変化が激しい現代の必須スキル「考え直す」を身につけるには?------アダム・グラント「シンク・アゲイン」#1
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アダム・グラント先生の「シンク・アゲイン」を読んだので、ポイントをまとめておきます。「ORIGINALS」や「 GIVE & TAKE」が売れたので、当然これもすぐ邦訳されるだろ!と思って待ってたんですが、なぜか日本版が出ないのでしびれを切らした次第です。
で、本書は「心の盲点や認知バイアスに気づいて考え直そうぜ!」って内容になってまして、「科学的な適職」にちょっと近い感じになってます。いかに、自分が知っていることを疑い、知らないことに好奇心を持ち、新しい証拠に基づいて自分の考えを更新していくか?を考えた一冊っすね。
まー、1章あたりのボリュームが短いせいで拙速な印象がありまして、私は「ORIGINALS」や「 GIVE & TAKE」のほうが好きですけど、思考の柔軟性が大事なのは間違いないので、気になる方は読んで損がないでしょう。
ってことで、以下ポイントです。
ポイント1. 自分との関係を”考え直す”
- 「知性」について、従来は「知性とは考えたり学んだりする能力である」と考えたが、新たに「知性とは考え直す能力のことである」と捉え直したほうがよい。グラント先生は、考え直すことができる認知能力は、変化の激しい世界では不可欠であると主張している。
- 私たちに「考え直す」能力が必要な理由は、第一に、多くの人は「自分の直感や最初の反応は正しい」と思い込むバイアスがあり、単に答えを考え直すことをためらうだけではなく、「考え直す」ということ自体をためらいやすいからである。
他人に対して「あの人は意見を変えたほうがいい!」と気づくのは簡単だが、自分自身がそのような習慣を身につけるのはとても難しい。
- 政治学者のフィル・テトロックは、人間のマインドセットには「説教師」「検察官」「政治家」の3つがあると考えた。
- 説教者:自分の考えを広めることに必死で、自分の考えを変えることは道徳的な弱さの表れだと捉える
- 検察官:議論に勝つために他人の考えを攻撃するタイプで、あいてに説得されることは敗北を意味する。
- 政治家:他人の支持を得るために承認と同意を求め、コロコロと自分の意見を変える。
- しかし、グラント先生は、テトロックのマインドセットモデルに、「科学者」というモデルを加えるように提案している。この考え方を持つ人は、仮説を立てて実験を繰り返し、新しい真実を発見しては考えを修正していくことで真実を追求していきます。この考え方では、考えを変えることは知的誠実さの証であり、道徳的な弱さや信念の欠如とはとらえられない。そして、当然ながら「考え直す」ことは科学的な思考の基本である。
ちなみに、これは科学者が絶対にバイアスの罠にハマらないって話ではなく、現実の世界においては、科学者だろうが、説教師、検察官、政治家のようなモードに陥ることはよくある。それぐらい考え直す作業は難しい。
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起業家を対象としたある研究では、テストグループに「科学的な思考を使ってビジネス戦略を立ててみて!」とすすめたところ、その結果はコントロールグループを大きく上回り、ピボットの頻度も2倍になる傾向があった。
一般に、「考え直す」のサイクルは、「謙虚さ」⇒「疑う」⇒「好奇心」⇒「発見」の順に行われる。
- 人間には自分の実力と自信の釣り合いを取れないバイアスもあり、以下のような現象が知られている。
- アームチェア・クォーターバック症候群:自信が能力を上回ってしまう現象
- インポスター症候群:実力が自信を上回ってしまう現象
- ダニング・クルーガー効果:能力と自信の乖離を示す。最も自信のある人ほど、実は最も能力がない人であるケースが多い
- 実力と自信の釣り合いを取れない問題に立ち向かうには、「自信に満ちた謙虚さ」が必要となる。これは、自分の能力を信じながらも、自分が間違っている可能性を十分に疑い、柔軟性を保つことができる理想的な状態を意味する。
「謙虚さ」というと自信がないようなイメージもあるが、本当の謙虚さは「自分には欠陥があり、誤りを犯しやすい生き物だ」という事実を認識することを意味する。自分の知識に自信を持つのではなく、自分の柔軟性に自信を持つのが大事。
- 「謙虚さ」を持つためベストなのは、「私は頭がよい」や「私は知識がある」ではなく。「私は真実や知識を積極的に求める人間だ!」という点を自分のアイデンティティにすることである。これにより、好奇心や再考の余地が生まれる。
- もうひとつ「謙虚さ」を持つためには、「自分が間違っているのでは?」と思える理由を積極的に探すのもよい。自分の意見にひとつのでも反論が見つかれば、自信過剰を抑えることができる。
ポイント2. 他人との関係を”考え直す”
- 他人と議論する際、私たちはふたつの状態のどちらかになりやすい。ひとつは「人間関係の対立」で個人的な確執や言い争いをするもの(例:「お前なんか嫌いだ!」みたいな)。もうひとつは「タスクの対立」で、特定のアイデアや意見をめぐる議論(例:「このツールを使うべきか?」みたいな)。
このうち、タスクの対立にはメリットが多い、より良い結果につながりやすい。そのため、他人と議論する際は2つのモードに気を配り、つねにタスクの対立について話すよう意識すべきである。
- 他人と議論する際、つい私たちは「敵対的アプローチ」を取りがちになる。これは、相手の話を聞かずに説教師や検察官のような態度をとってしまう対話法のことである。
他人との議論をうまくすすめるには、「協調的アプローチ」が欠かせない。これは、科学者のように考えるように相手を誘い、謙虚さと好奇心でリードしていくコミュニケーションスタイルである。
もっともやっちゃいけないのは「論理的いじめ」で、合理的な議論で相手を圧倒する行為を意味する。これで相手が同意するケースは少なく、話がこじれるだけで終わる。
- 「協調的アプローチ」がうまいのはプロのネゴシエーターで、だいたい以下のような戦術をとる。
- 相手とどこに共通点があるかを事前にリサーチしておく
- 「あなたの提案はここが興味ぶかいですが、どのように思いつきましたか?」のように、相手への好奇心が見えるような質問をする
- 「私はこの展開に失望しています。あなたはそれに不満ですか?」 のように、プロセスや相手の気持ちに対する自分の気持ちをちゃんと表現する
- 相手の意見に同意する部分があればそれを口に出し、相手から学んだことがあればそれを認める。そもそも、自分の考えを変えようとしなければ、他人の考えを変えることはできない
- 相手にこちらの意見を伝えるよりも、質問を投げかけて相手に自分で考えてもらうほうが、より相手は意見を変えやすくなる。そのため、相手に正解を教えようとするのはやめ、自ら解決への道を歩ませるほうがよい
- 多くの人は、会話の相手に自分を賢く見せようとがんばってしまう。しかし、優れた聞き手は、相手に賢さを感じてもらうことに関心を持つ。
ってことで、長くなってきたので今回はこのあたりで。本書ではまだ「グループや集団において、いかにバイアスにはまらないようにするか?」って問題もあつかってますんで、次回はそこもまとめていきます。ではまたー。