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スマホは「持っているだけ」でバカになる!はどこまで正しいのかを『スマホ脳』ベースに考える

 

 

スマホ脳に関するご質問をいただきました。

 

スマホ脳」を読みました。スマホを使うと学力が下がるとか集中力が低下するという話でした。鈴木さんは、スマホについては良い見解と悪い見解の両方を紹介していると思いますが、スマホ脳についてはどう思われますか?

 

ということで、「スマホ脳」の主張にどこまで賛成するのか、と。

 

 

おっしゃるとおり、このブログではスマホについては良い見解と悪い見解の両方を取り上げてまして、一例をあげると、

 

 

といったものがあります。ご覧のとおり、スマホには良いニュースと悪いニュースのどちらもあるんですよねー。

 

 

いっぽうで、「スマホ脳」の見解はわりと「スマホは悪だ!」で一貫していて、

 

  • スティーブ・ジョブズは、スマホの依存性や悪影響を認識し子供の利用も制限していた!

  • スマホを使うと集中力が低下する!孤独感も強まる!メンタルも低下する!
  • デジタル化は記憶の定着をジャマする傾向がある!

 

といった主張が展開されております。では、この考え方について私がどう思っているかと言いますと、

 

  • スマホの悪影響については、いまんとこ強く主張できるレベルではないと思う
  • というか、実際には「スマホは人生の改善に役立つのだ!」と主張するデータも多い

 

みたいな感じになります。なんか玉虫色のお答えになりますが、どうにもスマホの害については、現時点でなにかを声高に言えるレベルではないもんで。

 

 

で、スマホの悪影響を示したデータについては「スマホ脳」にくわしいので、ここではスマホに有利な結果を報告している話をまとめておきましょう。

 

  • スマホは別にメンタルを低下させない:2017年に12万人以上の英国の青年を対象に行われた研究(R)では、スマホなどは適度に使ってる限りメンタルの悪化は見られない。ただし、使用量がめちゃ多い人々については、測定可能な負の関連性が報告された(ただし、その効果は非常に小さい)。

 

  • スマホは孤独感を強めるどころか癒やす:2002年から2017年の間に発表された36の研究のレビューによると、10代の若者の大半は、デジタルコミュニケーションのおかげで人間関係を高めていることが示された(R)。

 

  • スマホは人間関係の良さを予測する:1,300人以上の子どもと10代を対象とした2009年の縦断研究では、友人や家族との関係が良い子供ほど、12~18歳の青年期にメール、チャット、インスタントメッセージをより頻繁に利用し、オフラインの友人関係もよいことがわかった(R)。

 

  • スマホで記憶が低下するかは怪しい:デジタル技術と記憶の影響を調査した研究では、「この情報はすぐ検索できますんで」と言われたら記憶が低下したが、「この情報はPCに保存されないんで」と言われたら、普通に記憶力が働いた(R)。つまり、テクノロジーで長期的に記憶が下がるかは謎。

 

  • スマホで集中力が下がるかも怪しい:2015年のレビュー(R)では、デジタル技術が人の注意力やワーキングメモリを低下させるかどうかは、参加者のモチベーション次第である可能性を指摘している。つまり、この手の実験で使われるタスクは基本的につまらないものが多いので、そのせいで認知が低下するように見えているのかもしれない。

 

というわけで、「スマホ脳」がピックアップしたデータと同じぐらい、「スマホは悪くない!」ってデータも少なくないんですよ。いやー、困ったもんですな。

 

 

では、なんでこういう食い違いが出るのかってところが気になりますけど、あくまで個人的な推測ですが、以下のような感じじゃないでしょうか。

 

 

  • 推測1 スマホは個人の「弱み」を悪化させているのでは?:要するに、たいていの人にとってスマホは問題がないんだけど、生まれが貧しかったり、悪い家庭環境で育ったり、いじめに悩んでいたりと、人生の逆境に苦しんでいる人は、その脆弱性をスマホが悪化させるのでは?みたいな考え方です。

    事実、9~16歳の子ども3,500人を対象に行われた調査では、裕福な家庭の子供はネットやデジタル技術で問題が起きないが、リアルの生活で多くの逆境に遭遇している子供ほど、スマホの悪影響を経験する可能性が高いと報告されてたりします(R)。

    また、2015年の調査でも、低所得家庭の10代は、裕福な同年代の若者よりも、ネット上でいじめや勧誘、被害を受ける可能性が高いと報告されてたりもします(R)。要するに、オフラインの生活で苦労している青少年は、オンラインでもネガティブな経験をする可能性が高いってことでして、これもつらいところですね……。

 

 

  • 推測2 そもそもスマホの利用時間の測定がバラバラ:ランカスター大学の研究(R)を見てみると、238人の人々を集めてAppleのScreen Timeアプリが記録したデータを自己申告するように指示。この数値を、一般のスマホ研究で使われる尺度と比べたところ、相関係数はかなり低かった(高くても0.5ぐらい)。この報告からすれば、いままでのスマホ研究は、そもそも土台に使う測定法の信頼性がとても低いため、おかげで調査ごとにバラつきがでているような気がする。

 

 

ってことで、ここまでの話をまとめると、こんな感じになります。

 

  • スマホ悪い説と同じぐらい、スマホ良い説(またはスマホ問題ない説)の数も多い

 

  • なので、「スマホ脳」は煽り過ぎな気がする(そうしないと売れづらいですけど)

 

  • スマホは人生の逆境に苦しんでいる人に悪影響をおよぼしている可能性があるんじゃないかなぁ

 

まー、「スマホが悪い!」って話は人間のバイアスに訴えかけるところがあるんで、つい引っ張られがちになるのも仕方ないところですが、個人的には「そこまで煽らんでも……」と思ったことでありました。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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