マズローの欲求5段階説って、本当の人間の欲求を反映してないんじゃない?というミネソタ大学の話
「マズローの欲求5段階説」ってあるじゃないですか。今も心理学書やビジネス本によく出てきて、マーケティングでも使われてるアレです。
マズローの欲求ピラミッドって正しいの?
これは、心理学者のマズローが「人間の欲求はどんな仕組みになってるの?」って問題をモデル化したもので、具体的にはこんな感じ。
ざっくり言えば、まずは食欲や睡眠欲のような「生理的欲求」が満たされたら、次は安心な暮らしへの欲望が芽生え、それが満足されたら友人や世間に受け入れられたい欲求が生まれて……みたいに、人間の欲望は下から順番にピラミッドを登っていくものなんだ、って考え方です。
ぱっと見はかなり説得力があるモデルなんで、ビジネスの世界ではいまでもよく使われてる感じ。確かにわかりやすいアイデアですもんね。
進化心理学で、もっと正しいピラミッドを考えてみよう!
ただし、このピラミッドはもう半世紀も前に考案されたものでして、近年は「もう時代遅れじゃない?」って声も出てきたわけです。とくに近年の「進化心理学」などの知見から見たら、マズローのピラミッドは人間の欲望を正確に反映してないんじゃないかって声が多いんですな。
進化心理学ってのは、その名のとおり「ヒトの心は進化の過程で生まれてきたものだ!」って考え方のこと。人間の心理メカニズムは、原始時代の環境に適応して進化してきたんで、たとえば人間のストレスシステムなんかは現代じゃ上手く働かない可能性が大なんですな。パレオダイエットと同じく、遺伝子と環境のズレを問題にしてるわけですね。
で、ここで紹介するのは、「欲求のピラミッドをリノベーションする」ってタイトルの論文(1)です。ミネソタ大学などの進化心理学者が、過去の論文をベースに「本当に人間の欲求にもとづいたピラミッドを作ってみたよ!」と主張する内容になっております。著者は「野蛮な進化心理学」などで有名なダグラス・ケンリック博士。
現時点でさらに精度が高い「欲求のピラミッド」
さて、176件の過去データをまとめた結果、新しい「欲求のピラミッド」はこんな感じになりました。
いやー、だいぶマズローのピラミッドとは変わりましたね。ざっくりご説明しますと、
- もっとも下の段階では、生理的な欲求(カロリーがない!とか酸素が足りない!とか)が優先される
- 次に、自分の命を守るための行動が優先される(崖から落ちた!とか虎に襲われた!とか)
- 3番目に、何らかの集団に入るのが大事になる(部族とか家族とか)
- 4番目に、その集団内での地位を求めるようになる(部族の長とか、狩猟がうまくて周囲から尊敬されたりとか)
- 5番目に、優秀な遺伝子を持つパートナーを欲する
- 6番目に、手に入れたパートナーとの関係を保つ欲が生まれる
- 最終的には自分の子供を育てるのが究極の欲求になる
って感じですね。マズローは「最終的には人間は高次の欲求に向かうのだ!」と考えたわけですが、リニューアル版では「結局、人間は良いパートナーを見つけて子孫を残すための欲求で動いているのだ!」って結論になったわけです。
まぁ言われてみれば、人間は遺伝子を後世に残すために進化してきたはずなんで、新しいモデルがこのような結論になるのは自然の話。いくら「自分の可能性を探求するのだ!」とか「統一された自我を実現するのだ!」とか言ってみても、実はその欲望は「生存と子孫繁栄」に突き動かされているとみるのが自然でしょう。
まとめ
ケンリック博士いわく、
もし人類の祖先が、自身の生物学的な欲求を”超えた”活動ばかりしてたら、私たちはいまここにいなかっただろう。
とのこと。そりゃあ原始人たちが自己実現だけに時間を使ってたら、人類はここまで栄えなかったでしょうからね。
進化生物学の考え方からすれば、「自己実現欲求」が人間の欲求の最上位に来ることは必然ではないし、正しくもない。「自己実現欲求」をピラミッドから取り除くことで、私たちはその事実に気づきやすくなるはずだ。
つまり、ぱっと見はどれだけ高尚なように見える欲求でも、そこには必ず生物学的なメカニズムにもとづいた理由があるんだ、と。このあたりは、ちょっと前に取り上げた 「消費資本主義!」って本にも近いとこがありますね。
私も、基本的には「すべての欲求はすべて『自己の生存』と『遺伝子の中継』に繋がる」と思ってますんで、この新しいピラミッドにはかなり納得(子供はいないけど)。マーケッターの皆さまにおかれましても、こちらのピラミッドを参考になされてはどうかと思う次第です。
ちなみに、このへんの話についてはケンリック博士の著書がくわしいので、興味がある方は合わせてどうぞ。