アートは就職や結婚よりも人生を幸福にしてくれるかもだ!という観察研究のお話です
「アートはメリットが多い!」みたいなデータはいくつかあって、
といった話がいくつか出てるわけです。アートが良い理由はよくわからんですが、人類が十数万年も続けてきた営為ですから、なにがしかの機能は果たしてきたと考えるのが自然でしょう。
ってことで新しい研究(R)は、「アートで幸福度が上がる!」って結論になってておもしろかったです。
これはシェフィールド大学などの調査で、複数の実験により「アートと幸福」の関係を調べてくれたんですよ。具体的な実験のデザインはこんな感じ。
1. 最初の3つの研究
544人の参加者(ほとんどが女子学生)を集めて、
- 前日にどのようなアートに触れたかを報告してもらう
- さまざまなタイプの幸福度(感情的な幸福、人生の意味の感覚、人生の満足度など)を測定するアンケートに答えてもらう
- ついでに、比較のために、前日にスポーツを見たり、参加したりしたかどうかも尋ねる
- すべてのデータを比べる
みたいな調査をしております。すると、やはりアートと幸福度には明確な相関がありまして、
- いろんなタイプの芸術を鑑賞すると、人生の満足感や意味のレベルが上昇する傾向がある
- ライブアートやビジュアルアート(絵画や写真など)は、最高レベルの感情的な幸福と、その他の幸福指標と相関していた
- アートと幸福度の相関は、鑑賞の時間とは関係なく確認された(つまり、長時間鑑賞すればいいってもんでもない)
- スポーツ観戦は幸福度との相関が見られなかった
といった結果だったらしい。個人的にもおもしろい現代アートとかを見ると1日ニヤニヤしてるんで、これは共感できる結果ですなぁ。
2. 2つ目の研究
こちらは50人の参加者を集めた調査で、
- スマホを使って1日2回ずつ10日間続けて、「いまアートやスポーツを見ているか?」「現在の幸福度はどうか?」を報告してもらう
- すべてのデータをくらべて、幸福度との相関を調べる
といった調査をしてみたところ、やはり結果は先の実験と同じ。スポーツ観戦には目立った相関が見られなかったのに対し、アートに触れた参加者はあらゆるパターンの幸福度が上昇してたとのこと。
ただし、ここではさらにアートの種類が区別されていて、
- やはりライブアートは幸福度が高く、視覚芸術や文芸芸術も幸福度の上昇と相関していた
- しかし、音楽を聴いたり、映画やドラマの鑑賞は幸福度との有意な相関がなかった
- 全体的に見ると、アートによる独特の「高揚感」が幸福度アップにつながっている可能性が高い
といった結果も出てたりします。映画ファンとしては映画鑑賞と幸福度が相関しないのは謎ですが、独特の「高揚感」が大事ってのがポイントなのかもですねぇ。
3. 3つ目の研究
こちらでは、イギリスで行われた大規模な調査から得られた約28,000人分のデータを使ってまして、
- みんながどれぐらいアート系のイベントに参加したか(展覧会とかアートフェスとか)
- ダンスや写真撮影など、積極的に関わっていくタイプのアートイベントに参加したか
- スポーツへイベントにどれぐらい参加したか
などを調べたうえで、これらを幸福度のスコアと比べております。こちらも類例が少ない研究で良いですねー。
そこで、分析の結果がどうだったかと言いますと、
- アートイベントへ参加する回数が多い参加者ほど、3年後の幸福度が高い傾向があった
- もともと幸福度が高い人ほど、その後でアートへの参加度が高まる傾向もあった
- 鑑賞型のアートイベントの方が、参加型のイベントよりも幸福度が上がった(これはちょっと不思議)
みたいになってます。このデータを素直に受け取れば、
- アートに行くと幸福度が高まる
- そのおかげでさらにアートに参加する
- もっと幸福度が上がる!
という正のスパイラルがあると考えられるわけっすね。ちなみに、ここでは年齢、性別、雇用、収入などの要因を考慮した分析をしてまして、
アートイベントへの出席頻度は、雇用、結婚、教育の効果と同等かそれ以上の正の相関を持ち、参加型アートの効果よりも強かった。
との結論を下してたりします。まぁこのデータからだと「なんでアートがそこまで幸福度をあげるの?」ってとこはよくわからないんですけど、個人的には「畏敬の念」とかそのへんが関わってるのかなーと予測しております。いずれにせよアート好きにはうれしい話っすな。