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マシュマロを制する者は人生を制す! | ウォルター・ ミシェル「マシュマロ・テスト」

Marshmallow

ウォルター・ ミシェルの「マシュマロ・テスト」を読みました。著者はスタンフォード大の教授で、かの有名なマシュマロ・テストを生んだ伝説の心理学者さん。

 



 

マシュマロ・テストの内容はといいますと、

 

  1. 4歳の子どもたちの目の前に1個のマシュマロを置く
  2. 「すぐ食べずに15分待てたらもう1つマシュマロをあげる」と言い残し、実験者は部屋の外へ出ていく


 というシンプルなもの。実際の子どもたちの反応は以下の動画のとおりでして、超カワイイです。



で、その後、20年にわたって子どもたちを追跡調査したところ、マシュマロをがまんできなかった子どもほど、

 

  • 肥満の割合が多い
  • コミュニケーション能力が低い
  • ドラッグや犯罪に手を染める確率が高い


 ってな傾向がハッキリ出たというんですね。本書にいわく、


自制心は長期的な目標を首尾よく追求するには欠かせない。また、思いやりに満ち、互いに支えあう関係を築くのに必要とされる克己心や共感を育むのにも必須だ。(中略)そして自制心は、満足のいく人生を築くのに絶対必要なEQ(情動的知性)の根底にある「万能能力」だ。


とのこと。つまりは「人生はセルフコントロール能力で決まる!」って話でして、「WILLPOWER 」で有名なバウマイスターさんの意志力研究とか、成功するためにもっとも大事な要素と言われる「グリット」とか、キャロル・ドゥエック博士の「『やればできる!』の研究」とか、「誠実さのレベルが高いほど成功度は高い」みたいな研究につながっております。とにかく、ここ数十年の心理学界に多大な影響をあたえてるわけですね。

 

 

個人的に本書で勉強になったのは、

 

  • ヒトの頭には「ホットシステム」と「クールシステム」がある:ヒトの脳には、感情のままに突っ走る「ホットシステム」と、長期的に物事を考える「クールシステム」の2種類がそなわっている。ホットシステムとクールシステムは相互作用しており、いっぽうが活発になるともういっぽうの働きは弱まる。このあたりは、カーネマンがいう「システム1」と「システム2」や、ブッダさんがいう「象と象使い」とほぼ同じですね。
 
  • セルフコントロールが発揮できるかどうかは対象への評価で決まる:マシュマロの誘惑は、マシュマロ自体にそなわった特性ではなく、その刺激を脳がどう評価するかによる。実際に、マシュマロを「空に浮かぶ雲だ」と自分に言い聞かせた子どもは自制心があがった。頭のなかで思い描く方法を変えるだけでも前頭前皮質が活性化され、ホットシステムを冷ますことができる。

 

  • クールシステムはストレスに超弱い:どんな軽いストレスでも前頭前皮質の働きは弱まり、クールシステムが使えなくなっちゃう。ストレスが慢性になると認知能力はさらにダメージを受け、体と心の両方を激しく追い込んでいく。

 

  • 口出しが多い親のもとで育った子どもはクールシステムが発達しない:支配的で干渉が多い親のもとで育った子どもほど、自制心が効かない傾向が強い。逆に自主性を重んじる親の場合は、自然と子どもの問題解決をうながすため、セルフコントロールの技術を養うことができる。

 

 

  • クールシステムを上手く働かせるための3条件:マシュマロ・テストで好成績を残した子どもは、みんな以下の特徴を持っていた。
    • 1)現時点の目標とルール(「いまマシュマロを食べたらあとでもらえない」)をつねに頭に浮かべておく。
    • 2)目標の達成度をくり返しチェックし、必要に応じて誘惑をやわらげるテクニック(「イフゼンプラン」など)を使う。
    • 3)自分の衝動的な反応(反射的にマシュマロに手がのびたり)をつねに監視する。

 

  • クールシステムは共感能力やポジティブな感情を高める:自制心というとストイックな印象ですが、実際は第三者の目線で長期的に物事を見る能力を養うので、結果として他人の心を客観的に想像したり、「自分はできる!」みたいな前向きな気持ちが生まれることになる。また、ネガティブな場面でも、自分と距離が置けるので必要以上にヘコまずにすむ。その意味でも、セルフコントロール能力のトレーニングは必須。

 

  • 誘惑や感情に負けやすい「ホットスポット」は人によって違う:ホットシステムが働きやすい場面は、人によってかなり違う。実験では、ある子どもは仲間はずれに対して攻撃的になったが、別の子どもはなれなれしい態度にホットシステムが起動した。自分が強いストレスを感じた状況を日記に書き残すようにしておけば、自分のホットスポットを把握することができ、「冷却」作業をスムーズに行えるようになる。


といったところ。要点をざっくりいえば、

 

現在に対してはクールシステムを起動し、未来に対してはホットシステムを起動させるのが大事


って感じあります。たとえばダイエットの場面なら、目の前のお菓子にたいしては「イフゼンプラン」「脱フュージョン」「対象への評価を変える」テクニックでどうにかしのぎ、将来についてはスリムになった自分を何度も想像してみたり、「計画を日単位で立てる」テクニックなどでやる気を上げていくイメージでしょうか。



そんなわけで、さすがセルフコントロール研究の第一人者が書いただけあって、とても読みごたえのある一冊。お手軽なライフハックなんかは載ってないんで、そのへんを期待しちゃうとアレですが、全編にわたって「自制心は誰でも育てられる!」ってメッセージが貫かれてまして、とにかくモチベーションを上げてくれるのがありがたいですね。


ミシェル博士いわく、

 

子どもでも大人でも自制心を育むことは可能で、前頭前皮質を意図的に使ってクールシステムを活性化させ、ホットシステムを調整できるという話だ。これを可能にするスキルがあれば、刺激にコントロールされることを免れられるので、私たちはそのときどきの衝動やプレッシャーの言いなりになる代わりに、自制を達成し、真の選択ができる。

 (中略)

自制に関する研究が発する根本的なメッセージを要約するように言われたときには、私は「我思う、ゆえに我あり」というデカルトの有名な金言を思い出す。心と脳と自制についてこれまでにわかったことに基づけば、私たちは彼の主張から、「我思う、ゆえに我自ら自分を変えうる」へと進むことができる。


いやー、希望がわいてきますな。

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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