「最高の体調」のボーナストラック編#6:「好きなことを仕事にする者は本当に幸せか?」
「最高の体調」に収録しきれなかった文章を紹介していくコーナーでーす。
「「最高の体調」のボーナストラック編#1:「ポリフェノールと腸」」に書きましたが、この本は400ページぐらい書いたのを280ページまで刈り込んだもので、結構な量の文章が残ってるんですな。そこで、そんな浮かばれない文章を紹介していくのが眼目であります。
さて、ここで紹介するのは、第5章「価値」で取り上げる予定だった一編です。この章では「自分の価値観を定めると不安が減っていいよー」って話を書いてるんですが、その最後に仕事面の話を入れようかと思ってたんですな。
その前段階として、まずは「好きを仕事にしよう!」っていう定番のアドバイスが正しいのかどうかを考えてみます。文章の最後が問いかけで終わってますが、解決編はまた後日にアップしますんでご容赦ください。ではどうぞー。
日本人と仕事
本章の最後に、「価値評定スケール」のなかから「キャリア・仕事」に的を絞った話をします。というのも現代の日本は、世界のなかでも、突出して仕事の価値観レベルが低い国だからです。
スイスのギャラップ社が139カ国の企業を対象に行った調査によれば、「熱意を持って仕事に取り組んでいる」と答えた日本人は全体の6%。逆に「やる気がない」という回答は70%にものぼり、この数字は世界で132位の最下位クラスです。
これだけの人が仕事の価値から切り離されている状況は、社会にとっても大きな損失でしょう。
この問題に対しては、「日本社会では好きなことを仕事にしづらいからだ」といった意見をよく聞きます。欧米と違って日本は人材の流動性が低いせいで好きなことを仕事にできず、そのせいで生産性が上がらないのだ、という発想です。
この考え方にも一理はあります。世界のなかでも日本は転職率が低い国として知られ、勤続年数の長さはドイツと並んで世界1位。どれだけ現状が嫌でも、組織から離れない国民性がうかがえます。
好きなことを仕事にする者は本当に幸せか?
しかし、だからといって好きなことを仕事にすれば万事解決かと言えば、そう簡単にはいきません。多くの職業研究によれば、自分の好きなことを仕事にしようがしまいが、最終的な幸福感は変わらないからです。
2015年、ミシガン州立大学が「好きなことを仕事にする者は本当に幸せか?」というテーマで大規模な調査を行いました。数百を超える職業から聞き取り調査を行い、仕事の考え方が個人の幸福にどう影響するかを調べたのです。
研究チームは、被験者の「仕事観」を2パターンに分類しました。
- 適合派:「好きなことを仕事にするのが幸せだ」と考えるタイプ。「給料が安くても満足できる仕事をしたい」と答える傾向が強い
- 成長派:「仕事は続けるうちに好きになるものだ」と考えるタイプ。「そんなに仕事は楽しくなくてもいいけど給料は欲しい」と答える傾向が強い
ぱっと見は、適合派のほうが幸せになれそうなイメージがあります。自分が情熱を持てる仕事につければ毎日が楽しく、金目当てに働くよりも人生の満足度は高まっていきそうな気がするでしょう。
どのような態度で仕事に向かうべきか?
ところが、結果は意外なものでした。適合派の幸福度が高いのは最初だけで、1〜5年の長いスパンで見た場合、両者の幸福度・年収・キャリアはほぼ同じぐらいに落ち着いたからです。
研究チームは言います。
適合派は自分が情熱を持てる職を探すのがうまい。しかし、実際にはどんな仕事にも好きになれない面があり、最終的には現実的なラインで妥協しなければならなくなる。いっぽうで成長派は仕事の困難を耐えぬくことができるので良い結果を残しやすい。
適合派は「好きな仕事」を求める気持ちが強いぶんだけ、現実の仕事に対するギャップを感じやすくなります。そのせいで「いまの仕事を本当に好きなのだろうか?」といった疑念が生まれ、最終的な幸福度は下がるのです。
逆に成長派は、仕事の嫌な面を目にしても心が折れにくい性質を持ちますが、運悪くブラック企業に入ってしまった場合は、その強さが裏目に出てしまいます。
つまり、どちらの立場にも相応のメリットとデメリットがあるため、「好きを仕事にし!」と叫ぶだけでは人生の満足度を高めるソリューションにはなりません。私たちは、どのような態度で仕事に向かうべきなのでしょうか?