人間は年をとったから動かなくなるのではない、動かなくなるから年をとるのだ!仮説
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名著「人体六〇〇万年史」のダニエル・E・リーバーマン先生が、「運動が体にいいのはなぜなの?」に関するおもしろいレビュー(R)を出してくれておりました。
このレビューが何を問題にしているかというと、運動が健康に欠かせないのは常識なんだけど、それじゃあ「なんで人間は運動しないと健康になれないように進化してきたの?」みたいなポイントです。リーバーマン先生いわく、
西欧社会では、年を取ると、活動のペースを落とし、行動の量を減らし、引退するのが普通だという考えが広く浸透している。しかし、私たちのメッセージはその逆で、ヒトはもともと「年を取れば取るほど活動的になるべくデザインされた存在だ」と考える。
ってことで、ランニングの世界でよく言われる「私たちは年をとったから走るのをやめるのではなく、走るのをやめるから年をとるのだ」みたいな考え方が展開されておりました。この発想を、リーバーマンさんは「活動的な祖父母仮説」と呼んでおられます。
で、この研究がどんなことを言ってるかをざっとまとめてみると、こんな感じです。
- 動物学の研究を見てみると、野生の類人猿は、ヒトと違ってだいたい35〜40年しか生きられず、たいていは子供を産めなくなったら死んでしまう。
いっぽうで狩猟採集民の場合は、幼少期を無事に生き延びることができれば、子供を産まなくなる年齢を20年ほど過ぎても70歳前後まで生きることができる。化石の証拠を見ても、実は4万年前での人類は、このような健康長寿が一般的であったことがわかっている。
- このようなヒトの類人猿の寿命の違いは、運動量の差にあるのかもしれない。実は類人猿は狩猟採集民に比べてかなり運動をせず、1日のほとんどを座って過ごすからである。
この事実は、ヒトの進化プロセスで「中高年になったら身体的な活動によって寿命を伸ばし、生殖をやめたあとも仲間のために奉仕して、子供や孫を助けるべし」という選択が行われたことを示唆している。つまり、ヒトは生殖をやめた後も生きるように進化していると言える。
- ちなみに、現代の狩猟採集民は1日平均135分程度の中等度から激しい運動をしており、糖尿病や心臓病は存在しないか、非常にまれな病気だと報告されている。癌の発生率も低い。これは、身体活動で筋肉が発達し、そのおかげで全身の炎症が抑えられるからだと思われる。
もちろん、現代人は狩猟採集民よりも長生きだが、慢性疾患を抱えながら長生きしていると言える。
- 中高年になるほど活動的でなければならない理由はふたつで、ひとつは過剰なエネルギーを消費して有害なメカニズムを取り除くこと(内臓脂肪とか)もうひとつは、分子、細胞、組織レベルで身体にダメージを与え、細胞やDNAの修復プロセスを働かせるところにある(「不老長寿メソッド」のホルミシスですな)。
- 細胞やDNAの修復プロセスは、糖尿病、肥満、がん、骨粗しょう症、アルツハイマー病、うつ病などのリスクを低下させることがわかっている。運動をしていない状態では、これらの反応の活性化は少なくなる。また、年齢を重ねるにつれて、身体活動の重要性と効果は大きくなっていく。
- ただし、中高年が狩猟採集民のように活動する必要はない。1日10分、20分といった少量の運動でも、死亡リスクを大幅に下げることができる。
ってことで、運動は体に良いと言われると超当たり前のようですが、実際には運動で寿命を伸ばせるのは人類の特権じゃないのか?みたいな話ですね。
簡単に言えば、
- ヒトは生殖をやめた後も生きのびて祖父母になるために設計されている!そのために運動を必要とするように進化した!
ってことでして、これをリーバーマン博士は「活動的な祖父母仮説」と呼んでるわけですね。個人的には「なるほどなー」って感じでして、今後も運動をするモチベーションになった次第です。