お肉を食べると太りやすくなるってホント?「結局、お肉は体にいいのか悪いのか? #4」
シリーズ3回めでは、「お肉と発がん率」の関係を見てみましたが、ここでは「肉を食べると太るの?」って問題について考えてみたいと思います。一般的にも「肉好き=デブ」みたいなイメージがなんとなくありますが、実際のところはどんなもんでしょう?
狩猟採集の社会では肉と肥満の関連は薄い
というわけで、まずはいつものように狩猟採集民たちのデータから。
肉の消費量が多くて有名なのはカラハリ砂漠で暮らすサン人で、リチャード・リー博士のリサーチ(1)によれば、総カロリーの約40%が動物の肉だったとか。にも関わらず、サン人のBMIは平均で18.5ぐらい。日本人の基準から見ても痩せすぎなぐらいですね。
また、同じく肉食で有名なのが、カナダ北部のイヌイット族。なにせ野菜が手に入りづらい地域なので、カロリーのほとんどはアザラシの肉や内臓で占められております。が、1962年の調査(2)では、イヌイット族の肥満率は男性が4%、女性が10%ぐらい。しかも、中年になると全体的な肥満率が減る傾向があったそうな。おもしろいですねぇ。
先進国ではベジタリアンのほうが明らかに痩せている
ひとまず、狩猟採集民には肉と肥満の関連は薄そうですが、それでは西洋社会ではどんなもんでしょう?
そこで参考になるのが、38,000人分の健康データを分析した2003年の研究(3)で、ベジタリアンと肉を食べる人たちのBMIを調べてみたんですね。その結果は、
- 肉を食べる人のBMI:24.5
- ペスクタリアン(魚は食べるベジタリアン)のBMI:23.3
- ベジタリアン(卵と乳製品は食べる)のBMI:23.3
- ガチのベジタリアン(野菜のみ)のBMI:22.4
といった感じ。あきらかに肉を食べる人のほうが太っていて、菜食のレベルが高いほどスリムになっていく傾向が見られますね。
また、121,000人のデータを4年にわたって分析した2011年の研究(4)では、「もっとも体重を増やす原因はなに?」って疑問について調べてまして、その結果は、
- 1位:ポテトチップス
- 2位:清涼飲料水
- 3位:牛肉・豚肉・羊肉
- 4位:加工肉
って順番だったそうな。ここでも肉と肥満の関連性がハッキリ出ております。
もちろん、これらの論文はあくまで観察研究なので、ちょっと解釈が難しいところではあります。もともとベジタリアンは健康意識が高いケースが多いので、データに偏りが出てる可能性が大きいんですよね。
ただし、これだけ明確に数字の差が出ちゃうと、やっぱり「肉と肥満は関係アリ」と考えるしかない感じ。肉好きにはちょっと切ないデータですねぇ。
ところが「肉を食ったほうが痩せる!」ってデータもある
と、以上の数字だけを見ると「肉を抜けば痩せるんだ!」と思ってしまうわけですが、おもしろいことに、いっぽうでは「肉を増やしたほうが痩せる!」って臨床データも結構あるんですよ。たとえば、
- 19人の男女を対象に、タンパク質の摂取量を15%から30%に増やしてもらったところ「顕著な体重の減少が見られた」(2005年,4)
- 体重1kgあたり1.2gのタンパク質をふくむ肉を食べると、体型がガッツリとと改善することがわかった(2012年,5)
- 113人の男女にタンパク質の摂取量を変えて半年暮らしてもらったところ、肉の消費量が多い参加者のほうが体重は減ったままだった(2005年,6)
- 148人の男女を半分にわけ、いっぽうには1日約50g分のタンパク質を増やしてダイエットしてもらったところ、体重のリバウンド率が50%減った(2004年,7)
などなど。これは、タンパク質は食後の満足度が高いため、糖質や脂肪よりも食欲がコントロールしやすいのが原因と考えられております。実際、近ごろは「糖質制限ダイエットが効くのはタンパク質の摂取量が増えるから」って説が有力ですしね。
で、もう1つおもしろいのが2008年の実験(8)で、176人の肥満患者を集めて以下のダイエットを実践してもらったんですね。
- グループ1:ラクト・オボ・ベジタリアン(卵と乳製品は食べる菜食主義)+カロリー制限
- グループ2:普通のカロリー制限
すると1年後、両グループの結果はほぼ変わらず、どちらも体重が8%ほど減ってたんですね。どうやら、単純に肉を抜いただけでダイエットがはかどるわけじゃないみたい。
結局、肉は太るのか?
以上の話をまとめますと、
- 大きなデータで見ると肉は肥満の原因になっている
- 小さなデータで見ると肉はダイエットに役立つ
って矛盾が出てくるわけですね。うーん、おもしろい。
で、この問題に関しましては、
という2つの要素が綱引きをしてる可能性が大。つまり、肉で太らないためには、
- できるだけ新鮮で赤身の多い肉を低温調理で食べる
のが重要かと思っております。とにかく肉は食べ方次第ということで。
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