコンテンツが最適化されているからかもしれず、そのままだと長期的な満足は下がるかもですな。もちろん、この研究は理論モデルなので、「現実のSpotifyやNetflixが必ずこうなっている」と断言できるものじゃないんだけど、それなりにあり得そうな話じゃないでしょうか。おすすめが便利になるほど偶然の出会いが減るのは当たり前ですしね。

 

では、どうすればいいのか?ってことで、個人的には、以下のような対策がいいんじゃないかと思っております。

 

  1. あえて「微妙そうなもの」を選ぶ:おすすめ欄の中で、いつもの自分なら選ばないものを週に1つぐらいは選んでみる。知らないジャンルの映画、知らない国の音楽、普段なら読まない小説、興味のない分野のドキュメンタリーなど。ポイントは、「絶対に好きそうなもの」ではなく、ちょっとだけズレたものを選ぶこと。

  2. 人間のおすすめを入れる:アルゴリズムだけでなく、友人、本屋、図書館、雑誌、批評家、昔ながらのランキングなど、人間のキュレーションを混ぜる。人間のおすすめは、アルゴリズムほど正確ではないかもだけど(少なくとも短期的には)、その粗さが重要で、「なんでこれ勧めてきたんだ?」というズレの中に、新しい好みの芽があるかもしれない。

  3. すぐに判断しない:未知のジャンルに触れたときに、1回で「これは嫌い」と決めない。もちろん、本当に合わないものを無理して続ける必要はないものの、少なくとも「嫌いなのか、まだ聴き方・見方がわかっていないだけなのか?」と考えるクセはつけておきたい。私の場合は「恋リア」がそれに該当するので、やはり取り組んでみたほうがいいんだろうか……。

 

いずれにせよ、「もう少しアルゴリズムに逆らってみるといいかもな!」みたいな話でして、たまには変な曲を聴いたり、よくわからない映画を見たりするのもいいんじゃないかと思った次第です。

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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