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正味なところ、鍼治療って本当に効果があるの?「東洋医学ってどうよ? #2」

Acupuncture1

前回は漢方薬の効果について考えてみたので、ここでは「鍼治療」の話でも。全身のツボに細いハリを刺して痛みをやわらげる、中国から来た代替医療の1つですね。

過去のデータを見ると、鍼治療は限りなくプラセボに近い 

で、科学的なデータをもとに考える「エビデンス派」の間では、いまのところ「鍼治療はニセモノ!」って意見が優勢なはず。その傾向を決定づけたのが2008年のサイモン・シン「代替医療のトリック」(文庫版は「代替医療解剖」)で、本書が「まあ鍼治療はプラセボでしょう!」と結論を出したんですね。

 



著者が参照したのは、コクラン共同計画が行った系統的レビュー(1)。過去に行われた鍼治療の試験をくわしく調べたうえで質の悪い実験をはぶき、良質なデータだけをまとめて「大きな結論」を出したんですね。その結果は、

コクラン共同計画の系統的レビューによると、次に挙げる症状のどれについても、鍼の有効性を示す根拠はない。タバコ中毒、コカイン依存症、(中略)むち打ち症、脳卒中。コクラン共同計画のレビューは、数十件の臨床試験を調べた結果、これらの症状に対する鍼の効果は単なるプラセボ効果であると結論している

「代替医療解剖」より


とのこと。かなりバッサリ斬ってますねぇ。

 

 

ところが、このコクラン共同研究をもとに「鍼治療はオススメ!」と言ってる機関もあるんですよ。それがイギリスの国民保健サービスで、慢性腰痛や頭痛に関しては「科学的なデータをもとに鍼治療を推奨する」と言い切っております(2)。

 

 

というのも、コクラン共同研究でも、腰痛、頭痛、吐き気に対しては「そこそこ効くよ!」との結論を出してるんですね。再び「代替医療解剖」から引用しますと、

症状によっては、コクラン・レビューで多少肯定的な結果が得られているものがある。妊娠中の背中から腰にかけての痛み、腰痛、頭痛、手術後の吐き気および嘔吐、(中略)がそれだ。要するに、鍼について肯定的な結論が出ているのは、夜尿症を別にすれば、ある種の痛みと吐き気だけなのである。


とのこと。著者の書き方はかなりネガティブですが、実際には腰痛や頭痛を治したくて鍼治療にかかる人は多いですから、別にいいんじゃないかという気もしてきますな。




 

近年では鍼治療に好意的なデータが増えてきた

では、プラセボとくらべて、鍼治療にはどれだけの効果があるもんなんでしょう? そのへんにくわしいのが2012年のメタ解析(3)で、ニセ鍼と本物の鍼を使った実験データだけを集めて、プラセボ効果のレベルを調べたんですね。ニセ鍼は、先端が引っ込んで肌に刺さらないようにまっててまして、本物の鍼との効果を比較できるわけであります。

 

 

実験数は全部で29件ありまして、対象者の数はおよそ18,000人。その結果をざっくり抜き出すと、

 

  • 本物の鍼を使ったら50%に腰痛や頭痛の改善が見られた
  • ニセの鍼を使ったら42.5%に腰痛や頭痛の改善が見られた


といったところ。うーん、微妙な差ですね。これは解釈が難しいところで、「鍼治療のほうが効果がある!」とも「プラセボでも十分に効果がある!」とも言えちゃうんですよ。

 

 

ただし、研究者はこの結果に好意的で、

鍼治療は慢性痛に効果があり、治療法の1つとして使い得る。本物の鍼とニセ鍼の効果は明確な差があり、鍼治療がプラセボではないことを示している。もっとも、両者の差はかなり小さいが。


とのこと。留保はしつつも、鍼治療の効果を認めております。

 

 

もう1つ面白いのが2015年に出たばかりの系統的レビュー(4)で、レーザー鍼を使った実験だけを抜き出して、プラセボのレベルを調べたんですね。レーザー鍼は自由に出力を変えられるので、ニセ鍼よりも正確にプラセボ効果が測定できるわけであります。

 

 

実験数は全部で49件ありまして、そのなかから質の高いものをより分けて残ったのが31件。その結果をざっくり抜き出しますと、

  • 全体的にレーザー鍼はプラセボよりも効果が高い
  • レーザー鍼は短期的にはそこそこの効果がある
  • レーザー鍼の効果は治療期間が長いほど増す


とのことで、やはり劇的な効果こそ認めてはいないものの、2012年の論文よりさらに好意的なトーンになっております。

まとめ: そもそも腰痛治療はプラセボから逃れられない

ここまでの話をまとめると、

  • 過去のデータを見る限りは鍼治療はほぼニセ科学に近い
  • 実験のテクニックが発達した近年では、やや鍼治療が挽回してきている
  • いずれにせよ、鍼治療は腰痛や頭痛を「ちょっとだけ」やわらげる効果はある


といったところ。いまのところはまだ「鍼治療はプラセボだ!」ってデータのほうが多いものの、近年は少し風向きが変わってきた感じがありますね。

 

 

まあ個人的に思うのは、そもそも体の痛みには解明されてない点が多く、最近では「腰痛は心の病だ!」って説が主流なわけですから、もとから痛みの治療はプラセボから逃れられないんじゃないかと。

 

 

もちろん、実際の効果とプラセボを切り分けるのは科学的には重要なものの、とりあえず楽になりたい方には鍼治療も十分にアリなのかなーと。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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