成長のため?それとも苦しみの元?自己啓発本に潜むヤバいメッセージに気をつけようねーという話
ここんとこ、自己啓発本について調べたデータをチェックしております。
いずれも「自己啓発本っていうと無闇に嫌う人もいるけど、そんな悪いもんでもないよ」って話を書いてみました。まぁ自己啓発本をうまく使うには絶対に自己分析が必要で、そこが難しいところなんですが。
でもって、新たに読んでみた文献(R)では、「自己啓発本って無意識のうちに“ヤバいメッセージ”を吸収しちゃうから気をつけてねー」って視点があって共感させられました。
これは東フィンランド大学のトゥイヤ・コイブネン博士の調査で、労働社会学とジェンダー研究の分野で活躍している先生ですね。ここではフィンランドで出版されている、仕事に関する自己啓発書をいくつか選び、その内容とテーマを深く読み解く「テキスト主導のテーマ分析」を実施。その上で、「自己啓発本を読むと、知らないうちに良くないメッセージがすり込まれるから注意しようぜ!」と結論づけております(めちゃ意訳ですが)。
自己啓発本が私たちに刷り込んでくるメッセージについて、博士は「非情な楽観主義」って概念を採用しておられます。これはアメリカの文化批評家ローレン・ベルラントが提唱する考え方で、「人が望むものが、実はその人の幸福を妨げる原因にもなっている状態」と定義しておられます。
つまり、自己啓発書のメッセージは、「人に希望を与えつつも、実は幸福を低下させる働きをしてるんじゃないの?」って指摘をしてるわけですね。まぁメリトクラシー批判の文脈でよく聞く考え方ではありますが、やはりいくばくかの真実があるのは間違いないでしょう。
では、詳細を見てみましょう。自己啓発本が私たちに刷り込んでくるメッセージとしては、以下のようなものが指摘されております。
- 「自己責任」のプレッシャー:仕事に関する自己啓発書の多くは、個人の意識や態度に変化を起こし、職場環境をポジティブに変えよう!と主張する。しかし、これらの本のほとんどは、個人に全ての責任を委ねているのが問題となる。たとえば、「自分が変われば職場も変わる!」みたいなメッセージは、ぱっと見は勇気づけられるんだけど、実際には、組織や職場そのものの改善は置き去りにされてしまう。
また、自己啓発書では、「職場での成功の鍵は、自分の魅力や柔和さを保ち、積極的に前向きな姿勢を示すこと」といったアドバイスがなされることが多いが、その一方で、問題に正面から向き合う姿勢や、理不尽な状況に対する抵抗については触れられないケースが多い。このようなアプローチは、職場での課題を個人の問題にすり替え、職場の構造的な改善を求める視点が失われる。
さらに、最近の自己啓発書の多くは、「エネルギー管理」という概念を推奨する。これは「自分のエネルギーをうまく管理すれば仕事が楽に感じられる」といった考え方だが、実際には、職場の問題の多くは個人の努力だけでは解決できるものではない。多忙な職場や業務過多な状況には、組織構造やリソースの問題が関わっていることの方が多く、読者に「どうにかするのは自分しかいない」という感覚を与えるだけではどうにもならない。
結果として、こうしたメッセージを受け取ることで、読者は問題が解決しない場合に「自分が努力不足だからだ」と感じるようになり、心理的な負担が重くのしかかることになる。この「自己責任」の感覚が強化されることで、逆に仕事に対する不安やストレスが増してしまう。
- 成長を目的化する「変化」という罠:仕事に関する自己啓発書は、絶え間ない「成長」と「自己改善」を求め、キャリアの成功や昇進、職場での評価を高めるためには、常に自分をアップデートし続けなければならないと説いてくる。これは、現代の労働市場において確かに重要な側面ではあるが、あまりに強調されすぎると、「自分を成長させ続けること」自体が目的になっちゃうリスクが大きい。
例えば、多くの自己啓発書では、具体的なスキルの向上よりも、「仕事への態度を変え、自分の考え方をポジティブに保つ」ことに焦点が当てられる。しかし、こうしたマインドセットの改善を重視するアプローチは、簡単に実践できるものではなく、労働者にとっては持続的な負担になることが多い。さらに、変化し続けることが当然とされるため、「現状に満足する」ことが困難になり、読者の幸福度を下げる方向に働く。
- 職場の構造的な問題への無視:自己啓発書は、個人が状況を良くするための手段として自己改善を推奨するが、環境の構造的な問題にはほとんど触れない。忙しさやストレスの原因が、組織の構造や業務量にある場合、それを変えるべきは組織側の責任であるはずだが、自己啓発書はあくまで「すべて自分の行動で解決できる」といった幻想を抱かせがちとなる。
自己啓発書のマーケットが成長し続ける背景には、私たちに「常に改善を求められている」という漠然とした不安感があることも無関係ではない。これにより、自己啓発書は次々と新しい「改善の手段」や「成長の秘訣」を提供し、読者に絶えず「変わること」を促す。しかし、職場でのストレスやプレッシャーが組織的な問題から発生している場合、いくら自己改善に励んでも根本的な解決には至らず、むしろ自分を責める要因となりかねない。
- 成果の得られない自己改善がもたらす「非情な楽観主義」:自己啓発書には「どんなに難しい状況でも、自分の心の持ち方次第で幸せになれる」といった楽観的なメッセージがよく見られる。しかし、現実には仕事の内容や労働環境が改善されないままでは、いくら気持ちの持ち方を変えたところで、仕事のやりがいや幸福感を持続させることは難しい。このような状況では、「努力しているのに成果が出ないのは自分が不十分だからだ」という自己批判が積み重なり、自己改善をしているつもありが自己否定のループに陥ってしまう。
ってことで、多くの自己啓発本は「自分を改善しようぜ!」って押しつけが強すぎるあまり、読者を逆に「改善しない自分はダメなのだ!」と思わせる負のループを生んでいるんだって話ですね。もちろん、上記の批判に当てはまらない本もあるものの、現代の自己啓発本の多くに刺さる視点だとは言えましょう。
この「非情な楽観主義」を乗り越えるのは難しいですが、自己啓発本を読むときは、「他と比べて自分の環境ってどんなもんだろう?」「自己改善が『自己目的化』してない?」ってあたりについて、自己判断じゃなくて第三者のフィードバックをもらった方が良いでしょうね。自己啓発本のせいで長期の幸福度が下がったら辛いですからねぇ。どうぞよしなにー。